第7話 ソロプレイヤー
「よし、情報収集は十分だ」
僕は開いていた棒匿名掲示板のウィンドウを閉じる。
今日こそは碑文のありかを暴いてみせる。
そう思いながらヘッドセットを着用した。
……
『Welcome to the <DAWN>』
いつもの暗闇が終わると目に入るのは岩壁に生えた一面の光る苔。
ここは僕の設置した拠点だ。
この<DAWN>ではプレイヤーの設置した拠点はモンスターに襲われるもの、というプレイヤー間の共通認識がある。
だが、僕に言わせればそれは違う。
セーフティゾーン、モンスターの襲撃の無い場所が<DAWN>には存在している。
正確に言えばモンスターに襲われる事ない土地では無い。このゲームにはモンスター同士の縄張り争いや生態系という物があり、中にはモンスターへは攻撃するがプレイヤーに対しては防衛以外はしないモンスターも存在している。
そういったモンスター達の中でも強力な奴の縄張りに拠点を建てる事で、拠点への襲撃の確率はグッと減る。
もっとも、この手の情報は攻略サイトなどには殆ど乗っていない。
理由は簡単、このゲームはPT攻略が主流となっているからだ。
モンスターの生態系などからこれらの場所を予測してセーフティーゾーンを割り出すわけだが、これには長期間にわたるモンスターの観察などが必要だ。
だが、PTプレイ中に長期間の観察を行うことはほとんどない。
PTプレイが前提の者が観察系のスキルを取得している事も少なく、それらの要因によりこういった情報を得ている者は基本的にはソロプレイヤーである。
そして大概、この<DAWN>でソロプレイを行うものは偏屈なものが多い、それ故に情報を隠している者が多く、世間一般には出回りにくい情報となっている。
そして僕はその偏屈なソロプレイヤー、というわけだ。
「さてと」
アイテム欄から双眼鏡を選び装備する。
中空から現れた双眼鏡は自然と僕の首にぶら下がった。
「《隠密》」
スキルを発動し、モンスターからの発見を未然に防ぐ。
「いきますかね」
そうつぶやき、薄暗い洞窟を抜ける。
入り口から刺す光はそこまで強くない、理由は洞窟を外に出れば一目瞭然。
視界に入るのはあたり一面を覆いつくす植物。
肌にまとわりつくような湿気と暑さ、詰まるところここはジャングルというわけだ。
まぁ、実際よりもかなり大きいんだろうけど。
木々の高さは大きい物で大体20m程度、小さい者でも僕の背丈の3倍は超えている。
所狭しと並んだ木々が強烈なはずの太陽光を遮断しておりあたりは薄暗い。
「気を引き締めないと」
《隠密》を使用してはいるが、ここにいるモンスターのなかには最高レベルの《索敵》持ちが存在している。
《隠密》はスキルレベルが上がるほど相手からの視認率を低下させ、自分が出す動作音も減少させる。
対して《索敵》は真逆、視界に入った生物の認識率を増加させ、遠くの音が鮮明に聞こえるようになる。
同レベルだとスキル同士が相殺し合う為、お互いに効果無しという結果になってしまう。
そして大概高レベルの《索敵》持ちはレベルが高い。
探索向けのスキルに多くを割いている僕としては、出来る限り強い相手とは戦いたく無い所。
双眼鏡を駆使し、遠方からモンスターの位置を把握、時に遠回りになったとしても戦闘を避け目的の場所へ緩やかに歩みを進めていく。
僕の目的地はこの熱帯雨林の奥にある巨大な遺跡だ。
ソロプレイヤーのコミュニティで噂になっている特殊なNPC、そいつに会いたい。
正確に言えば情報の発端は某匿名掲示板だった。
<DAWN>ではこの手の噂は腐る程ある、特に匿名掲示板にある噂なんてまぁ当てにならない。
だが今回はコミュニティで目撃した、との報告があった、であればそれはほぼ真実だ。
僕には<DAWN>に関して自論がある。
セーフティゾーンが小さな観察の結果で見つかるように、この世界の物事には全てヒントが隠されているのではないか、という自論だ。
現在、碑文を探し求めている探索者の殆どが人海戦術、つまり数に物をいわせた総当たりでフィールドを探索している。
僕はこれは間違っている探索方法なのではないかと思う。
このゲームにはクエストという概念が殆ど無い。
だが、その割には意味深な紋様などが刻まれた遺跡などが各地に存在している。
クエストに使わないのであればこれは一体何なのか、その答えが碑文へのヒントなのではないか。
そして、今目指している謎のNPCも碑文へのヒントを指している、そう信じ深い木々をかき分けジャングルの奥へと進む。
「そろそろのはずなんだけどな」
外部ネットワークに接続し、攻略サイトに載っている有志の作った地図を映し出す。
「この辺か」
周囲の様子と照らし合わせると目標地点まではあと僅か、もし視界を塞ぐ植物が無ければもう見えているはずだ。
「あと一踏ん張り」
そう思い《隠密》をかけ直そうとする。
だが、その直後どこからか話し声が耳に届く。
いや、叫び声が。
「ちょ、まっ、十三おいてかないでよぉん!」
「お前が生贄になれpoyon!」
不味い、もしPKだと厄介だ。
木々の根を利用し姿を隠そう。
「あは! 今回は鬼ごっこですかー?」
3人目の声。
この様子、先の2人が追われているのか?
「はい、追いついたー」
「ひっ」
恐怖に喘ぐのは斧を背負った女。
「《一閃》」
黒衣を来た白髪の少女が呟く、それと同時に手にする刀が煌めいた。
瞬間、スキルにより有効射程を伸ばされた一刀が多くの木々と同時に女の首を切り裂く。
こわっ……!
木々と一緒に僕の頭髪も数本舞い散った。
「勘弁してくれよぉ! 何回目だと思ってんだよぉ!」
声のする方を見ると足首から下を消失した長身の男が倒れていた。
あの斬撃で2人まとめて切ったのか。
やべぇな、見つかったら死ぬ。
「ふふっ、これでたしか12回目です!
あ、次で十三さんの名前と一緒ですね!」
白髪の少女は満面の笑みを浮かべている。
「つ、次も殺す気かよ……」
反面、長身の男の顔は蒼白。
目には涙すら浮かべている。
「名前が赤くなったらまた来ますねっ」
そして長身の男は青い粒子となって消えた。
「おい、なつみ! 俺を置いてくな!」
「おじさん、遅いですよー」
後ろから声をあげて掛けてくる男は緑の外套をまとった茶髪の弓使い。
そしてその後ろからは巨大な虎。
「助けてぇ!」
「もぅ、しょうがないなぁ。《三連撃》」
いつの間にか手に持っている武器は双剣に変わっている。
双剣の特殊効果により手数の増えたスキルは高速の6連撃を叩き込む。
「おじさんラストー」
「《剛射》!」
STRを2倍にして放つ一撃が虎の身体を貫く。
そして巨大な虎は青い粒子となって消えていく。
「ほんと、お前、PK目にすると人変わりすぎだろ……」
「えへっ、つい熱が入っちゃうんですよ。特にあの二人には!」
拳を握りながら豪語している。
どうやらあの2人には因縁があるらしい。
「それで、あなたはどちら様?」
深紅のように燃える瞳は僕を刺すように見つめていた。
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