第6話 肩透かし
地下鉄構内から地上に出る。あの黒い霧はもうどこにも存在しない。
そして、俺達は暫く歩いて高級住宅街に着いた。いかにも金持ちが住まう家の扉のインターホンを押して。
出てきた依頼人の奥さんは、金髪の太った中年女性だった。話を聞かせて欲しいと言うと室内に招き入れて貰え。
有彦にはジュースとお菓子を出してくれた。いい人なのかもしれない。
夜中の徘徊について訊ねると、彼女は目を伏せる。
「実は、覚えてないんです…ただ、自分がどうも寝ている間に出掛けた形跡があったんで、もしかしたら夢遊病?って悩んでたんですが。
…夫には相談しなかったんですが。言えば良かったのかしら」
「そりゃあ、夫婦なんだから。なんでも話せばいいでしょ」
俺が肩を竦めてそう言うと、意外な人物が口を挟んだ。
「…心配、かけたくなかったんだよね?旦那さんに」
「まあ、坊や。ええ、そうなの。そんな些細な話で、仕事で忙しいあの人を煩わせたくなくて。そのうち心療内科にでも行けば良いかしらと、ね。」
有彦の言葉に、奥さんは頬に手を添え答える。
「でも病気とは限りませんよ?他の原因もありますし。…ちょっと、調べさせて下さいね」
アンジェラがソファーから立ち上がり、奥さんに近付く。彼女は奥さんの目の前で十字を切り、彼女の胸に手を添えた。
「うん…邪悪な気配は感じないわ。本当に夢遊病なのかも。良いお医者様を紹介しますわ、奥様。旦那様にも心配なさらないよう伝えます」
奥さんは、アンジェラの言葉にほっとして何度も礼を述べて。
なんと、特にエクソシストとして働くことなく依頼が終わってしまったので、俺達は家を後にすることにした。
これで何事もなく終われば、良かったのだが。
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