第10話 ヴァン視点

僕、ヴァン・ゼフィールが、保健室を訪れているうちに親しくなった女子生徒、リーラ・ラヴァンド。

彼女は決して才能に溢れている生徒ではなかった。

でも彼女は、たゆまぬ勉強と、根気の必要な薬草栽培で、学校屈指の魔法薬師まで上り詰めていた。

僕は、彼女の努力家でしっかり者なところに惹かれていた。

そして逆に、ドクトー・ホピタルのことは嫌いだった。

医学の名門に生まれ、医療魔法の才能にも恵まれ、本人も将来は医者になる気満々なのに、自分がチヤホヤされることばかり考えて、何も頑張っていなかった。

魔法の才能に恵まれていると自覚している僕ですら、日々修行して、魔法の力を人の為に役立てようと努力しているのに。

しかし、ホピタル家の息子には、教師すらおいそれと手が出せなかった。

彼を追放するには、決定的な事件が必要だった。

そして、事件は起こったのだ。


リーラちゃんと合流した後、僕は彼女が作ったお香の煙を学校中に巡らせて、虫を弱らせた。

そのおかげで、煙が巡った後で虫に襲われて怪我をした生徒は少なくて済んだ。

あらかじめ弱らせておかなかったら、もっと大きな被害が出ていただろう。

煙で弱った虫を全て倒し、探索魔法が得意な生徒たちでもう虫は1匹もいないか確認し、死骸を片付けた。

学校内のチェックが済んだ後に、学校の周りは安全か見回りをしたら、裏門の外で倒れているドクトー・ホピタルが発見された。

彼は現在、自室で療養している。

第2保健室の8床のベッドは今怪我人でいっぱいだ。

虫の死骸の数からして、巣丸ごと1つ分の虫モンスターに侵入されたにもかかわらず、重症人はドクトー・ホピタル1人で済んだ。

これはリーラちゃんのおかげだ。

悪役令嬢呼ばわりされていた彼女の名誉はすっかり回復した。

あの日、裏門近くにいた生徒達によって、リーラ・ラヴァンドの名前と活躍はいささか誇張されて学校中に広まった。

それに、虫退治が終わった後も、リーラちゃんは虫に刺された軽傷者の治療に手を尽くしてくれている。

この治療の為に、彼女は自分の薬草園の薬草をありったけ出してくれたこと。

リーラちゃんの横領は事実無根であること。

保健室に必要物資が無いのは、ドクトー・ホピタルの職務放棄と、ケリル・ゲリゾンの横領のせいであること。

これらの真実はすでに生徒に知れ渡っている。

ついでに、今回の騒動は、この2人が、現在は虫モンスターが活発になる時期の為、実習授業の時以外は立ち入り禁止だったはずの林に勝手に入ったせいで起こったということも。

意識を取り戻したドクトーがペラペラ話してくれた。

近道しようと通った林の中で虫と遭遇し、追い払おうとしたらケリルが巣に攻撃を当てて、そのせいでこうなった、と。

全てはケリルのせい、自分はただの被害者だ、と。

対して、特に怪我もしていなかったので、現在反省室に閉じ込めているケリルに言わせると、ドクトーに無理やり戦わされた、とのことだ。

現在、諸々調査中だ。

生徒達の治療や、校内の後片付けなどが一段落したら、今回の事件の事実確認と共に、2人の悪事の証拠も揃えよう。

おそらく、保健委員長の委員達は喜んで協力してくれるだろう。

こいつらがいたら、リーラちゃんは安心して過ごせない。

それに、保健室の運営にも支障が出ている。

この機会に必ず保健委員会から、いや、学校から追い出してやる。

リーラちゃんは僕が守る。

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