第3話 身内にまで恐れられてこその?


『マジカル学園7 ~光の聖女と闇の魔女~』は、出現する会話選択肢のなかから自身の答えを選択して話を進めていくノベルゲームです。

 魔法という概念が存在している世界のなかで、魔法とは本来貴族しか持つことが出来ない特別な力でありました。

 平民の出でありながら魔法を、それも伝説と呼ばれる光属性の魔法を扱うことが出来た主人公は、世界最高峰の魔法学校に通うことになり、そこでイケメン達との恋愛を楽しみながら、切磋琢磨し、闇の魔女を倒すというお話になります。


 攻略対象には、王子様や優秀な貴族、隠しキャラのひとりに魔女の手先である暗殺者など多種多様な属性を持つイケメンたちに溢れております。

 そして、攻略対象にはそれぞれライバルキャラと呼ばれる女性キャラが居ります。主人公は彼女たちと時には戦い、時には協力しながらイケメンと結ばれるために頑張るのです。


 わたくしの名前は、ルイーザ・バティスタ。

 メイン攻略キャラのひとりであるルークス王国王子アルバーノ・ルークス様の許嫁として登場するキャラクターです。

 彼女に与えられた役割は悪役令嬢。形ばかりの許嫁であるアルバーノ様の心が主人公に傾いて行くことを恐れた彼女は、あの手この手で主人公に嫌がらせを行い、そして、卒業式の日に大勢の人の前でその悪行を暴かれ殺される。簡単に言えば、粛正イベントが行われるキャラクターです。


 そして、彼女にはもう一つ特徴があります。

 それは、どのルートを通ろうとも主人公を虐める主犯であり、そして、殺されるということ。


 仮に彼女の許嫁であるアルバーノ様ルートを選択しなかったとしても、時に大々的に、時にはたった一行でさらっと。されども確実に殺されてしまうのです。


 それはバッドエンドであろうとも同様であり、ハッピーエンドよりは重要性は低くなりますが、それでも殺されてしまうのです。

 かくいう、前世にてバッドエンドばかりを遊び続けたわたくしも、何度もわたくしが殺されてしまうのを確認しております。


 もはや作成会社が彼女に恨みがあるとしか思えないほど彼女の生存確率は驚異の0%であり、まさに死ぬために生み出されたキャラクターなのでした。


 他のライバルキャラ達のなかには、主人公と仲良しになるキャラクターも多いというのにこの差はあんまりと言えないでしょうか。

 いわゆるざまぁ展開が好まれることは知っておりますが、それが自身に降りかかるというのであれば話は別です。


 なんとしても粛正イベントを回避しなければ……!!


「と、意気込んだまでは良いものの……」


 前世での家がすっぽり入ってまだおつりが出るほど広大な書庫でこの世界の歴史について調べていた私は、読んでいた本を閉じて思わずため息を付いてしまいました。


「いったいどうすれば良いのでしょう……」


 ようやくお母様の監視の目が弱まり、家の中限定で出歩くことを許されたわたくしでありますが、思った以上に手の打ちようの無さに頭を抱えてしまいます。

 アルバーノ様と許嫁にならなければ良いと思ったのですが、わたくしと彼は生まれた時から結婚が決められている関係であり、すでに許嫁の契約は結ばれたあと。

 無理を承知でお父様に許嫁の契約の破棄を求めようとも、


「わたくしはお父様に嫌われておりますし……」


 前世ではネット知識として、そして今生では身をもった経験として、ルイーザ・バティスタが父であるカールミネ・バティスタに疎まれていることは確実です。


 実は、わたくしはカールミネ・バティスタの実の娘ではなく、お母様が実の兄との間に設けた不義の娘なのであります。

 それが分かっているからこそ、お父様は滅多にお母様とわたくしが暮らすこの別邸に訪れることはありません。父親からは疎まれ、政治の道具としてだけ扱われ、母親からは叱られることなくただ甘やかされて育つ。そんな曲がりきった環境で育った彼女が我が儘令嬢になってしまうのは仕方の無いことだったのでしょう。


 なかなか重いこの設定には実は、続きがあります。

 わたくしがお母様とお母様のお兄様との子であるというのは誤解であり、わたくしは本当にお父様とお母様との娘なのであります。

 ですが、それを証明する手段が存在せず、彼女は粛正イベントで殺されることからファンの間でも賛否両論な意見に別れておりました。

 とはいえ、そもそも不義の娘である設定自体もゲームをするだけでは明かされることはなくファンブックなどを購入して初めて明かされる真実であり、それを踏まえたとしても彼女が主人公に行う嫌がらせが非道なため別に良いんじゃないかと言う意見のほうが強かったように記憶しております。

 わたくし自身、前世でネットを彷徨っている時にたまたま見てしまいましたが、ふぅん、としか思いませんでしたし。


 さて、そうなってまいりますと、いまのわたくしはお父様からすればただの政治の道具です。そんなわたくしがお父様に破棄を訴えようものなら何をされるか分かったものではありません。もしかすればゲームが始まる前にバッドエンドを迎えるかもしれません。そんなことはまっぴらごめんです。


「ル、……ルイーザお嬢様……!」


「あら、なにかしら?」


「申し訳ありません! 間もなく、お勉強の時間となりますのでお、お呼びにまいりました……、お、お許しくださいッ!!」


 狐に睨まれたウサギのように縮こまるメイドの態度に、いままでのわたくしがどれほど横暴だったか目の当たりになってしまいます。


「……はァ」


「ひィ!? お、お許しを!! なにとぞお許しを……ッ!!」


「あッ! ち、違うのよ! いまのは貴女に対して溜息をついたわけではなくて、ええ、お勉強の時間よね。教えてくれてありがとう、すぐに向かうわね」


「ありがとう……、お嬢様が、ありが……はぅ……」


「ちょっと!?」


 一言感謝を述べただけでメイドが気絶するとか、わたくしの横暴はいかほどのものだったのか。いや、分かっている。前世の記憶が戻るまでの。ただのルイーザとして生きてきた間の記憶だって確かに残っているのだ。だからこそ、わたくしは彼女たちにどのようなことを行ってきたか理解している。しているけれど。


「だ、誰かーッ!!」


 お願いだから感謝しただけで気絶しないでちょうだいよォ!!

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