瑠璃色リップルズ

御子柴 流歌

The Ripples Like a Lapis Lazuri



「ソウスケくん」



「ん?」



「この水たまりには、あなたの願望が映し出されるのです」



「……いきなりどうした」



 目の前には歩道を埋め尽くすくらいの大きさの水たまりが出来ている。



 カスミの唐突かつ突飛な言葉に、ソウスケは呆気に取られる。

 この少女は基本的にマジメなタイプだ。

 もちろんマジメ一貫ということもなく、軽くふざけあったりはするけれど、こんな風にそこまでどこかに吹っ飛んだようなことを言う娘ではない。



 舗装のがたつきが目立つ歩道には、あちらこちらに水たまりができていた。

 先ほどまで降っていたにわか雨は既にあがっている。

 飛び込みで入ってきた委員会活動で学校内に残っていたことがラッキーな方向に働いた、稀有な例かもしれない。



 しかし、ソウスケがそんなことを思っている間も、カスミはふわふわとミディアムロングの髪と制服のスカートを揺らしながら、ほんのり楽しそうな雰囲気をベールのようにまとって彼に笑顔を見せている。



「いいから」



「いや、何がさ」



 しかしカスミは折れない。

 そんなことを言われても、とソウスケは困惑するばかりだ。

 何がどういいのか、ソウスケの理解が追いつく隙を見せない。



「ほら、ね? とりあえず、そーっと覗いてみてくださいな」



「……ん。りょーかい」



 みんなでお遊戯でもしているとでも言いそうな物言いだった。

 ソウスケは怪訝な顔を一瞬だけ見せるが、すぐに言うとおりにする。

 そこは惚れた弱みとかいうヤツがあった。



 静かに水面を覗き込むソウスケ。



 制服を着た男子しか見えないと思われた水たまりには――

 少年の頬にキスをする少女が映し出された。

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