第一章 ヤンデレ育成のすゝめ

第7話 ヤンデレ育成のすゝめ


 裏口入学説が浮上しながらも第一志望に合格できたのだが、ヤンデレたちとも同じ学校になってしまった。


 まあ、な…薄々分かっていたよ。あいつらが高スペックなことぐらい。

 知っていたよ。でも勉強までできるとは…

 そこまで高スペックならばもうすでに人間の息を超えてAIだよな。


 ああっっっ!無理ゲーだろ!

俺がいくら同じ高校にならないように頑張っても無駄だったなんておかしいだろ。

 俺にはヤンデレたちと違う高校に行くという選択肢は用意されてなかったそうだ。受験が終わってからまどかに一つ聞いたんだよ。


 ¢   ¢   ¢   ¢


「なぁまどか。お前本当に偶然この学校を受験したのか?」


 そしたらまどかはどう答えたと思う?



「そんなわけないじゃん。いーくんは本当に面白いね。

 いーくんがこの学校を受験すると聞きつけて頑張って受験したんだよ。

 それじゃなきゃこんな難しい学校受験しないよ。」



 なんて頭の右側に束ねた髪を揺らしながら答えやがった。



「それにね。いー君が千歳高校に合格するのは決定事項だったからまどかも千歳高校に合格すれば絶対にいー君と同じ高校に行けるって知ってたんだ。いーくんが悪ふざけでわざと低い点数を取ることもないって確信してたから」



「いや…お前らマジかよ。エスパーなのか!」



「ふふーん。ちーがーうーよ。いーくんに対する愛ゆえだよ!」



「愛ゆえって…どんな手を使ったんだ?」



「ひ、み、つ♡」


ボソリと呟く俺の問いに対してまどかは笑って誤魔化して見せた。


 ¢   ¢   ¢   ¢



 このように俺がやろうとしていた行動も予想されていたってわけだ。俺の作戦は最初から失敗するって決まってたんだよ。


 数週間前のまどかとの出来事を入学式の会場前で思い出していると、女子高生の平均よりは身長の低いまどかがピョンピョンという効果音が聞こえそうなジャンプをしながら、俺の目の前に現れ、悪戯っぽく無邪気な笑顔で


「何考えてるの?」


 不安げに呟く。そしてあざとくもかわいらしく右手の人差し指を俺の鼻の前に突き出し、鼻頭に触れさせた。不意打ちだったこともあり、俺の頬は紅潮してしまった。

 触れられた鼻頭に熱が集中するのが感じ取れた。

 自分でも童貞臭すぎる行動に恥ずかしくなっていたのだが、無意識にこの仕草のできるまどかは恥ずかしくもなんともないらしく


「いーくんもしかして恥ずかしがってるの?

 ふふっ。そんないーくんもまどか大好きだよ♡」


 ヤンデレな彼女も一人の女の子だ。そして美少女でもある。

 それだけのステータスを併せ持ったまどかに正面から「好きだよ」と愛をささやかれれば俺でも照れてしまうものだ。童貞というのは関係ないからな!


「さっ、さんきゅ…」


 それだけ言うと、自分の顔をうつ向かせる。恥ずかしくて顔を上げられない…

 そして罪悪感からも俺は顔を上げることができない。


 幼少のころから女優の佳奈という存在を見てきた俺からしてもまどかは可愛いんだよ。俺なんかじゃなくほかの男のところに行けばきっともっと幸せになれるだろう。

 束縛や体への接触は過度なところがあるが、まどかのかわいさならばそれすらも美点として映るだろう。


 だけどこんなにかわいい子を俺がヤンデレにしてしまったのだ。

 俺はその責任を負うべきだろう。俺は何を犠牲にしてでも償わなければならない。それなのに八か月前の俺はその責任を放棄し決別をするなど行ってしまった。


 彼女たちが怒るのも無理がない、自慰行為を撮られたのだって契約書に無理やりサインをさせられたのだって身から出た錆だといえるだろう。少なくとも心は反省している。


 本来ならば俺に向けられる彼女たちの好意は淡い初恋の思い出として終わるはずだったんだ。それを無理やりに永遠の愛に変えてしまった俺は桜白が言うとおり


         有罪ギルティ


 なのだろう。これは変えようのない事実だ。俺は自分自身の罪を認め償わなければならない。だから高校は違う学校がよかったのだ。


 俺にできる償いとは。すなわち


 彼女たちの好意に応える。あるいは新たな出会いをヤンデレたちに与えられる環境を作ること。


 この二つだろう。だけど前者は確実にできない。六人の女性と付き合うという行為は世間的に浮気と呼ばれるものだからだ。


ならば、後者の選択肢である新たな出会いを見つけてやるべきなのだろうが、彼女たちが望んでいるかと問われれば口をつぐんでしまう。


そうだ。現状俺ができることは何もないのだ。



 だけども最初からこんなことになるとは思っていなかったんだ。

予想外の出来事が続いてしまった結果がこれなんだ…


 俺の今の状況になるまでの経緯は俺が行ったを聞いてもらはないといけない。


 あの頃の俺は本当に愚かだった…



 ¢   ¢   ¢   ¢


 今から俺、坂城伊都が皆様に語る夢物語のような内容はすべてノンフィクションだ。心して聞いてくれ。


 あなた方はヤンデレという種族が生まれる瞬間を現実で目の当たりにしたことが有るだろうか?答えはもちろん「ない」だろう


 当然ながら俺も小学生だった当初ゲーム以外で目にしたことはなかった。


 だから俺は悩んだのだ。

 どうすればヤンデレを育成することができるのだろうと考えたのだ、しかしヤンデレ育成のすゝめの参考にできるものは残念ながらヤンデレが登場するゲームしかなかった。

「お前馬鹿なのか」だって?ははっ馬鹿さ☆


 他に手段のなかった俺はヤンデレゲームで知識をあさることに尽力した。

 そこで俺は驚愕の事実を知ることになったのだ。


 皆一様にヤンデレは生まれ持った人間の性質だと思っていることだろう。

 だけどそれは間違っている。

 ヤンデレの発生とはその人間を包み込む人間関係による突然変異によっておこるのだ。※ゲームによって得た何の根拠もない知識


 しかしその点を裏返して考えると、俺が育成するターゲットの人間関係をゲームでのヤンデレ発生イベントになぞるように操作すればヤンデレ育成を成功させられる可能性は生まれてくる。


 このように小学生だった俺は、ゲームによる偏った知識を元手にヤンデレ育成を始めたのだ。



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