気に入らない奴をタコ殴りにする



 そんなわけで、全知全能の力を手に入れて神になっちまった俺だが…。

 これといった使命はないみたいなので、とりあえず生き返って、思いつくまま行動してみることにした。


 まずは俺を殺した奴を調べて…いや、全知全能だからすぐ分かった。


 いきなり撃たれたから顔も見てなかったが、どうやら敵対組織の下っ端のようだ。

 しかも、俺を撃った数秒後には殺されている。

 たまたま敵を見つけたのがわずかに早かったというだけで、立場は俺と同じ憐れな捨て駒のようだ。恨む気にもなれない。


 それよりも許せないのは、抗争を始めておきながら前線には出ない組織の幹部たちだ。俺は、こいつらの都合で殺されたのだ。


 案の定、幹部たちは俺の死など気にもくれず、勝利の美酒に酔いしれていた。


 死ねよ!


 俺は、幹部連中をアジトごと爆破してやった。心の中で念じただけでそうなった。魔法どころじゃない。まさしく神の力だ。


 しかし、思っていたほどスカッとしなかったな。やはり直接手を下さないとダメか。


 となれば、今まで俺をコケにしてきた連中に、あの手この手を使って仕返ししてやる。まずは組織の人間ほぼ全員だ。


 はじめに言っておくが、俺は組織の人間を仲間だと思ったことは一度もない。俺だって好きでマフィアになったわけじゃないんだ。親が貧しくて学校にもろくに行かせてもらえなかったから、自然とそうなっただけだ。

 

 組織での生活は滅茶苦茶だった。

 入ってしばらくは教育という名のいじめが続いた。ほんの少しの失敗で、いちいち殴られた。失敗してなくても無理矢理な理由で殴られた。

 教育が一段落した後は、危険な仕事を率先してやらされた。時には死にそうな目にも遭った。そのくせ分け前は最低賃金以下。

 それでも、他に生き方を知らない俺に選択肢はなかった。

 

 たぶん、先輩方も似たような事情だったのだろう。上にやられたことを、そっくりそのまま下にやることで、鬱憤晴らしをするしかなかった。


 だからって許せるか?

 それを許してしまったら、いつまで経っても負の連鎖が終わらないじゃないか。

 俺で終わりにしてやる。

 最後にお前らをぶち殺すことで俺の鬱憤晴らしをして、それで終わりだ。

 殺さないのは、俺より後に入ってきた新入りだけだ。お前は運が良かった。俺ほどじゃないがな。


 さあ、楽しい鬱憤晴らしの始まりだ。

 まずは組織内でも特に嫌いだった男の手足を拘束した上で、サンドバッグのように天井から吊り下げて、殴る、殴る。

 そのムカつく顔面を思い切り殴る。

 

 痛ってえー!

 手が痛てえ! 指が折れちまった!


 これでは鬱憤晴らしどころではない。

 痛みが邪魔だ。神になった今、痛覚などいらん。

 

 俺は怪我を治すと同時に、両の拳を壊れないよう強化した。ついでに、プロボクサー並のテクニックを一瞬で身につけてやった。


 よーし、改めて鉄拳制裁の開始だ。

 確かあんた、酒の飲み過ぎで肝臓が悪かったよな。

 そら、レバーブローだ!


 力任せではなく、正確なフォームで正確に急所を打ち抜く。


「うげえ…!」


 うめき声と共に吐瀉物が飛び散る。

 同時に、痺れるような快感が全身を駆け巡った。

 ハハッ、最高じゃねえか!

 俺は続けて右左交互に拳を叩き込む。拳が相手の身体にめり込むたび、全身に快感が走った。

 ボクサー知識によると、頭部を強く打つと気絶して楽になってしまうため、腹部だけを執拗に打つ。


「も…もうやめてくれ…」


 弱々しく懇願してくる相手に、俺は待ってましたとばかりに言う。


「分かった分かった。俺もそろそろ飽きてきた頃だ。殴るのはやめてやる」


 その言葉に相手が気を緩めたところで、いきなりローキックを放つ。


「ひぎ⁉」


 期待通り、疑問と苦痛が入り混じったうめき声を聞かせてくれた。

 背中にゾクゾクと快感が走る。

 同じだ。かつて俺も同じことをされた。だから俺にはこうする権利がある。

 当然、今打ったのは素人のキックではない。今度はキックボクサーのテクニックを身につけたため、威力はプロのそれだ。先にやったのはそっちなんだから、このくらいの報いは当然だ。


 俺は左右交互にローキックを打ち続ける。両足の太腿部が紫色に染まるのに、そう時間はかからなかった。


 そのうち、感覚が麻痺して痛みを感じなくなったのか、うめき声が聞こえなくなった。

 その代わり、呂律の回らない涙声が聞こえてくる。


「ごえん…らさい…。もう、許して…くあさい…。もう、しあせんから…。もう、しあせんから…」

 

 信じられなかった。

 俺のことを散々顎で使いやがった男が、子どものように泣いて謝ってきたのだ。

 

 脆過ぎる。なんなんだこいつは…?

 あんなに威張ってたくせに、意地のひとつも張れないのか。


 身体中の熱が急激に冷めてきた。

 さっきまで楽しかったのが嘘みたいにバカバカしくなってきた。


 つまらん…。

 もういい。楽になれ。


 俺は全力のストレートで男の顔面を打ち抜き、一瞬で息の根を止めてやった。






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