第7話 わたくしの野望
アルバーノ様に好意を持たれ始めていることよりも、
ダンテ様に興味を持たれ始めていることよりも、
そんなことが小さく些細なことであると思えてしまうほど、いまのわたくしは窮地に追い込まれておりました。
まさか、
まさか……。
「わ、私は貴女には絶対に負けません……!」
ライバルキャラであるわたくしが、同じくライバルキャラからライバル宣言を受けてしまうだなんて。
待ってください、違うのです! わたくしは貴女と仲良くなりたく! 欲を言えば将来を誓う仲になれたらどれだけ嬉しいかとしか考えておりません!!
口に出せば狂人認定待ったなしの台詞を言うわけにもいかず、わたくしは可愛らしく大きな瞳に大粒の涙を携えてわたくしを睨みつける一人の少女の前で茫然と言葉を失うほかなかったのです。
ああ、どうして
こんなことに……。
※※※
事の発端は、とある舞踏会の招待を受けたことにありました。
「お嬢様! とてもお似合いで御座いますッ!」
「ありがとう、ニクラ」
相変わらず顔を見せることのないお父様から届いた新品のドレスにそでを通す。どれだけ美しく着飾ろうともそれは政治の駒であることを強調しているだけであり、あまり嬉しいものではありません。
とはいえ、目の前で瞳を輝かせるニクラが本心で褒めてくださっているのは分かります。彼女の素直さに一時とはいえ心救われても良いのではないでしょうか。
「どうして貴女のほうが緊張しているのかしら」
「あ、当たり前ではありませんか!」
わたくしの部屋には、わたくしと彼女の二人きり。さきほどからニクラはあちらへうろうろ、こちらへきょろきょろ。
「本日は初めてアルバーノ殿下がお嬢様をお迎えに参られるというのです! これを緊張せずしていつ緊張いたしましょうか!」
「大げさなんだから」
形ばかりの許嫁であった当時は、アルバーノ様がわたくしを迎えに来てくださることはなく、現地でのお会いさせていただくばかりでありました。
そのことにお父様はわたくしの不出来のせいだと、舞踏会のあとはいつも不機嫌になっていたそうです。とはいえ、別邸に近づかれることはありませんので、迷惑を被っているのはお父様の側近の方々だけでしたでしょうが。
「お嬢様」
このままでは祈祷でも初めてしまいそうな勢いのニクラに苦笑するしか出来ずにいると、扉をノックする爺の声。
「アルバーノ殿下がお待ちで御座います」
「ありがとう」
「ぉぉ嬢様!!」
戦いの場にいざ参りましょうか、と立ち上がるわたくしの手を、ニクラが強く握り取りました。
「お嬢様はとても! とてもお綺麗で御座います!!」
「……ありがとう」
実は緊張していたことがバレていたのでしょうか。
いくら記憶があろうとも、どれだけ家庭教師の先生と練習を繰り返そうとも、わたくしにとってはこの舞踏会が初めてなのです。
握りしめてくれたニクラの手から伝わる体温に、わたくしは勇気をもらえた気がいたしました。
「ルイーザ嬢!」
「アルバーノ様、今宵は宜しくお願い致します」
「エスコートはお任せを。それにしても」
さすがはルークス王国第一王子と言えましょう。
一目で高級品と分かる衣装を身に纏いながら、決して服に着られるなどという醜態を見せることはなく、齢十歳にして上に立つ者の気品の一端を放っておられるようです。
「勿論普段もお美しのですが、今宵のルイーザ嬢はまさに妖精の如きお美しさです」
「身に余る光栄に御座いますわ」
アルバーノ様の言葉はともかく、十歳の少年少女がエスコートすることもされることも慣れているというのは、前世の記憶を持つ身としてはなんとも末恐ろしい気分になってしまいます。
その後も、いままではわたくしのことなど一切興味を示されていられなかったアルバーノ様からの歯が浮きそうになるお褒めの言葉を頂きながら、わたくし達はアルバーノ様の馬車にて舞踏会の会場へ向かうのでした。
本日の舞踏会はタロッツィ家で開催されます。
そしてこの家にもゲームで重要な立ち位置を持つキャラクターが存在いたします。その名も、
アメリータ・タロッツィ。
大貴族バティスタ家に唯一肩を並べるタロッツィ家の御令嬢にして、『マジカル学園7 ~光の聖女と闇の魔女~』のライバルキャラの一人です。
彼女はダンテ様の許嫁であり、当然ダンテ様ルートを選択した場合のライバルとなります。
ですが、主人公とライバル関係になるといってもルイーザのように彼女が主人公を虐めることはありません。むしろ、主人公の友人として仲睦まじい姿をみせることになります。
彼女もまた公爵令嬢ではあるのですが、その性格はルイーザとは真逆と言って良いものであり、引っ込み思案で儚げな美少女として主人公の前に君臨することになります。
ゲームの公式イベントで実施された「○○にしたいキャラランキング」で、妹・弟にしたいキャラ第一位を獲得したこともあるそうです。
ルイーザですか? そのランキングでは、とあるルートで一瞬だけ出てくる「パン屋でパンを盗むスラム街のおっさん」にすら負けておりましたね。
アメリータ様は、幼き頃城の薔薇園で出会った優しき少年に一目惚れいたします。その正体はダンテ様であり、彼女はダンテ様の許嫁となれたことをなにより喜ぶのですが、アルバーノ様に嫉妬し日に日におかしくなっていくダンテ様をどうすることも出来ず、自分の不甲斐なさ故にどんどん殻にこもっていくことになります。
その殻を解き放つのが主人公です。そのまま、主人公がダンテ様を優しく癒していくのを応援するのがハッピーエンドの流れであり、ゲームとしてはバッドエンドであろうとも、主人公が彼女を応援することを選択すればダンテ様とアメリータ様は末永く幸せに暮らすことになります。
そのどさくさで主人公を虐めていたルイーザはあっさりと粛清されます。
ランキングでの人気の高さからも分かるとおり、あえてダンテ様ルートではバッドエンドを選択した女性が多かったというゲームとしてそれで良いのかという結果にもなってしまったとか。
かく言う、前世でのわたくしも思わずダンテ様バッドエンドは二回も見てしまいました。
そうです!
そうなのです!!
つまり、アメリータ・タロッツィはわたくしの推しであるのです!!
彼女と結ばれる運命があるというのであれば全力で推し進めたいところですが、彼女はダンテ様と仲睦まじくなってほしいという気持ちもありますので、ここはわたくしは彼女の親友ポジを狙うことに致しましょう!
申し訳ありませんわ、まだ見ぬ主人公! ですが!! だって!! 彼女がとても可愛いんですもの!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます