第12話 次の目標


 意気込んでみたは良いものの、まずは何からするべきしょうか。

 アメリータ様の誤解を解きたいのが一番ではありますが、お互い国の大貴族の令嬢同士です。おいそれと簡単に何度も会う機会を作れるわけではありません。

 下手をすれば何か画策しているのではないかと邪推してくる者も出てくることでしょう。


 せめてわたくしがお父様に好かれていれば……、と無い物ねだりをしても始まりません。そこでわたくしが取るべき手段は。


「アメリータ様以外のご令嬢と仲良しになることですわ!」


 間違いなくアメリータ様にとってのわたくしは以前までの我が儘令嬢としての情報しか伝わってはいないはず。その我が儘娘が自身の許嫁と抱き合っている所を見てしまえばそれは確かに思うところはあるでしょう。

 いまのまま正面から誤解を解きに赴いても芳しい成果は得られないはず。であれば、まずは周囲のわたくしへの評判を変え、自然とアメリータ様の耳に届くようにしていくことこそなによりの近道! ……のはず、ですわよね?


「……何かを為したいことがないせいでイマイチ確信が得られないというか、不安しかないというか……」


 これで失敗は成長の元! と言えるようなことであれば良いのですけれど、リセットも存在しない人間関係にそこまで言えるほど神経も図太くありません。


 そうとなれば相手選びは嫌でも慎重になってしまいます。

 お父様配下の貴族は除いたほうが良いでしょう。こちらがどれだけ仲良くしようとしても、父親の上司の娘です。それではただ取り巻きを作る結果となるだけの未来しか見えません。


 なによりも、


「ここはやはりライバルキャラですわね」


 アメリータ様の失敗は、攻略対象者とライバルキャラが共に居る場面で行動を起こしてしまったことが要因のひとつ。

 だとすれば、攻略対象者がいない時を狙って、更には主人公よりも先にライバルキャラたちと仲良しになってしまえば良いだけのこと!


 ここまで考えを巡らせたまでは良かったのですが、問題はそのあとでした。

 誰から接点を持つべきなのかまったく見当も付きません。ゲーム内ではライバルキャラ同士が元々関係性を持っている場合を除けばあとから接点を持つこともなかったために、誰が誰と仲良しか、仲良しになれるかも分からないのです。


 もっとも、ルイーザは誰とも仲良くなかったので考えても仕方ないことかもしれませんけれど……。


 誰から動いても良いとなると、誰から動くべきか背中を押してくれる何かが欲しいもの。ええ、臆病者でごめんなさいね。


「お嬢様、失礼いたします。…………、……お嬢様?」


「…………」


「お嬢様? ルイーザお嬢様! ニクラです! お嬢様!」


「え? あ、ご、ごめんなさい! 少しぼぉっとしていたわ、入ってちょうだい」


 心配してくれたのは嬉しいのですが、手に持っているその手斧はいったい……。そもそもどこから取り出したのですか。


「ご無事ですかお嬢様!!」


「え、ええ。少し上の空で、ええと……、ニクラ? その手に持っているものは」


「お嬢様を御守りするためのものです」


 笑顔で手斧をスカートの中へと収納する彼女にわたくしはもう何も言えなくなってしまいました。ニクラ、貴女少し前までまるで子兎みたいに震えていたというのに……。


「と。ンッ、ところで何か用事かしら」


「ああ、そうでした! お嬢様、まもなく魔法のお勉強のお時間ですのでお呼びに伺いました」


「ああ……、もうそんな時間……、そうだわ!!」


「は、はい?」


 このままでは何も決められずに時間だけが浪費してしまう性格なのはわたくしが一番良く分かっております。

 せっかく思いついたのです、であれば行動あるのみですわ!!



 ※※※



 この世界には魔法という概念が存在しております。

 魔法は火、水、風、土、雷、そして光、闇の七つの属性が存在しております。とはいえ、光と闇に関しては伝説の属性と言われているので実質は五つとなります。


 人にはそれぞれ得意な属性というものがあり、だいたい得意属性は一つですが、時折二つ、そして真に才能ある者は三つ、四つと使いこなすと言われております。

 わたくし、ルイーザ・バティスタの得意属性は水。とはいえ、悪役令嬢らしく魔力量そのものが低いために大した魔法は使えないのですけれどね。


 魔法は貴族だけが使える選ばれた能力であり、魔力量の高さや得意属性の多さはそのままステータスにも繋がります。この辺の事情も、ルイーザが主人公を嫌う理由の一つでもあるのですが。


 とはいえ、世界が戦争状態であった百年前ならいざ知らず、平和な時代であるいまは、魔法至上主義のような考え方は古くさいとされています。古くさいということは、しっかりと根付いている所には根付いているのですが。


 そして、『マジカル学園7 ~光の聖女と闇の魔女~』の攻略対象にはしっかりと魔法の魅力に取り憑かれた青年も出てくるのです。

 青年の名前は、オズヴァルド・シモンチェッリ。シモンチェッリ家の嫡男ではあるのですが、後継者はすでに弟であると決定されております。

 それは、彼が自他共に認める魔法馬鹿であるから。領地経営など出来るはずないと泣く泣く現当主様は、後継者を次男へと変えたというのは貴族の中では有名なお話です。


 ですが、後継者争いで揉める家が少なくないなか、穏便に事が進み、かつ、兄弟仲は大変宜しいというのは幸せな話ではあるのでしょう。弟さんは、ゲームでは出てこない設定上の存在でしたが。


 オズヴァルド様ルートに突入した際は、伝説と言われる光属性を使いこなす主人公に関心を持ったオズヴァルド、少しズレた彼との掛け合いを楽しむことになります。そして当然、彼のルートにもライバルキャラは存在しております。


 ローザ・スピッツィキーノ。

 オズヴァルド様に負けるとも劣らない魔法オタクにして、彼の助手を務める貴族令嬢です。彼女もまた、取り憑かれた魔法好き故にお家から色んなことを諦められた存在でした。

 偶然オズヴァルド様に出会った時に意気投合した二人を見て、両家はようやく息子と話の合う相手が居た! と号泣して手を取り合ったとか。


 そのような関係性のため、二人の間に恋愛感情は皆無なのですが、バッドルートでは数年後の未来として周囲からの圧力が鬱陶しかった二人は仮面夫婦としてある意味でどこよりも仲良く生涯を共にすることになります。

 恋愛感情が皆無なため、オズヴァルド様ルートに突入してもローザとの仲が悪くなることはありません。むしろ、彼女もまた伝説の光魔法の使い手である主人公に積極的に絡んでいくことになります。


 そうです!

 恋愛感情が皆無だとすれば、今回はオズヴァルド様がわたくしの障害になることはないのです!

 問題は、わたくしの魔法属性がありきたりな水であり、かつ、魔力量も乏しい現実にあるのですが、そこはなんとかしてみるのが気合いというもの!


 魔法オタクとして周囲と接点を持たない彼女であれば、わたくしの悪い評判も気にしないはず。それはつまり、仲良しになっても周囲に評判が伝播することはないということで本末転倒感は否めないのですが、この際そこはあえて目を瞑りましょう。


 では、さっそくお茶会のお誘いと参りましょうか!!

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