第4話 悪役令嬢
約束の日。
なるべく地味で目立たない服装で、と言われたので、シンプルなブラウスとベージュのスカートに着替えた。
髪型もいつものお団子ではなく三つ編み。
学生寮の自室の窓辺で待っていると、彼がスイーッと飛んできた。
「お待たせ」
初めて見るヴァンの私服姿。
体にピッタリしたシャツとズボンに、深緑色のダボッとした上着。髪も一つ括りにしている。
にしても、目的地まで飛んでいくのか…彼のスピードについていけるだろうか。
不安に思いながらも、私は壁に立てかけておいた箒にまたがろうとした―が
ヒョイッとヴァンに手を取られた、かと思ったら、体がふわりと軽く浮き上がり、あっという間にお姫様抱っこされた。
「!?ヴァ…ヴァン!?」
「ん?何?」
「だ、抱っこされなくても、一応、自分で、飛べるわ」
「でも、僕が抱っこして飛んだ方が速いでしょ?」
うっ…。
そりゃそうだ。
彼は風魔法が得意な魔法使い。
移動は彼に任せた方が速い。
「…」
「じゃ、出発するね~」
黙り込んでしまった私を抱えながら、ヴァンは軽やかに空に飛び立った。
…速い…!
魔法の箒を使わずに、人間1人を抱えながらこのスピードで飛べるなんて。
これが風魔法使いのスピードなのか。
スピードへの恐怖よりも、驚きの方が大きい。
それはそうと、誰か他の生徒に見られてはいないでしょうね…。
学校内での私の評判は、もうこれ以上は下がらない程に堕ちた。
委員会予算をちょろまかしつつ、ドクトー・ホピタルに色仕掛けして玉の輿を狙っていた悪役令嬢、リーラ・ラヴァンド。
しかして、可憐にて清純なケリル・ゲリゾンに敗れ、委員会から追放される。
…現在の私の評判はこんな感じだ。
悪役はともかく、令嬢って…。
確かに私の実家は羽振りの良い薬屋だ。
でも、とても令嬢なんて呼ばれるような立場じゃない。
結局、みんな面白がっているだけなのだ。
もしもこの噂を本気にしているなら、予算横領について何か沙汰があるはずだ。
それが無いということは、周りも話半分ということ。
保健委員会の恋の三角関係。
敗者がいけ好かない金持ちの悪人なら、安心して堂々と面白がることができる。
しばらく耐えたら収まるかもしれない。
でも現在は、私は悪い意味で学校一の有名人だ。
そんな悪役令嬢たる私が、生徒会のメンバーにお姫様抱っこされている所を見られたりしたら、噂は再び大爆発するだろう。
私はせめておさげで顔が隠れるように、ヴァンの腕の中で、頭を小さく動かした。
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