理想の恋人を得る


 気に入らない相手を一方的に痛めつけた上で殺す。

 心の中で何度も想像しては悔しさを紛らわせてきたというのに、実際やってみると思いの外冷めるのが早かった。楽しいのは相手の威勢がいい最初だけだ。どいつもこいつも、少し痛めつけてやると恥も外聞もなく泣き出すもんだから、あっという間に興が削がれてしまう。


 組織の連中はどいつも気に入らなかったが、俺と似たような境遇だからというのもあった。俺だって、死んでこの力を得なかったら、きっと新人で鬱憤晴らしをしていただろう。

 あるいは、恋人でも凌辱されれば徹底的に苦しめてやろうと考えるかもしれないが、あいにくと俺には恋人がいたことがないので、やはり想像の域を出なかった。


 まあいい、ひとまず仕返しが済んで気が晴れた。組織の連中のことはもう忘れよう。

 

 それより次は女だ。

 この神の力をもってすれば、好きな女を好きなだけ抱ける。トップアイドルだろうと財閥の令嬢だろうとやりたい放題だ。

 溜まりに溜まった鬱憤、存分に晴らさせてもらうぜ。


 とはいえ、さすがに全人類の中から好きに選んでいいとなると、候補が多すぎて迷うな。

 街に出て適当に取っ捕まえるか?

 いや、それでその女に恋人がいたら嫌だな…。神の力ならそのくらい見分けるのは簡単だろうが、それならインターネットみたく条件検索した方が早いし確実だ。

 幸い、男ってのは一定条件を満たしていれば、初めて会った女でも抱ける生き物だからな。深く考える必要はねえ。

 

 ええと、まず話ができなきゃつまらんから同じ国で…。違う違う、神の力でいくらでも翻訳できるんだから国はどこでもいいんだ。とはいえ、あまりにも文化や風習がかけ離れてちゃ困るから、とりあえず文化圏は近い方がいいか。

 年齢は16歳から22歳ってとこかな。

 もちろん、恋人なし。男性経験なし。

 身長は小柄な方がいいから155センチ以下で、それでいてスタイルがよくて。

 性格は明るい方がいいな。それでいて優しい人。キツい感じの人は苦手だ。

 

 …などなど、様々な条件指定をした上で、俺の初めての恋人候補を選出する。

 さすがに条件が厳しいかなとも思ったが、世界は広い。15人の候補が頭の中に浮かんだ。


 よし、お前ら全員俺の恋人だ。


 パッと見ただけで即決した。

 ハーレム上等。神が人間社会の倫理なんか守る必要はねえ。

 っていうか、そのくらい権力者とか金持ちとか人気タレントとかスポーツ選手とか、力のある男はみんなやってるんだろ? とっかえひっかえよぉ。


 だが安心しな。子どもはできないようにしとくからよ。

 …そうだ。

 こんなバカげた世界に生まれてくることはねえんだ。

 俺は子孫は残さない。

 それだけは心に誓った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る