第2話 薬草園

「はぁ…」

私が副委員長を解任されてから数日。

私は学校から借りている自分の薬草園で1人ため息をついた。

愛用の箒で地面を掃う。

大して葉っぱは積もっていないけど、なんとなく何かしていたい。

あいつ、前からバカだバカだとは思ってはいたけれど、これほどだとは。

ドクトー・ホピタル。

我が国屈指の医学の名門ホピタル家の息子。

才能そのものはあると思う。

魔法医師に必要な魔力は人並み以上。

しかし、いかんせん金持ちの家で甘やかされて育ったせいで、性格はわがままで経費関連のことにも頭が回らない。

今まで私も他の委員達も、あいつには散々振り回されてきた。

でも、保健委員会に在籍しているメンバーは全員、ヒーリングの能力者や薬師。

将来は医療関係の職業を目指している人間ばかりだ。

だから、ホピタル家の人間に面と向かって歯向かいはしなかった。

先生達すら、あいつにはきついことを言わない。

そしてその結果…これ程までの委員会の私物化を許してしまった。

しかも凄腕とは言えないヒーラーを副委員長にしてしまうなんて。

私は以前から校内のヒーラーを全員一通りチェックしていたから、ケリル・ゲリゾンのことは元々知っていた。

確かに彼女はヒーラーだけど、特に優秀とは言えない。

ホピタルは優秀と言っていたけど。

我が校の生徒会・委員会は、校内でのステータスになるのはもちろん、就職でもかなりプラスになってくれる。

でもその分、大変な仕事も責任もある席だ。

そんな重要な席を恋愛感情でプレゼントするなんて。

せめて彼女が、あのバカのブレーキになってくれるか、もしくは事務方面が優秀だといいんだけど。

そよそよと風が吹き、薬草の良い匂いが香る。

私の薬草園は、学校の敷地の端っこに位置していて、校舎からは離れている。

でもその代わりに広いスペースを借りることができたし、人も来ないから静かだ。

今の私にはこの静けさがありがたい。

ここ数日、私は校内でチラチラと好奇の目で見られたり、あからさまにクラスメイトに避けられるようになった。

ホピタルの言った、横領疑惑の話が尾ひれを付けて学校に広まったのだ。

『大目に見てやる』などと言っていたけど、おおかた、有ること無いこと言いふらしたのだろう。

学校内で私はすっかり悪役だ。

1人静かに思い悩もうとした、その時。

ひときわ強い風と共に、ある人物が薬草園に訪れた。

「やぁ、リーラちゃん」

声に振り向く。

そこにいたのは

「ヴァン…」

我が校の生徒会書記、ヴァン・ゼフィールだった。

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