第6話 やめておけそこの写真家



—————この状況はもはやギャンブルだ。


俺の当初の目的であった、ヤンデレたちが入れないであろう学力の高校に受験し合格したかった理由。それは彼女たちと同じ学校に通いたくなかったという理由が大きい。


だが、その目標の達成は何か手を撃たなければ不可能だろう。


今思いついた簡単な手。この状況を逆手に取り千歳高校を諦めるか?


わざと低い点を取ることによって、第一志望に不合格になり、第二志望に合格する。


こうするのであれば、俺はヤンデレ達と違った高校に行ける可能性が高まる、だけど、千歳高校を諦めれば俺はプラグラミングが学べなくなってしまう。


そうなれば俺の将来の夢の実現が難しくなってしまう。


そしてこれはギャンブルだ。ヤンデレ達が絶対に千歳高校に受かる確証がない以上、下手なことはできない。


俺の第一志望校を知ってるぐらいなんだ、第二志望校も当然のように知っているのだろう。


俺がわざと低い点数を取ることが予想され、その動きに合わせるようにあちら側が動けば。


もしもヤンデレ達が千歳高校に落ちたら。


第二志望校である薄野学園に一緒に通うことになってしまう。


そのためこれは、この状況はギャンブルなんだ!


どの選択が、俺にとって最善か、1人で学校に行くことができる可能性が高まるのか考え俺にメリットのある方に可能性の全てをベットしなければならない。


これまで培ってきた経験からベットする方を決めたかったのだが、どうも自信が持てない。


ヤンデレ美少女達の中には特段勉強ができると言ったやつはいなかったはず。早紀は研究者だが、そっちの方面での頭の良さがずば抜けているだけであって、勉強ができると言ったわけじゃない。


だから、千歳高校に確実に受かるかは分からない。

ならば俺は自分の実力を出し惜しみせず出していいのではないか?

考えても考えても出ない結論に嫌気がさし、俺は勘に頼ることにした。


どちらでも可能性があるのならば俺は自分の勘を信じる!何の根拠もないが、そちらが最善な気がする。千歳高校に合格しよう!


立ち上がり、ガッツポーズをして決意を固めた。

だけども、俺の行動は明らかにこの教室内では異質



「伊都。早く座れば?」



俺1人だけ教室で立っているという、光景を周りを見渡せば容易く確認できだので、佳奈の言葉に素直に従うことにした。


しかし、佳奈は本当に有名人なんだと改めて思う。


その理由の一端が、男子生徒からの視線だ、

佳奈から声をかけられた俺をみる、男子生徒からの、嫉妬と羨望の入り混じった視線だ。

その視線は、佳奈に対しての羨望。俺に対しての嫉妬と言った感情が、交雑した様子だ。


彼らは佳奈のファンなのだろうか?


早くも中学校時代のデジャブを感じたので、

佳奈とはそんなに親しくないよ。と言わんばかりに目線を合わせる事で合図したのだが、



監督官の先生が教室内に入ってきたのでそれ以上のアピールはできなかった。


テストは国語の筆記試験から始まった。国語、数学、社会、昼ごはんを挟んで、理科、英語の順だ。


ふと、視線を机に向けると自分の右手が震えていることが見て取れた。


受験の日、つまり今日この日にこういう不測の事態が起きるであろうことは想定していなかった。

なぜならば、ヤンデレ達も流石に自重してくれると考えていたからだ。


流石のあいつらも邪魔はしないと思っていたんだよ。受験の日ぐらいは。

だが、俺はな!オ◯ニーの動画を撮られていた男だぞ!


こんな事では…ちょっとしか動揺しない…

俺の手が震えているように見えるのは、外が寒いからだ。そうだよ!


右手の震えが止まらないまま、筆記試験は開始された。だけどこの筆記試験を500点満点を取るつもりで勉強をしてきた俺にとって、ちょっとだけ動揺していても午前中のテストに支障はなかった。


支障が出たのはお昼ご飯の時だ。



ご飯を食べる友達もいなかったので一人で姉が作ってくれたキャラ弁(マイナーなキャラ)を食べていた時だった。 




「朝日佳奈さんだよね?俺ファンなんだ、握手してもらってもいいかな?」



一人の受験生が話しかけてきたのだ。


いやいや、受験の最中だよ。おかしいだろ。と内心思ったのだが佳奈は女優だ。嫌な顔一つせず要求に応えて見せた。


しかしそれを皮切りに、さまざまな人たちが俺たちの机に群がってくるようになってしまった。


さすがの佳奈もこの数の人間の対応は難しいと思ったのか席を立ったその時だった。


パシャパシャとカメラの音がしたのだ。


「ぶっぶひひ。有名女優、名門校である都立千歳高校に通うかも。デュフフ

この写真キュイッター(某twit〇erのようなもの)に上げたらバズるかも?ぶぶぶ」


特徴的な笑い声の男。

其の男は眼鏡をかけ、鉢巻を頭に巻いていた。

小柄な体のおなかには脂肪を必要以上に蓄え、写真を撮るときに使ったのであろう彼の首から垂れたカメラは一眼レフだった。どうしてそんなもの持ち込めているのかはわからないが、まあ彼は写真家なのだろう。


それはさておき俺の目の前にいる佳奈の背後には、ただならぬオーラが漏れ出ていた。


この行動にはさすがの佳奈も許容しかねたのだろう。少しだけ低い声音で


「消してくれると嬉しいです。」


佳奈のことを何も知らない一般人からすれば女神のような。

俺からすればまさしく悪魔さながらの笑顔でそう言ったのだが、写真を撮った男は一向に消す気配がなく時間がたつにつれ周りの空気が重くなっていった。


それどころか写真家の男(面倒だからそう呼ぶことにする)は


「ぶひっ、ぶふふ。連絡先を教えてくれたらこの写真を消すかもね~ぶひひひ」


と脅しまがいの言葉を佳奈にかけた。


この行動に俺は、怒りではなく、関心を覚えた。

なぜって?あの悪魔のような女に脅しを仕掛けたのだから。


でも写真家の男。自分の命は大切にした方がいいぞ。大先輩からの忠告だ。


心の深層意識がそう訴えている。


いくら佳奈の本性を知らないからって、連絡先を聞くのはやりすぎだ。

命に危険が及ぶ。そして俺もその行動はどうかと思ってしまう。なぜか俺自身の心にも引っかかるものがある。

見殺しにするのも寝覚めが悪いと感じたので、助け舟を出すことにした。



「あの、写真家の男。さすがにそれはよくないんじゃないか?

佳奈だって困ってるし、写真消してあげようよ」


これは俺がしてやれる最後の警告だ。彼だって佳奈のファンなのだろう。佳奈へのあこがれの気持ちから連絡先を聞くなんて言う愚行を行ってしまったのだろう。


「ぼっ、前が言うな!とっ突然出てきやがって。ぼ、れだってな佳奈ちゃんのことそうやって呼び捨てで呼びたいよ!ぶふふ。

仲良くお昼ご飯一緒に食べてみたいよ。それにこんなにいっぱいの美少女もいてさ。羨ましいよ。てか写真家の男って誰だよ!俺の名は涼風すずかぜみさだよ」


「写真家の男」の思わぬ本名に彼の全身を目で追ってしまった。

涼しい風と書いて涼風と読むのだろうが、そんなに爽やかな名前が似合う風貌はしていない。


しかし、名前と合わない彼の風貌に驚いたのではない。

彼と同姓同名のラノベ主人公を俺は知っているからだ。


確かその主人公も初めは太っていたが、頑張ってダイエットしてイケメンになっていたはずだ。


これはフラグ!?

って言う冗談は置いておこう。


うん。ここは現実の世界。ラノベみたいな展開は絶対に起きない。


見たところ、彼は自分の名前にコンプレックスを抱いているのだろう。彼の反応からしても一目瞭然だ。


そこをついてしまった罪悪感からか、俺は本当に最後の忠告をしようと写真家の男に近づき話し合ったのだが、彼は俺の忠告を聞くことなく佳奈の方へ向かっていった。


「佳奈ちゃん。俺に連絡先教えて。そしたらこの写真消すから。ぶひひ」


奇怪な笑い声をあげて佳奈のほうに近づいて行った写真家の男の遺言はそれか…


半ば彼の命をあきらめたのだが、結果としては写真家の男は助かった。

だけど、無残な姿に変わってしまった。


理由としては、佳奈の周りにいたファンたちにぼこぼこにされたのだ。


「お前ごときがなに佳奈さんに連絡先聞こうとしてんだよ!身の程ってもんをわきまえろ」


いかにも陽キャな金髪の男子が初めに蹴りをかました。


「私の佳奈様なのよ、だれにも汚させはしないわ!」


そして、モブ子Aが平手打ち。


「あの六人の美少女にいいとこを見せたいんだよ。あっ今こっち見てくれた。

うおおおおおお。」


最後に筋肉モリモリの体育会系男子がタックルで取り押さえた。


ボコッ、ドゴッ、パン(少し大袈裟)


様々な効果音が響き渡り、写真家の男はなす術なくぼこぼこ(結構大袈裟)にされていた。


だけど命が助かるとは本当に幸運な奴だ。彼は佳奈に殺されはしなかったのだから。


俺が佳奈の顔を確認すれば暗殺者が対象を殺し損ね苦汁をなめたような顔をしていた。

本当によかったな…

心の底から写真家の男に敬意と愛慕をこめ、天に向かって彼の冥福を祈るように合唱した。

そこまでしてふと思う。

彼は死んでいなかったはずだから。冥福は祈らなくてもいいのだろうか?


ってかここ受験会場だよな?改めて考えるとやばくね?


¢   ¢   ¢   ¢


それからは大した事件もなくことは進み、合格発表の日を迎えた。


俺の番号は6658。


不安で胃に穴が開きそうになりながらも目を開き自分の番号を確認する。大丈夫。テストは簡単だった。


665…6,7,、、、9


だけどおかしい。俺の番号がないのだ。何度も確認するが一向に俺の番号は見つからない、だがあきらめきれずに受験番号が張り出された板の前に留まっていると、桜白おしろが話しかけてきた、



「どうしたのですか?坂城さん」



「いや、何も、桜白には関係のないことだよ。

ただ、俺の受験番号が見当たらないだけさ…」



「あら本当。…坂城さんの番号が見当たりませんわね。

少しこの学校の校長先生とお話してきますわ。」



そういうと桜白は足音を立てずに去っていった。


〜数分後〜


桜白は千歳高校の校長らしき髪の毛の薄い男の人を引き連れて帰ってきた。


そしてその眩しい頭をしたお爺ちゃんは一つの紙を貼り出した。


「申し訳ございません。

もう1人合格の受験生がいます。

6658番の生徒です!」


そう言うお爺ちゃんの顔は何かを恐れた顔をしていた。


桜白が何かしたのだろうか。

状況から推理しても桜白が何かをしたと言うことは明白だろう。


もしかして、裏で俺を入学させたのだろうか?


あまりにも不自然な行動を、桜白に尋ねてみてもはぐらかされるばかりで、答えが一向にわからないまま、疑問を残し、千歳高校に入学することになった。



因みに、佳奈、満智、早紀、まどか、風香、桜白、

この6人は全員満点合格だったらしい。

美少女で頭も良いとか


…強キャラがすぎるだろ。


¢ ¢ ¢ ¢



高校では、必ずや伊都さんの心を掴みます。


そのための手はもう打ちました。


このわたくし、花山院かさんのいん桜白おしろの名に掛けて絶対に伊都さんを籠絡させて見せましょう。



—————————————————————

今回の話でプロローグは終了です。


次回「ヤンデレ育成のすゝめ」


只々更新遅れてごめんなさい。


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