第9話 夢

真っ暗な闇の中に。二人の大人の影が見える。


父さんと、母さんだ。


臼ぼんやりした光が二人を包む。


「父さん、母さん!迎えに来てくれたんだね!」


俺は二人に駆け寄った。いつ来てくれるのか。今日なのか、明日なのか。毎日心待ちにしていたから。


しかし、両親は俺を抱き締めようと両親を広げてはくれなかった。


「貴方はまだ学ばなくちゃならないことがあるでしょう?」


「フェレイラ神父の言うことを良く聞いて、良い子にしていなさい。」


両親の姿が、遠ざかっていく。

必死に走っても、手を伸ばしても届かない。


走っている俺が子供だからなのか。

脚がもつれ、俺は転んでしまう。


「待って、父さん、母さん!」


ーーおいてかないで、お母、さん!


俺の声に、誰かの声が重なる。

幼い少年の声。


……有彦?


そこで、俺は目が醒めた。

アパートの煤けた天井が視界に入る。


俺はベッドに寝ている。そうだ、昨日有彦がソファーで寝てしまってから、ベッドに寝転んでそのまま…


と、もぞり。何かが布団の中で動いた。


びっくりしてめくってみると…そこには、有彦が寝ていた。俺の服の裾をしっかりと掴んで、すやすやと。


ソファーで寝ていたはずだったが。寂しかったのだろうか。まあ、それは良いとして。有彦の格好がーー…


「しじまぁー、有彦、おはよ!朝御飯の時間よ」


扉のバーンと開く音と、アンジェラの声。

やばい。この光景を見られたら…


「起きた?今朝はね…て、あ、あんたたち…」


ベッドに近付いてきた彼女は、どさりと買い物袋を床に落とす。


見られた。ベッドにいる、全裸の有彦を。


「待ってくれアンジェラ、これはーー…」


「ちょっと静寂。あんたの性癖は知ってるけど、有彦はまだ子供なのよ?!


なのにこんな…ええいくらえ!神のゴッドサンダー!」


バリバリバリッと俺の頭上から電撃が降ってきた。死ぬ程の威力はないが、全身が痺れる。


「だー、やめろ!違うっての。誤解だよ!」


「は、言い訳は聞きたくない。ヤりたいなら男の恋人作りなさいな!死ね変態!」


アンジェラが十字架を掲げて二度目の雷を放とうとした時、有彦が目を覚ます。


「んん、…おはよ」


流石に子供の前で喧嘩を続けるわけにはいかず。俺はなんとかアンジェラに事情を説明するタイミングを得た。

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