第7話 花売りの少女

外に出ると既に日が暮れて、辺りは真っ暗だった。外灯の光と、家から漏れる暖かな明かりが路面を照らすのみ。


「あーあ、腹減ったな。帰って飯でも食うか。有彦、何食いたい?」


「…パンケーキ」


「は?おやつだろ、んなもん」


「良いじゃない。パンケーキね、あたしが作ってあげる。」


アンジェラの言葉に有彦がパッと目を輝かせた。

そんな俺達に、声を掛ける人物が。


「……お花は、いりませんか?」


いつからその少女は存在したのだろうか。


柔らかな長い金髪、青い瞳。美しい少女がバスケットを小脇に抱え、微笑んでいる。歳は、15、6だろうか。


「花?…いや、いらねえよ」


俺が断ると、アンジェラが俺の脇を肘でつついて。

「ちょっと静寂、可哀想じゃない。買ってあげなさないよ」


「あー?花なんて腹の足しにならねえだろ」


「そういうことじゃなく…」


あからさまに非難の目を向けてくるアンジェラが面倒臭いから、俺は尻のポケットから財布を取り出そうとした。


と、有彦が俺の手にしがみつき。


「…駄目」


「ん?」


何が駄目なのかと問い返そうとすると、少女がふふ、と笑って。


「ーーお客様、失礼しましたわ。…お売りできる商品はございませんでした。失礼いたします」


彼女はスカートの裾を優雅につまむと、くるりと踵を返して去っていく。その後に、黒くて薄い霧が一瞬漂い。


それは、あの地下鉄で襲ってきたものと同じ。


「おいッ貴様ーー…」


すぐに、彼女を追い掛けて角を曲がる。が、そこには少女の姿はなく、霧も消え去っていた……


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