第17話 夫婦
夫婦
02・15・2011
三崎伸太郎 相変わらず貧乏です。
アメリカに住んで20年。 パッとしない人生を歩んでいる。 今年もヴァレンタイン・デーが来た。 稲村順二は妻の綾子に、花など買う余裕はなかった。アメリカでは男性が花やジュエリーを女性に贈る。
稲村夫婦は6パックが一ドル(約90円)のインスタントラーメンを買って、それを夕食にした。 ヴァレンタイン・デーなので俺が作ってやると順二は妻の分の鍋も用意し、卵と葱,それにモヤシを入れた。 ふと思い立って冷凍庫から竹輪のパックを取り出し一個ずつ入れることにした。 竹輪を斜めに薄く切り、つまんで鍋に入れるとき順二は、自分の竹輪を数切れ妻の鍋に入れた。 ヴァレンタインの贈り物のつもりだった。
一本の竹輪は、妻と夫を行き来する。竹輪と言え、馬鹿にしてはならない。外国に住む貧乏な日本人にとっては、貴重な食べ物だ。夫婦はお互いに冷蔵庫に残った竹輪を相手に食べらせようと、手を付けない。竹輪は古くなり食べれなくなる。
やがて、夫婦は腐った竹輪を黙って見ることになる。残念な気持ちで、竹輪はゴミ箱てに捨てられる。何気ないことだろうが夫婦以外の人には説明しなければ理解できない。たかが竹輪と人は言うだろう。他人には理解できないのである。
夫婦が貧乏に気づくときは他にもある。給料日だ。支払いのことを考えなければならない。
夫婦は一生懸命まじめに働いているのに、どうしてお金がないのだろうか。このことは、哲学的な重要事項のように稲村順二の脳裏を行き来した。
とにかく今日はヴァレンタイン・デーだ。順二は、今日のために少しづつお金をためて来た。家内に花が買えるのを、楽しみにしていたがガソリン代が底をついた。ためていたお金はガソリン代として消えた。
竹輪を増やした妻の鍋がグツグツと沸騰してきた。
「鍋が湧いてきたよ。ラーメンを入れるからね」
ソファで本を読んでいた妻がキッチンに来ると自分のラーメン用の鍋を見「あら?」と言った。
そして、引き出しから箸を取り出すと鍋の中の竹輪をつかみ順二の鍋に移した。
「多すぎるから、プレゼント」と綾子が言った。
「今日はヴァレンタイン・デーだけど・・・」
「日本では女性が男性に、チョコレートをプレゼントする日でしょう? ごめんね。何もできないわよ」
相手が彼を慰めた。幸せなヴァレンタイン・デーだ。
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