第3話 生徒会書記

ヴァン・ゼフィール。

私とはまあまあ親しい、生徒会の書記だ。

校舎からこの薬草園まで飛んできたのだろう。

空中にフワフワ浮いていたヴァンは「よっ」と言いながらピョンと地面に着地した。

肩につきそうな長さのサラサラの黒髪は、日光が当たると緑かかった色味を映す。

一目で男性だと分かるけれど、中性的な美貌と線の細い身体は、高価な人形のようだ。

それでいて性格は気さくで、猫のような自由さと、憎めない気ままさを持っている。

「ヴァン、こんな所になんの用?」

「別に~?ちょっとリーラちゃんと話がしたくて」

「話…ね」

話、というより、事情聴取だろう。

彼は全種類の魔法を人並み以上に扱うことができるけど、中でも風魔法の名手だ。

その力を使って、定期的に保健室を訪れては室内に風を通し、病原菌を室内から追い出し、新鮮で綺麗な空気と入れ替えてくれていた。

言葉にすると簡単そうだが、室内の細々とした備品を風で散らかさず、土やほこりが混ざっていない綺麗な空気と入れ替えるのは繊細な作業だ。

おそらく昨日あたりに保健室を訪れ、副委員長変更に関してホピタルや他の委員達に話を聞き、最後に私にも事情を聴きに来たのだろう。

「なんか、ドクトー君は、リーラちゃんが委員会予算を遣い込んだ疑いがあるから解任した、とか言ってたんだけど、そうなの?」

「違う、そんなことやってないわ」

即座に否定する。

「あ、やっぱ違うんだ。他の委員の子が、『普通に必要経費だった』って、ドクトー君がいない時にこっそり教えてくれたんだけど、そっちが事実なのかな?」

「その通りよ」

誰かは分からないけど、私をフォローしてくれた委員がいたのか。

嬉しい。

ヴァンはフム、と自分の顎をつまんだ。

「ドクトー君はなんでリーラちゃんを解任したんだろうね?」

「それは…」

好きになった女の子に保健副委員長のポジションをあげたかったから、なんて言えない。

「…私のことが嫌いだったからじゃないかしら…」

嘘ではない。

あいつは前から私のことを嫌っていた。

なぜなら私の方がよく効く薬を調合できるから。

でもそれは私の腕が良かったからじゃない。

私にはこの薬草園があったからだ。

だから保健委員会副委員長の席に座れる薬師でいられた。

この薬草園で、薬草に魔力を与え薬効強化しつつ育て、その薬草で薬を調合する。

面倒ではあるが、これが魔法薬師の魔力を最高値、限界値まで発揮できる手段だ。

そして私は、この薬草園で育てた薬草を使って薬を作り、その薬を保健室に寄贈していた。

でも、あいつは薬草栽培をやらなかった。

他人が育てた薬草を高値で買って調合していた。

自分で材料を栽培してみてはどうかとアドバイスしても、あいつは逆ギレするだけだった。

良い材料を手間暇かけて育てよう、という根気が無かった。

もしもホピタルが自分で薬草を栽培していたら、私とあいつの薬の出来に大した差はなかっただろう。

「なるほど、リーラちゃんのことが嫌いだから、か…」

ヴァンは、ウム、と頷いてから、何か考えていた。

「ねえ、リーラちゃん。保健委員会は解任になったけどさ、今でも薬師として人の役に立ちたいと思ってる?」

「え?それはもちろん」

私の将来の夢は薬師として働くことだ。

保健委員会はその足掛かりに過ぎない。

「明後日の放課後は空いてる?」

「え?えぇ、委員会の仕事が無くなったから、しばらく予定は無いけど…」

私の答えを聞いたヴァンは、猫のようにニィッと目を細めた。

「僕と一緒にボランティアに行かない?」

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