第2話 追い打ちは…やめ…てぇ
ヤンデレたちに嵌められた後俺は、何とかヤンデレ美少女たちを説得してあの場から抜け出した。
今俺は自室のベッドの上に寝転がっている。ほかにするべきこともあるのだが今はその気力がない。
先ほどまでは、あいつらが設置したであろう隠しカメラを探していたからだ。
今見つかっているだけでも3つ、一つ目は本と本の隙間に巧妙に隠してあった、
二つ目はエアコンの風向口、絶対に確認しないであろう所だ、そして三つ目は円形の時計の中点に設置してあった。
もっと細かなところも探せば優に10個のカメラはありそうだと、背筋が凍る思いだ。
俺自身、こんなにも様々な角度から自分のオ〇ニーを見られていたんだと考えると悶絶してしまいそうになる。
あの状況だったからこそ捨てられた羞恥心も今ではしっかりと機能してしまい、ただ恥ずかしいという感情しかなくなっている、そのためこれ以上部屋を散らかしてまで、隠しカメラの収穫に当たる気力は残っていなかった。
他にすることもなく、する気力もなかったので、僕はベッドの上でぼんやりと明日すべき作業の優先順位を考えている。
まず初めにすべきこと、隠しカメラを徹底的に探すことだが、
現実的に考えて、どこにあるかもわからず、幾つつけられているかさえも分かっていない。そんなものをすべて探すことは不可能なので今回の優先順位からは外れてもら…ぅ…。
突然なる眠気。人間の三大欲求に抗う事は叶わず、結局僕は明日すべきことを考えずして眠りに落ちてしまった。
チュンチュン、
朝からスズメの鳴き声を聞き目を覚ます。
昨日のこと、ヤンデレ美少女たちに嵌められた出来事ごとがあったからだろうか?
今、俺の額には熱がやどっていた。何となく体がだるい、いわゆる風邪という状態だろう。
風邪をひいたのは、絶対に昨日の出来事が原因だ!
なんてヤンデレ美少女たちを恨みながら、薬を飲むために重たい体を起こして、階段を降り一階へと向かう。
そこにはリビングのソファの上で毛布にくるまり顔の見えない母親がいた、いつも日曜日のこの時間には母は仕事だったはず、
少し疑問を持ちながらも、母親へ自分の状態を伝えることにした。
「母さん、俺風邪ひいたみたいだから薬飲んで寝るよ。
だいぶ熱もあるみたいだし」
すると母さんはいつもとは違うしゃがれた声音をして俺に言った
「あなたもそうだったの?私も風邪ひいちゃったの、だから今日は一日中家にいるわ」
その返事を聞き俺は、いつもとは違う母の声音を心配しながらも、どこかに違和感を感じた。
いつもだと、どこが変だったのだろう?と考えていたところだが体調が悪いので
あえて考えられなかった。
そうしている間にもみるみると体調が悪くなり眩暈がする。立つことも困難だったため素早く薬を飲料水で飲み、母さんの分の薬と水を近くに置いてあげて、リビングを出た。
「母さんもお大事に」
と声をかけて……
部屋に戻った俺は、薬の副作用による眠気によって倒れこむように寝入った。
¢ ¢ ¢ ¢
ピンポーーン
聞き慣れた家のインターホン。その音で俺は目を覚ました。
時計を見ると時刻は午前11時を軽く過ぎたころ、日曜日のこの時間は、普段なら父と母は仕事、そして妹は中学校の部活へ姉は大学のエロゲサークルへ行っている。
今は家には母さんがいるが、玄関の扉を開き、お客さんと応対する音が聞こえない以上、体調が良くないのだろう、
仕方なく思いながら、訪問者に迷惑はかけられまいと玄関へ向かう。
少し眠ったおかげか、朝よりいくらかは体調がよくなっていた。
ピンポーーン
二度目のインターホンが鳴る。
宅配便だろうか。などと考えながら、
「はぁーーい」と熱のやどる、体にはいささか響きすぎる甲高い音へ返事をする。
自分の服装はパジャマだったのだがそんなことは気にせず、玄関のカギを開錠してドアを開く。
するとその先には人の影が見えた、ただしいつも宅配便を届けに来る見慣れた緑色の制服の業者の人ではなく
華やかなワンピースに身を包んだ華奢な女の子だった……客観的に見ればの話だが。
そこに立っていたのは僕の幼馴染の
「伊都!熱出たって本当?心配だから来ちゃった」
てへへ、と照れながら笑うその顔は昨日のあの出来事など覚えていないと思わせるほどに、無邪気だった。
当然、無邪気に笑っているのは佳奈だけであり、俺のパジャマは、冷や汗でびしょびしょになっている。
ふざけるな!
昨日のことを忘れたとは言わせないぞ!
そうは思うが、口からその言葉は出てこない。
佳奈の顔を見るだけで思考が停止してしまいそうになる。いわゆるトラウマと言うものだろう。
僕がなにも言わなかったので、佳奈は家へ入る許可を得たと勘違いしたのだろう。沈黙は肯定というから。
僕の家へ入ってこようとした。
熱によって、にぶった思考でも、命の危機は察知するのだろうか?
佳奈が何をするつもりなのかはわからないが、
反射的にドアを閉じようと体が動いていた、これまでの経験上今熱が出ている僕の体調では佳奈に力でも勝つことはできなくなる。
そんな状態でこいつを家にあげて了えば、俺の身に起こる悲劇は簡単に予想できる。
コンマ0,1秒それほどの差だった。佳奈の足が玄関の隙間に滑り込んできた。こうなってしまえば、佳奈の手によって無理やりにドアを開けられてしまう。
玄関をこじ開けて無理矢理に家へと侵入してきたこの犯罪者は、
「伊都。なんで当然ドア閉めるの?驚いて咄嗟に足をドアの隙間に入れちゃったよ」
俺の名前、坂城伊都(さかきいと)という俺の本名を呼ぶこいつは、昨日、俺を嵌めた幼馴染だ。
昨日とは口調が違うことに違和感を覚えたが、今は 甘えん坊な方の佳奈なのだろうと、勝手に自己完結する。
佳奈は脳のスイッチのON、OFFが激しいのだ。二重人格に近いものだろう。
何故2つの人格、性格ができてしまったかの予想は簡単につく。
小さい頃から、佳奈はその美貌を生かし子役、現在は女優として活躍している。
女優業を始めてから、ON OFFが入れ替わる事が多くなったと、誰よりも佳奈を観察してきた俺にはわかる。ストレスか何かが原因だろう。
ちなみに、佳奈が女優業を始めた時期と、俺がヤンデレ育成を始めた時期は被る。
偶然ではない、佳奈が女優というステータスを持ち始めたから、彼女をヤンデレにする計画が始動したのだから。誰だって、誰も手の届かない高嶺の彼女が俺のためだけに尽くしてくれる、
"そんなの最高じゃないか!"
…なんて想像してしまうだろう?
……あれ?
でもそれなら彼女が二重人格になった時期と、重なるように起きた出来事は、
女優業を始めたことだけではなく、俺がヤンデレ育成を始めた時期でもあるのか……な?
もしかしたら、彼女が二重人格になったのって、俺が原因?
いやいやいや、あり得ないだろう、違う。違う。
それはない!ナイナイない。
そんな、もしも僕が原因だったら……。
…やめだ、こんなこといくら考えても、答えなど見つからない。
そう判断し、脱線した思考を元に戻す。
ON状態の性格のこいつは、大変厄介であり、残忍で狡猾だ。甘えん坊な佳奈の数百倍はタチが悪い。残虐な方の佳奈とでも言っておこう。
OFFの状態、つまり今の佳奈の状態は、ON状態より幾らかは、性格がよく、真っ直ぐだ。
狡猾な罠なども使ってこない!
佳奈の口調でONかOFFかの判断を下した、今の佳奈はOFF状態だろうと……。
OFF状態だと判断し、僕は佳奈を家に通す。
ON状態よりマシとはいえ、
こいつの性格も厄介なことに変わりはないからな…
今無理矢理にでも家の外に追い出そうとすれば、強硬手段を使ってくるだろう。
玄関の扉を開けたあの時より幾らかは冷静になった俺は、
幸い家には母さんがいるため、最悪のシナリオにはなり得ないだろうと思い、諦めの感情から、無駄な抵抗はせず、流れに身を任せようと心に決めた。
だが、流れに身を任せるという行為は、大抵の場合悪手になると相場が決まっており、例外なく俺の行動もその1つだった。
「うふふふふ」
背中に悪寒が走る。
その笑い声の主は佳奈だった。
聞き覚えのある、不気味な笑い声。
「伊都は、ほんとーーにいい子ですね!
昨日あんなことがあったのに、ほとんど抵抗もせずに、家にあげてくれるなんて」
先程までの口調とは打って変わって、威圧感を感じてしまう。
この喋り方は、タチの悪い方の佳奈だ。残忍で狡猾な佳奈だ…。
なぜだ?先ほどまでは甘えん坊な佳奈だったはずだと思考をフルに回転させて考え、たどり着いた答えとしては至極簡単だった
多分僕は騙されしまったのだ。
佳奈は先ほどまで演技をしていた、今の状態は甘えん坊の佳奈であると僕に勘違いをさせるために。
これが僕のたどり着いた答えだった。
ああ、失念していたよ、お前は残忍で狡猾なだけでは飽き足らず、頭も回るんだったな。
まさか、OFF状態の佳奈が演技であり、罠だったなんて、思いもしなかった。
無力感に打ちひしがれる。が、その時一つの突破口が開かれた、母さんだ。
今家には母さんがいる。いつもの日曜日ならばあり得ないことだが、今日は特別だ。
なんせ、母さんは風邪をひいて、家にいるのだから。そこに突破口を見出す。
今大声をあげれば、母さんが助けてくれるのではないか。母さんはこいつの本性を知らないから、不審に思うかもしれない。だがどれだけ不審に思われてもいい。この瞬間を切り抜けられるのならばそれでいい。このあと佳奈がどんな行動に出るのか俺には想像もつかないが、母さんがいてくれれば最悪の事態は防げるはずだ。
そして、その方法が頭をよぎった瞬間に俺は大声で母さんに助けを求めた。今だけでいい、今日だけでいい、これからは油断なんてしないから!
藁にもすがる気持ちで、放った大声には、なんの返事も返ってこなかった。
玄関という虚空に広がる俺の大声には、やがて少しの間を置いて、俺の思いとは全くの真逆の相手からの返事しか返ってこなかった。しかもその返事は考えうる限り最悪の返答だった。
「伊都……あはははははは、貴方のお母さんは今家にはいないよ!」
藁のちぎれた瞬間だった、言い換えるならば、俺の突破口が閉ざされた瞬間でもあった。母さんはいないと言われたのだから。それでも俺は諦めずに何度も何度も助けを呼ぶ。
だって、今朝母さんの姿を俺は見たのだから。
そんな諦めの悪い大声に嫌気がさしたのか、佳奈は俺の口を塞ぎ、一人でに喋りだす。そう、それは殺人事件のトリックを暴く名探偵のように。
「伊都、あなたは今朝自分のお母さんの顔をしっかりと見たのかな?」
何を言っているのだろう。俺は今朝の記憶を思い起こしながら考え始める。
たしかに僕は母さんの顔を……見て…い、ない……
毛布をかぶっていたから。
「見て…いな、い。」
半ば反射的に出た僕の返答に満足げな笑みを浮かべ、佳奈は続ける。
「そうですよね!見てませんよね!
だって、貴方のお母さんは、風邪なんて引かず元気に出社したのだから!伊都が起きた時間に家にいるわけがないんですよ」
えっ?
突然なる、佳奈の発言に僕の頭はついていけない、そんな俺の様子を察してか、わかりやすく解説を付け加える佳奈。
「私は、貴方のお母さんが元気に出社している姿を、午前7時に見てるの。だから貴方のお母さんは風邪なんて引いていないんだよ」
突然の言葉だったが、俺は佳奈の手を振り払いすぐに反論をする。
「いや、そんな事はあり得ない。だって俺は母さんの姿をリビングで見たから!出社なんてしているわけない!」
おかしい、そんな事はあり得ない。俺はまだ理解していない、諦めていない。
だがそんな俺の表情を見て取った佳奈は、また不気味な笑い声を散らして前の発言との、ピースを組み立てていく。
「だから言ったでしょ。あなたはしっかりと顔を確認したのかと、確認していたのならば気づくはずなんだよ。あなたの母に成りすましていたのは、私なんだから!」
脳が理解を拒む言葉の数々。
やめてくれ。僕は希う。だが、彼女はやめてくれない、それどころか段々と楽しそうな表情になっている。
「すべて話すと長くなるので要点だけで説明しますね。
私の作戦はただリビングにも監視カメラを設置するという、簡単なものだったんですよ。
…最初のうちは
だけど貴方は眠りから覚めてしまった。そこから私の作戦は変わったの。」
淡々と彼女は話し続ける。しきりに俺の表情を確認してはだんだんと息が荒ぶっている様子だ。今この場において、リビングにカメラを設置したなどと言う重大な事実もまた些事にすぎない。
「私の作戦は、監視カメラをリビングに仕掛けることから伊都の絶望の顔を見ることに変わったの。そっちの方が私の好奇心を揺さぶるんだ。しょうがないよね?」
ふふっ。そういって笑う彼女の顔を見ることはもうできなかった。
そして同時に全てを理解した。つまりは佳奈は俺の母さんになりすまし、俺に少しの安心を与え、母さんと言う希望を見つけたときにその希望を粉々に壊した時の俺の反応を見て楽しんでいたのだと。
すべては彼女の掌の上だった。
母さんという光を見つけることまで読まれていたなんて…
思えば確かに違和感はあった、しゃがれた声音、いつもは一人称が母さんなのに私だったことなど
彼女の掌の上で転がされていたことを悟り、考えることをやめた。
――――――――こんな化け物に勝てるはずない…と
「その顔、その顔が見たかったの。あなたの綺麗な顔が絶望に変わる時、私の心は幸福感で満たされるの」
笑いながら俺を絶望の淵へ落とすこの女の表情を見ていても、止まってしまった思考を再度動かすことは簡単ではなく、俺は視覚だけから情報を得ていた。
佳奈の右手には俺のオ〇ニー動画の流れているスマホ、左手には何やら契約書のようなものを持ち俺に近づいてくる。
そして彼女は俺の親指に朱肉をつけ、無理やりにその契約書のようなものに俺の親指をこすりつけた。
すると佳奈は、満足げな笑みを浮かべ、走り去っていった。
どんな内容の契約だったかは見当もつかない。
だがこれだけはわかる俺はまた、またもや佳奈に
……嵌められたのだと
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