第10話 胸に咲く花

有彦には、とりあえず俺のダボダボのシャツを着せておく。袖が余ってとても可愛い。


「だから誤解だって言ってるだろ。確かに俺はバイだけど、こんな小さな子供に手を出さねえよ」


「じゃあなんで有彦裸だったのよ」


「それは…」


まだ身体がビリビリする。暫くはアンジェラの術の後遺症に悩まされそうだ。


言い合いをしていたから、有彦が心配そうに俺とアンジェラの袖を両方引っ張る。


「あのね、僕。お兄ちゃんが苦しそうだったから、怖い夢をとってあげようとしたんだ…」


「夢、を?」


有彦がこんなにはっきり話すこと自体が初めてだ。俺もアンジェラも黙って聞き入る。


「僕は、ここに、花があって。それが夢を吸うの。嫌なこと、怖いこと…吸ってあげられる」


小さな両手を、胸に添える有彦。すると彼の白く滑らかな胸元が輝いて、透け。そこには…ぼんやりと、一輪の花が、見えた。


「これは…」


「夢喰花…聞いたことがあるわ。人の心に住まい、他人の夢を喰う存在よ」


アンジェラの言葉に俺は眉を潜める。


「有彦が悪霊に寄生されてると?」


「悪霊とは違うわね。自然に産まれた精霊に近い。


夢喰花は、人の辛い記憶や嫌なことを消してくれるから、昔からある意味の救いとして重宝されてきたのよ。どうしても忘れられない嫌なこと、誰にもあるでしょ?」


「それはそうだが。じゃあ、有彦が拐われたのも、花のせいなのか?」


おそらく、とアンジェラが言い頷いた。


俺は、有彦の体内に咲く美しい花を見つめる。透き通り、光を通すそれはとても綺麗だ。


が、何故か背筋にゾッとするものを感じる。

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