一ヶ月前・稽古二十一日目

 その日の放課後にみっちりと稽古したのは『4種類』の2つ目――『鉄砲』というものだ。


 『鉄砲』とは柱に向かって突っ張りを入れる稽古のこと。


「えいえいえいえいえいえいえいえい」


 臼鴇が室内の柱に向かって、突っ張りをした。


 私は彼女の横に行った。


「臼鴇様、それはちょっと違います。鉄砲ではありません。ただのお遊戯です」


「鉄砲とは、どうするのでしゅか?」


「ご説明いたします。臼鴇様以外の他の方も、両国の力士様に教えて頂いたと思いますが、もう一度お聞きください。鉄砲とは……」


 私はメモしたノートを開いて、説明する。


 鉄砲とは、つまりは摺り足+目の前に障害物がある、バージョンでの稽古のこと。同じく足を肩幅より広く開いて腰を落とす。そして、脇を締めて全体重をかけて、一歩前に出した足と同じ側の手で、柱を倒すような気持ちで手の平を柱にぶつける。そして限界ぎりぎりに手を突っ張りながら、押し出す。


「臼鴇様、そうです。全力で柱を押し倒すように突っ張るのです。突っ張る時の腕の筋力マックスですよ! マックスじゃないとクソムシですよ!」


「大砲様……う、腕に乳酸が溜まってきたでしゅ。ち、力が出なくなってきたでしゅ」


「苦しい時こそ、頑張るのです。私には臼鴇様のひょろひょろな腕の声が聴こえてきます。さあ今こそ、革命を起こすのだ、とね。この部屋の柱をへし折ってやるのです。間違えて臼鴇様の腕がへし折れても、入院費は私が貸してあげますので、御心配なさらずに」


「か、貸すだけでしゅか? 払ってはくれないのでしゅか?」


「……もちろん私がお支払いしても構いません。しかし、その場合はなにか同価値の担保を預けてください」


「それって、借りるのと同じでは、ありませんでしゅかっ!」


 この日、私達は鉄砲だけを延々としながら1日を過ごした。摺り足で足が筋肉痛なのだから、上半身を鍛えるしかない。


 翌日、3人は腕の筋肉痛を理由に学校を休んだ。2時間目の前に、翌日と同様に私が無理矢理登校させた。

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