第14話 TAX (個人所得税申告) 02・06、2022

TAX 02・06、2022


TAX (個人所得税申告)のシーズンが来た。私は例年に従って、日曜日の朝に鉢巻をしてTAXサービス会社H&R Blockのオンラインに向かった。所得などは、自動的に会社からIRS(アメリカ内国歳入庁)に移せる。

あとは、的確に概算額控除や項目別控除を書き入れて課税所得の減額を申告し、出来るだけ税から逃れるような工夫が必要になる。

なかなか上手く行かない。IRSは一般庶民の税の詳細を全て知りつくしているなどと言う、怪しい情報を先週オンライン上で見た。私は気が弱いので、騙すような器用なことは出来ないが控除できるものを申請せず、損をする必要も無い。

私は、細かなところまで四苦八苦して連邦税を830ドル、カリフォルニアの州税を540ドルほど浮かせた。 背後でYouTubeを見ている家内にコンピューターのスクリーンを眺めながら伝えると、少ないわねえと言う。 確かに、昨年は家内が歯のインプラントで7,000ドルの大金を歯医者に支払った。私も、320ドルほど、奥歯の壊れたクラウンの修理に使った。私の奥歯のクラウンが壊れたのは、クレジットやホーム・ローン等の毎月の支払いが大変で、無意識に奥歯をかみ締めていたからに違いない。したがって、数千ドルのリターン(返金)を期待していた。

「駄目だね・・・これが、最高額だろうね」と、後ろの家内を振り向かずに言った。

すると、家内は「騙せ、騙せ」と、笑うように言った。私は「無理だよ。騙すと大変なことになるよ」と言いながら後ろを振り返って家内を見ると、昨日の土曜日に日系のマーケットで買って蒸していた紫芋を美味しそうに食べていた。

「芋? 食べてるの?」私は半ば呆れて聞いた。

「そ、税金は政府と持ちつ持たれつよ。騙せ騙せ」家内は再び言い、芋の皮を剥いた。

「あ、の、ね。税金を誤魔化すと、大変なことになります。後で、ビックリするくらいの罰則金を取られます」と、私は家内を諭すように言った。

「へへ・・・」と家内は含み笑いをし、皮を剥いだ紫芋にかじりついた。私は、再びTAXのスクリーンに顔を戻した。彼女の前のスクリーンには北島三郎が「兄弟仁義」を歌っていた。

「書くなよ」と、背後から低い声が聞こえた。家内は私が趣味で小説を書くことを知っている。しかし、私は書いた。


二月六日、日曜日。 15分で書いた短編。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る