上井戸鷹人
上井戸鷹人という神子がいた、彼はオレたちの母親今頭礼那の6歳年上の兄だ。
オレたちの伯父に当たる。
集落がなくなった後、審神者たちは今まで伝わってきた解釈では妃陀羅の御心を読み解けないことを知り絶望する。
解釈の誤りに最初に気づいたのは、神託に従い設けた祠の位置だった。
祠の場所は神託のイメージ『浮かぶ赤い6つの光』の現れる方角に設置されていた。
移住した神子が見た神託の6つ光の方角から祠の位置は特定できず、今まで集落に設けられた祠の位置は誤っていることが判明した。
特定できないのは移住で神子が見る神託の6つ光の位置は、神託を受け取る度に方角がバラバラなのが理由だ。まるで光は移動しているようだった。
神子の所在が集落から離れたことで、妃陀羅が示す祠は伝わっていた場所や解釈とは異なることが判ってしまったのだ。
オレたちの先祖たちは、神の御心とはかけ離れた場所に設置した祠を恭しく祀っていたのだ。
今では赤い6つ光のイメージは祠の設置とは何の関係もないメッセージだと考えられている。
このような解釈の誤りが次々と発覚して集落壊滅後に審神者はいなくなった、というよりは審神者は成立しなくなったのだ。
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審神者不在で血族の皆が虚無に陥る中、上井戸鷹人だけは違っていた。
鷹人は他の神子たちが妃陀羅から受け取ったイメージを聞き取り採取、その差異や類似点を丹念に抽出していった。
結果、妃陀羅は神子に『かつて妃陀羅が這い出てきた霊場に生贄を捧げよ』と命じていると仮説を立てた。
そして鷹人はその霊場を探し始める。
長年の探究の末、はぐれ堂から140㎞内陸に位置する瀬越丘陵付近に霊場があると判明した。
鷹人は子を成すこともなく、ただ神託の解釈のみに没頭していた。
母の話では鷹人は『自分の解釈は常に不完全だ、神子とはいえ人間が神のすべてを理解することなど叶わないのだから』と繰り返し話していたそうだ。
鷹人は1978年、瀬越丘陵に移住する。
移住を決意したのは、1976年に産まれたオレに神子であることを示す『2匹の絡み合う蛇』の痣があったからだという。
地元から神子が居なくなる心配が解消できたからという理由らしいが、現在ではその配慮は要らぬ心配になってしまった。
初めの頃は血族と連絡を取り合っていた鷹人だが、神託の霊場が特定できぬまま月日は流れ徐々に連絡は減少。
春子が産まれた翌々年の1984年には、鷹人からの便りは完全に途絶え消息も判らなくなった。
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