第8話 パーティープレイ
死んだ。
この強さ、間違いなく廃人レベルのPK。
ついてない……。
「落ち着けよなつめ、あんなPK行為を見せつけられちゃビビるだろうがよ」
諦め両手を上げたところ、緑の外套を纏っている男が間に入った。
「PKじゃなくてプレイヤーキラーキラーでPKKですよぅ! 野蛮なPKと一緒にしないでください!」
「俺にとっちゃぁどっちも似たようなもんだがなぁ」
PK、プレイヤーキラー。
リアルで言う殺人行為を行ったプレイヤーには幾つかのデメリットが課せられる。
そのデメリットの1つが名前表記のカラー変更。
PKを行ったプレイヤーは1度死ぬまで名前表記が赤くなる。
だが、目の前のなつめの名前表記は白い。
理由はただ一つ、PK行為を行ったプレイヤーを殺した場合、名前の表記は変わらないからだ。
「私はなつめといいます。あんな事があった後ですが、私はPK以外には手を出さないのでご安心下さい!」
「俺はデニス、信じられないかもしれないがこいつの言ってる事は本当だ」
「いえ、どの道戦っても勝てそうもないので信じますよ。僕はコイルと言います、どうぞ宜しく」
<DAWN>でのマナーである自己紹介を終える。
「それにしても珍しいな、ソロでこんな遠くまで来てる奴は初めて見たぜ」
「僕は基本ソロ専門の探検家なんです。
案外工夫次第で遠出も可能なんですよ、ソロでもね」
「すごいですね、コイルさん!
私ソロで遠出なんてした事ないですよー」
「そちらこそ、2人でここを突っ切ってくるのも凄いと思いますよ?」
「あー、俺たちは近くにある拠点を借りてこの辺まで転移して来たからな、実際ここまで遠出して来たわけじゃねぇ」
<DAWN>ではPTさえ組めばPTメンバーの簡易拠点を使用する事が出来る。
町からほどほどに離れたところに拠点を張り、それを有料で貸し出すことで金策としている者もいるほどだ。
かくいう僕も時々利用させてもらっている。
「赤ネームの2人組を見た、という噂があったので出張です!」
あの2人をそんなに殺したかったのか……。
「そちらさんは、なんでこんなところに1人で?」
「掲示板で噂になっているんですよ、そこの遺跡に特殊なNPCが出るって」
そこです、と僕は指を刺す。
なつめによる先の斬撃の影響で木々は切断され、先ほどまでは見えなかった遺跡が姿を表していた。
石を組み上げて作られた遺跡は、巨大な寺院のような建物を中心に何本もの柱が周囲に点在している。
寺院の中央には巨大な顔らしき石像、だがすでに崩れ落ちており詳細は分からない。
「特殊なNPC?」
「えぇ、噂によれば青い服を着た少女のNPCだそうです。
普通のNPCとの違いは名前の表記がバグっている事、モンスターに襲われていないことの2点ですね」
このゲームはNPCであっても容赦なくモンスターに襲われる。
プレイヤーはNPCを殺害することは出来ないが、モンスターに襲われた場合はNPCでも死亡する事がある。
以前、このシステムを利用し、モンスターを引き連れてNPCの農村を破壊したプレイヤーが居た。
結果として農作物アイテムの流通が減少、全プレイヤーにとって必須アイテムである食料品の価格が向上、犯人は当然晒され、全プレイヤーの敵となった。
結局多くの人に粘着PKされ、引退を余儀なくされたらしい。
それ以降NPCの意図的な殺害は禁止である、というのが<DAWN>のマナーとして定着した。
「ほー、なんともそりゃ不思議な話で」
「見てみたい! 私たちも行きましょうよ!」
げ、ついてくる気なの!?
「べ、べつにいいアイテムとかありませんよ?」
やめてくれ、僕はゆっくり探索したいんだ。
「ふふーん、たまにはそういう冒険もいいじゃないですか。
おじさんもいいですよね?」
「俺は別に構わねぇけど、そちらさんはいいのかい?」
僕がソロでやっている理由は簡単だ。
やりたい事が出来ないから。
なぜなら僕は……断れない男なんだ。
「では、ぜひお願いします。
あ、僕戦闘は弱いので足を引っ張ってしまうかもしれません、頼りにしていますね」
僕は満面の作り笑いでそう答えた。
……
遺跡への入り口は崩れた巨大な顔の下にあった。
瓦礫が重なり狭くなっていた入り口を、身体を屈めながら3人で潜り抜ける。
思っていたよりも通路は広い。
壁には独特な文様が刻まれているようだが、青白く発行する苔に覆われており、細かいところまでは確認することが出来ない。
「お2人とも、探索系のスキルはお持ちですか?」
「俺は《隠密》と《索敵》がレベル10だ、あとはねぇな。
ちなみにこいつは何も持ってねぇぜ」
なつみは力強く頷いている。
「では、僕と一緒に《索敵》をお願いします。
一人でやるよりも確実なので」
「あいよ」
2人揃ってスキルを発動。
スキルは視力や聴力の強化をしてくれるが、実際にそれらを使って敵を見つけ出すのは自分の力。
であれば2人で警戒したほうが確実だ。
「それでは行きましょうか」
3人はゆっくりと通路を歩き始める。
遮蔽物が殆どない、外は結構崩れているが中はあまり損傷していないな。
隠れるところの無いダンジョンでのソロ攻略は骨が折れる。
今回ばかりは2人が居て正解だったかもしれないな。
「あ、宝箱ですよ!」
二手に分かれた通路に迫った瞬間なつめが駆けだす。
「あ、おい!」
ダンジョン攻略のお約束。
宝箱が置かれた通路の奥からは何本もの矢が放たれる。
だが、なつめは止まらない。
驚異的な動体視力で矢を補足、壁を駆使した立体的な軌道で矢の間を掻い潜る。
「ふふん、どうですか!」
宝箱にたどり着いたなつめはドヤ顔。
そして突き刺さる相手のいなくなった矢は奥にいた僕に何本も突き刺さった。
訂正、やっぱり僕はソロが良い。
その後はいわゆる定番トラップ、落とし穴やでかい球体、槍などに襲われつつも最深部寸前にまでたどり着いた。
この<DAWN>、フィールドやシステムは現実的なのに、なぜか今回のトラップのような古典的なゲーム、っぽい部分がある。
何かしらの理由があるのか、それとも製作者の趣味なのか。
趣味だとしたら悪趣味だと言わざるを得ない。
トラップを踏むのはなつめさんなのに彼女は無傷で僕はボロボロ。
もうトラップはごめんだ。
「さて、この先が最深部ぽいが、結局モンスターは1匹も出やしなかったな」
現在、女神のような装飾が施された巨大な扉の前で、僕たち3人は休憩中である。
「そうですねー、せっかくダンジョンに来たのなら悪魔さんと戦いたかったです」
「なつめさん、くれぐれもこの先のモンスターと戦うのはやめてくださいね」
「この先に悪魔さんがいるんですか?」
「噂では、この扉の先に凶悪なモンスターが待ち受けていて、その奥にNPCがいるようなんです。
ただ、どうにもそのモンスターが相当に強いようで……。
NPCに関しての情報が目撃情報しかないのはそのせいみたいなんですよね」
「モンスターについての情報はないのか?」
「それがどうも、行ってみてのお楽しみだそうで」
ソロプレイヤーは偏屈なんです。
「んーむ、戦わないならどうするつもりなんだ」
「どうにか気づかれないようにいくしかないですよね」
現場まで来たのはこれが初めて、正直初回は様子見程度のつもりでいたのだから綿密な作戦なんてあるわけない。
「んー、私たちが戦ってる間にコイルさんがNPCに近づくほうがいいんじゃない?」
「俺も戦うの前提かよ、まぁいいんだけどよ」
「いいんですか?」
たしかに、そのほうが効率はいい。
でも、いいのだろうか、2人だってNPCは見たいだろうに。
「無理言って付いてきたのは私たちですからね!
それに強敵と戦うのは楽しいです」
今までPTを組んだ時、僕を尊重してくれる人たちはいなかった。
僕はなんでも人の意見を肯定する、自分のない人だと思われていたのだろう。
だから、それが嫌で僕はソロプレイヤーになった。
「今回の主役はコイルだろ? なら俺たちは生贄になるぜ」
「なつめさん、デニスさん……、わかりましたお願いします!」
でもこの2人は違うみたいだ。
ソロでは決して取れない選択肢、今回はこの2人に甘えよう。
「では、先に2人が扉に入りモンスターの注意を引く。
その
「それでいいぜ」
「頑張って戦いますよ!」
「では、お互い頑張りましょう」
「おう!」 「はい!」
そして2人は扉を押し開けた。
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