第11話 からっぽ

「じゃあ有彦は、俺の辛い夢を吸い取り、俺を助けようとしたのか…」


アンジェラに対して言ったのだが、有彦が少しだけ誇らしげに口元を綻ばせ、こくりと頷く。


「僕、まだ大丈夫だから」


「大丈夫ってどういう意味だよ」


問い返した言葉に、彼は目蓋を伏せて。


「……あんまり、吸いすぎると」


有彦の言葉は、激しく扉を叩く音に遮られた。飛び込んできたのは、例の依頼人の男性である。


「九条さん、妻が…!」


真っ青になり取り乱している彼を落ち着かせ、話を聞くと。奥さんが倒れたのだと言う。


「何か譫言を言いながら、寝込んでます。本当に、何もないんですか?心配ないと報告を受けたから、安心していたのに」


メソメソする彼を慰める。しかし、邪気の反応がなかったのは確かなのだ。


「…吸いとられた、から」


ぽつり。


有彦が呟く。その表情は険しい。


「吸われ過ぎたら、からっぽになっちゃう。それに、吸いすぎた方も…」


「からっぽ?」


アンジェラが口を出した。


「悩みや苦しみがなく、生きるなんて。それは、人じゃないのよ。何かに簡単に楽にして貰ったら、乗り越える力は身に付かないし、ただ、穴があくだけなのよ。……心に」


「奥さんは、吸われる側だったから邪気がむしろなかったのか。吸われた悩みや苦しみを追い掛けて、夜中にさ迷ってたんだな?」


漸く事件の様相が見えてきた。

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