第9話 襲撃

―パタリ

私、リーラ・ラヴァンドは自室のベッドに寝転がった。

ここ数日大忙しでクタクタ。

まず、後輩と約束した保健室用の薬の調合。

そして、対虫用の薬とアイテムの生産。

対虫用の薬は毎年作っているけど、今回は新作アイテムを2つ作った。

1つはお香。

火を点けると、虫を弱らせる煙が出る。

誰でも使用できるアイテムだけど、風によって煙を巧みに広範囲で操れる風魔法使いが使えば、より有効に使用できると思っている。

例えば…ヴァンとか。

いや、何考えてるの!

風魔法使いはヴァンだけじゃないでしょ!

…でも、最近つるむ事が多いし、何かと気にかけてくれるし、何かの折にプレゼントしても…別に変じゃないわよね。

そしてもう1つの新作は

『…!来…!』

『…ぁ!…!』

…ん?

なんだか外が騒がしい。

遠くから生徒が大声を出す声が聞こえる。

何かあったの?

窓を開けて耳を澄ませると

『…虫が…!』

虫、という単語がかろうじて聞き取れた。

そろそろ、虫や、虫型モンスターが活発な季節。

ひょっとして…虫、いえ、あんな風に騒いでるってことは、おそらく虫型モンスターが何匹か学内に出たんじゃないの?

私は対虫用の薬とアイテムを鞄に詰めて、自室から飛び出した。


「なんで…!?」

騒ぎになっている場所に駆け付けた私は驚愕した。

場所は裏門近く。

ほんの数匹かと思って来たのに、何十匹もの虫型モンスターが飛び回っており、その上、各々勝手な方向に飛んでいく。

どうしてこんなに大量のモンスターがいるの?

誰かがおびき寄せでもしたの?

裏門近くと言っても、ここは広々していて、剣の練習やらボール遊びやら、体を動かす生徒でいつも賑わっていて、実質的には小運動場のような場所だ。

普段は和やかなこの場所が、今はパニックになって、数多くの生徒が逃げまどっていた。

モンスターに応戦している生徒も少しいるが、人が多いせいで、他の生徒に当たることを恐れて攻撃魔法が使いにくいようだった。

なぜ学校内にこんなに大量のモンスターが入り込んでいるのか考えるのは後だ。

とにかくこの場を何とかしないと。

私はまず虫除けの粉を自分の全身にまぶした。

そして、新作のお香に火を点け、虫が通るであろう校舎への通り道に設置した。

これで虫たちは校舎に行きにくくなって、こいつらを少しはこの場に留めておけるはずだ。

あとは、この場にいる生徒たちを避難させる。

私はもう1つの新作アイテムである箒を振りかぶって、虫の群れに殴りかかった。

「えいっ!」

―パシッ!

軽い音と共に、叩かれた虫は地面に落ちた。

叩かれた虫だけじゃない。

箒の軌道上にいた虫はボトボト地面に落ちて痙攣している。

成功だ。

この箒の穂先は、虫にとって猛毒の薬草で作っている。

私の薬効強化の力は、薬草が持つ病気や怪我を治す力を増すだけでなく、毒草の毒性だって強くする。

この箒が直撃したらもちろん、近くを通過しただけで大抵の虫はひとたまりもない。

これなら薬師の私だって、生徒が避難する時間を作れる。

「みんな、今のうちに逃げて!」

周りに声をかけて、私はさらに箒を振り回す。

―ペシッ

―パシッ

軽い音を立てながら虫は地面に落ちていく。

モンスターがどんどん倒されていく様子を見て、少し落ち着いた生徒たちは、先ほどよりはしっかりした足取りで速やかに逃げていった。

良かった。

でも、この場はどうにかなりそうだけど、私がお香を点ける前に校舎の方に行ってしまった虫もかなりいた。

そちらも心配だ。

その時

「リーラちゃん!」

上空から、珍しく焦った声のヴァンが大慌てで降りてきた。

生徒がいなくなったので、人に攻撃が当たってしまう心配もなく、ヴァンが風魔法で虫を地面に叩きつける。

すぐに付近にいた虫は全て討伐できた。

「何があったんだい?」

「このモンスターが大量に出現したから応戦したのよ。なんでこの場所にこんなにたくさん出たのか、理由は分からないんだけど。あ、あと、校舎の方に飛んで行った虫もいるの。これ使って」

私は例のお香を渡して、ヴァンと虫討伐に繰り出した。

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