一ヶ月前・稽古二十日目2

 早速この日、プロ力士から教えてもらった稽古法を実践した。私達はそれを『4種類』と呼んだ。中身は『擦り足』『鉄砲』『四股』『股割り』の4つを徹底的に行うというものだった。


 『4種類』の1つ目――『摺り足』とは中腰の姿勢で、歩くことである。足を肩幅よりも広く開き、背筋を伸ばした状態で腰を落とす。そのまま足の裏を地面につけた状態で、一歩進み、逆の足でも一歩進む。


 太股の付け根が猛烈に筋肉痛になる。


 この摺り足を最初、みんなにやらせるのは大変だった。


「なんてはしたない格好なのでゴザイマスか。そのような恰好、できないのでゴザイマス。お嫁にいけなくなるでゴザイマス」


「なにを仰っているのですか、夜赤竜様? これは骨盤矯正に効果があるのです。エアロビクスと考えればいいでしょう。美容によいのです!」


「び、美容によいのでゴザイマスか?」


「それに、この稽古部屋には私たちしかいません。人目を気にせずに、存分に肉体改造ができるのです。強くなるだけでなく美しくもなる。さあ、足を広げて、腰を落としてください」


「は、はい。こうでゴザイマスか?」


「私もやるでしゅ」「うちもどす」「ワタクシも吹っ切れました」


 5人で、『摺り足』の体勢になった。


「そうです。そして、ゆっくりと一歩一歩、足を地面から離さないようにして。歩きます」


「う、ううう。これは、これはきついでゴザイマス。本当に美容に効果があるのでゴザイマスか?」


「ありますわ。さあ、ワンツーワンツー。皆様もご一緒に!」


「ワンツーワンツー」


 東京から帰った翌日のこの日、私達は摺り足だけを暗くなるまで延々とした。


 その翌日、3人は筋肉痛を理由に学校を休んだ。さすがに道路籠りで休み過ぎたので、2時間目が始まる前に、私が寮に迎えに行って全員、無理やり登校させた。

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