第5話 ボランティア

私がグルグル悩んでいるうちに、すぐに目的地に着いた。

そこは―古く小さな病院。

あの日、私の薬草園で誘われたボランティア。

それは、町の病院でのヒーリングと薬の寄付だった。

学校でも、実技授業と社会貢献を兼ねて同様のボランティアは行われている。

もちろん私も経験がある。

でも、こういう病院は初めてだ。

こういう―比較的貧しい人の為の病院は。

不安な気持ちで院内に足を踏み入れる。

「あれ…?」

緊張していたが、拍子抜けした。

建物は古びているが、清潔だ。

順番待ちのスペースには元気の無さそうな患者達が椅子に座っているけれど、座席は所々空いていてスペースに余裕がある。

もっと汚くて病人、怪我人が所狭しと並んでいるイメージだった。

建物の古さ以外は普通の病院と変わらない。

キョロキョロと辺りを見回しながらヴァンについていく。

―トントン

ヴァンはあるドアをノックした。

「どうぞ」

返事を聞いて私達は部屋に入った。

そこには聡明そうなおばあさんが座っていた。

「こんにちは、院長先生、お邪魔してます」

あ、この女性が院長先生なんだ。

「こんにちは、ヴァン君。そちらのお嬢さんは…?」

「こちらは僕の友人で魔法薬師のリーラです。僕がこの病院のことを話したら、自作の薬を寄付したい、と言ってくれて。薬の寄付と説明のために一緒に来てもらいました」

「まあ…」

ヴァン、あなたそんなキリっとした顔と話し方できたのね、いつもはヘニャヘニャしてるのに。

などと思いつつ、私も背筋を伸ばして挨拶する。

「初めまして、院長先生。リーラと申します」

ペコリと頭を下げる。

私は持参したかばんの中から、数種類の薬を出し、使用方法を院長先生に説明した。

「リーラさん、ありがとう」

院長先生は私の薬をとても喜んでくれた。

魔法使いの作った薬は普通の薬より効果抜群だけど、その分高価だ。

気軽に買えるような値段じゃない。

そうか、保健委員会を解任されて、学校の中で自作の薬を役立てられないなら、学校の外に出ちゃえばいいのか。

私の薬を求めてくれる人は、ちゃんといるんだ。

「こちらこそ…ありがとうございます」


薬の寄付が終わったら、今度は治療の手伝い。

私は切り傷や火傷に自作の薬を塗り、おそまつなヒーリングでノロノロと傷を癒していく。

そしてその隣で、ヴァンは骨折をけっこうなスピードで治していく。

彼はヒーラーとしてもなかなかだ。

慌ただしく働いているうちに太陽が傾いてきて、患者も少なくなってきた。

そして、私の魔力もそろそろ尽きてきた。

「リーラちゃん、今日の治療はここまでにしようか~」

「えぇ…そうね…」

「でも最後にあと一仕事あるんだ」

「え…?」

私はもう魔力切れが来ている。

これ以上は…

「大丈夫、大丈夫。最後の仕事は、僕ならではの仕事だから」

私はもうロクに魔法を使えないことはお見通しのようだ。

ヴァンならではの仕事って何だろう?

―バタン

ヴァンが窓を開けて外を見た。

私もマネをして隣の窓から外を見る。

…あ、この病院中の窓が開いている。

看護師さんが開けておいてくれたのだろう。

これは、あれか。

学校の保健室でもやってくれている空気入れ替えか。

ヴァンが目をつむって意識を集中させる。

そよそよと室内に穏やかな風が流れ始める。

「…?」

いや、これ、違う。

いつも保健室でやっているのとは違うことをしている。

風を操って、この病院中の空気を―自分の手元に集めている?

ヴァンがつむってきた目を開いた。

ふう、と息をつく。

「…今、何をしたの?空気を集めてたわよね?」

「ご名答。学校の保健室は2部屋だけだし、辺りにいるのは健康な学生がほとんどでしょ?だから室内の空気はそこらへんに追い出しちゃえば済む。でもここは病院だから部屋数も多いし、近くにいるのは体が弱っている人ばかりだから、汚れた空気をそこらへんに放置できないんだよ。だから―」

ヴァンは手のひらを開いた。

手のひらからは小さく固めた魔力を感じる。

「こうして汚れた空気を圧縮して、人がいない場所に捨てに行くのが最後の仕事なんだ。あと少し付き合ってね」

ヴァンはサラリと説明したけど、病院丸ごと1つなんて広範囲を対象に簡単にできることじゃない。

目には見えないけど大技を見せてもらった。

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