第11話 ライバルキャラ同士のライバル宣言
まだ鳥肌が収まりません。
前世ではただしイケメンに限るという言葉も御座いましたが、無理やり駄目絶対! まさに身に染みて認識いたしました……。
「っと、立ち止まっている場合ではありませんわ」
パシン。
頬に一度気合を入れまして、アメリータ様探しを再開しようとしたまさにその時でありました。
「どなたですかッ」
背後の低木ががさりと音を立てました。
まさか、もうダンテ様が追いかけてきたというのでしょうか。だとすればなんと諦めの悪い。
「……え」
もう一発までなら許されるでしょうか、とわたくしの頭を巡った考えが吹き飛んだのは、予想に反して目の前に現れた小さな少女のせいで御座いました。
「アメリータ様!」
ああ、なんということでしょう!
姿を御隠れになられたアメリータ様が自ら出てきてくださったではありませんか! さきほどの会話でのシミュレーションに沿わないことばかりでしたが、それはきっと今この時のために布石!
ここからわたくしとアメリータ様との麗しき友情物語がスタートす、
「わた、しはッ!!」
「は、はい!?」
驚かずにいられましょうか。
あの内気なアメリータ様が。人見知りが激しく、主人公が現れるまで彼女が大きな声を出す姿を見たことがないとまで言われていた彼女が。
「……ッ! ぁ、く……ッ!」
まさしく精一杯。
小さな身体に宿るちっぽけな勇気を全て絞り出すように。この時を逃せば自分を一生好きになれないと崖っぷちに立っているかのように。
「私、は……!」
彼女の瞳に浮かぶのは、
あれほどまでに人の目を見ることから逃げていた彼女がまっすぐ向けるその瞳に浮かぶのは。
「わ、私は貴女には絶対に負けません……!」
どうして。
「ダンテ様、を貴女には……、渡しませんッ!!」
ライバルキャラのわたくしが、
主人公ではなく、
同じライバルキャラであるアメリータ様から。
ライバル宣言を受けなくてはならないというのでしょうか。
「それを、言いにまいり、ま、したァ!!」
どれほどの覚悟があってのことでしょう。
過呼吸気味になってしまっている彼女が冗談で言っているわけがありません。その声が、その御顔が、その身体が、その全てが。
彼女の本気を物語っておりました。
視界がブレる。
揺れているのはアメリータ様? 勇気を使い果たして震える小さな少女?
いいえ、違います。
揺れているのは世界。わたくしのすべて。
「……ぁ、……ぇ、あ……っ」
声が出ない。
何を言うべきか、何をすべきか、まとまらない。
待って、
待って!
待ってください!!
わた、わたくしは! わたくしはただ!!
「し、つれい、致します!」
貴女とお友達に!!
背中を向けるアメリータ様を追いかけることも出来ず、全身の力を失ったわたくしは膝から崩れ落ちる他ないのでありました。
※※※
あれからどのように自宅へと戻ったか覚えておりません。
出迎えてくれた爺とニクラによれば、アルバーノ様と二人仲睦まじく帰宅したとのことですが、本当なのでしょうか。
いつぶりになるか分からないお父様からのお褒めの言葉が記された文を頂いても、お母さまから異常なほどお褒めの言葉を直接頂いても、わたくしにとってはどうでも良いことでありました。
――わ、私は貴女には絶対に負けません……!
「ぐふッ」
嘘だと、記憶間違いだと思おうとしてもそのたびに脳内に繰り返されるあの日あの時のアメリータ様の御声。
あれほど聞きたかったアメリータ様の生声が、前世ではわたくしを癒してくださった彼女の生声が、
「どうして……、こんなことに……ッ」
何がいけなかったというのでしょう。
アルバーノ様と踊ったことに間違いはなかったはずです。問題はそのあと、もしかすればダンテ様に抱きしめられ剰え唇を奪われかけたあの場面を見られたというのでしょうか。
ですが、だとすれば疑問が生じます。
ダンテ様ルートでダンテ様が主人公にあそこまで積極的行動を取ることはなかった。それでも、ダンテ様と関係を持つ主人公にアメリータ様が嫉妬することはなかったのです。むしろ、自分では出来ないことをやってのける主人公に憧れを持ち、自身をより嫌悪して閉じこもってしまう。
相手に嫉妬するのではなく、自分が悪いと自分を責めてしまうような性格の持ち主がアメリータ様であったはず。
相手がわたくしだから?
所謂主人公補正は攻略対象だけでなくライバルキャラにも影響していた?
分からない。
考えても分からない。
分かることは、
「アメリータ様に嫌われた……ッ!!」
前世からの推しに嫌われた。
たったそれだけと笑うでしょうか。一人に嫌われてそれがどうしたと笑うでしょうか。
勝手にお笑いになってください。
わたくしは、わたくしは……。
――コン、コン
「ルイーザお嬢様、起床のお時間です。起きてください、お嬢様」
「……、すぅ……、……、どうぞ」
何もかもを投げ出して叫びたい心を空気と一緒に吸い込んで、わたくしは精一杯の明るい声で扉の向こう側へと応えた。
「おはようございます、お嬢様! 本日も心地よいお天気ですよ!」
「おはよう。ええ、そうみたいね」
まるで貴女のように。
太陽すら裸足で逃げ出す笑顔で入ってくるニクラに心配をかけるわけにはいきません。もしも心配させてしまっても理由が説明出来ないことですし。
「本日の朝食は、採れたてオレンジをジャムに使用しております。シェフ自慢の一品でぜひお嬢様に食べて頂きたいとのことです!」
「それは楽しみだわ。あ、そうだ。悪いのだけど、今日はコーヒー用の砂糖とミルクを準備しておいてもらえるかしら」
いつもはブラック派のわたくしではありますが、このような気分の時はせめて少しでも甘味を摂取しておきたい。
それが気休めなのは分かっておりますけれども。
「……どうかしたかしら?」
元気良い彼女の返事がないと顔を向ければ、彼女は奥歯に何か挟まったかのようにわたくしのほうを見つめておりました。
「か、勘違いであれば良いのですが……」
「だから、どうかしたの?」
それはまるで悪役令嬢ルート真っ最中のわたくしに対する時の彼女のようで。何かに怯える彼女の態度に、わたくしは何かしてしまったのでしょうか……。
「もしや、何やらお悩みになってはおられませんか?」
「どうして、そう思うのかしら」
ずばりと言い当てられたことを表に出すことはない。
この程度で揺らぐようではな御令嬢などやってはいられないのです。
「い、いえ! 私の勘違いであれば良いのですッ! 変なことを申しました! お許しください!!」
「良いのよ、心配してくれたのでしょう? ありがとう、ニクラ」
「勿体ない御言葉です……! あ、お着換えをッ!」
「ええ、お願いするわね」
自分で着替えることくらい出来るのだけれど、わたくしほどの身分の者が一人で着替えてしまえば誰に何を言われるか分かったものではありません。
あくまでも普通の御令嬢として。わたくしはそう生きるのです。
「……お嬢様」
「なにかしら」
始めは戸惑いましたが、数度繰り返してしまえば他人に着替えさせられるのも慣れたものです。
どのタイミングでどうすれば良いか分かってしまえば、あとは任せれば良いのですから。
「私は、お嬢様の味方ですッ! たとえ、誰が何を言おうとも!!」
「もぉ、大げさなんだから」
「ほ、本当です! 本当ですよ!!」
「ええ、勿論分かっているわよ」
彼女の言葉にくすくす笑う。
ことが出来た自分を褒めてあげたい。
きっとニクラはどうしてわたくしが落ち込んでいるか知るはずもなく、想像しても当てることが出来ないほどおかしなこと。
それでも、彼女の言葉に救われているわたくしが居るのは事実なことで。
そうですわね。
嫌われた程度で諦めてはいけませんね。
誰に何を言われようとも、それは決して褒められることではなかったけれど、結末は粛清になってしまうけれど、それでも自分を貫いたのがルイーザ・バティスタです。
であれば、落ち込んでいる暇がどこにあるというのでしょう。
何が出来るか分からないのであれば、何かすれば良いだけのこと。
事を成したと胸を張る人生を送る。
あの時決めたことをやり切ってみようといたしましょうではありませんか!
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