第10話 middle battle 5 ~プリズムガール!~
「もうこれ以上、好きにはさせないぞっ!」
変身したルチルが、指揮者のタクトのように金の矢でペインを乱暴に指差す。
「そうですね。あの人を、止めなくちゃ……っ! あの男の子だって、いつまで持つか分からないですし」
やっと覚悟を決めたしずくもステッキを構える。
「これ以上の乱暴は許しませんわよ!」
るりは2人のように武器を身構える代わりに、手に抱えた宝石箱をスッと翳した。
『“妖精の結界”を商店街に張ったミド! 後は頼むミド!――“プリズムガール”!』
ミドルンが叫ぶと同時に、頭上から巨大な影が落ちてくる。
「危ないっ!」
地響きを伴ったヌーリツブーセの圧し掛かりを3人はギリギリで躱すが、ヌーリツブーセはその場でぐるぐると両手を回し始めた。
ヌリツブーセの両手から無数のサッカーボールがマシンガンのように撃ち出され、渦のように群がったサッカーボールが3人に迫ってくる。
「もうっ! こんな邪魔なの割っちゃう!」
行動範囲を狭められるのが大嫌いなルチルは、サッカーボールの群れから誰よりも早く上空に抜け出すと、ヌリツブーセの遥か頭上で大きな弓をぐいーっと両足に掛け、両手で思いっきり弦を引っ張る。
すると弓の周りに無数の巨大な金の針が現れ、サッカーボールの群れに照準を合わせた。
ルチルが手を離すと同時に数多の金の針が射出され、巨大なサッカーボールたちは爽快な音を立てて割れていった。
「嘘だろッ!?」
以前と戦った時よりも格段に実力がついているルチルの攻撃に、さっきまで勝ち誇っていたペインの表情が一変する。
「ありがとうございますっ、ルチルさん!」
「こんなのへっちゃら!」
礼を言うしずくにブイサインまで見せる余裕のプリズム・ルチルクォーツに、ペインは悔し気に歯噛みする。
「相変わらず、出鱈目な奴だぜ……!」
「言ったでしょ! あなたの事は、私が止めてみせます!」
叫んだしずくがステッキを振ると、ステッキとドレスから飛び出した幾つものリボンが、一瞬でヌーリツブーセを雁字搦めにしてしまった。
『ヌ、ヌリ~……!』
ヌーリツブーセはモゴモゴと呻き声を上げるが、今は文字通り手も足も出ない状態だった。
「るりさん! 今です!」
しずくの合図に頷いたるりは、持っていた青ウサギの宝石箱を開ける。
「お願いしますわっ! ウサギさんたち!」
るりの号令に、宝石箱の中からどんどん雪ウサギが飛び出していき、次々とヌーリツブーセに一斉体当たりを仕掛けた。
サイズこそ小さいものの、無限に湧いてくる雪ウサギの猛攻は流石のヌリツブーセでも一たまりもない。
ヌリツブーセが僅かに身を捩った直後、顔面に突進した一匹の一撃がクリティカルヒットし、目の前でチカチカと星が散った。
『ヌ、ヌリ~……』
直後、目を回し今にも倒れそうなヌリツブーセから、プリズムガールたちの中に少年の“心”の声が流れ込み、辺りに響き渡る。
――あいつともう一度会って……一緒にサッカーするんだ!
しかしそんな少年の友達への思いと希望を、ペインはわざとらしく大声でせせら笑った。
「会えるワケねェだろ! 外国に行っちまった友達なんてよォ! 見れば見るほどくだらねぇ色だ。相手もテメェも、すぐ忘れちまうだろうよ」
ペインは担いでいた絵筆を剣のように振るい、ヌリツブーセに命令する。
「暴れろヌリツブーセ! 世界を絶望の黒に染めろ!」
ヌリツブーセは最後の力を振り絞り、縛られていたリボンを無理矢理引き千切った。
「きゃあっ」
その反動でバランスを失ったしずくがその場で尻餅をつくと、態勢を立て直したヌリツブーセは頭部のゴールポストを回転させ、3人目がけてタックルを仕掛けてきた。
しかし、今にも倒れそうなへろへろのヌリツブーセはあまりに動きが遅く、ずっと戦闘を見ていたミドルンは、今がトドメを刺す絶好のチャンスだと見抜いた。
『今ミド! “プリズムレインボースター”ミド!』
その言葉を合図に、3人は胸元の変身ピンブローチをそれぞれの武器にセットする。
突撃してきたヌリツブーセを囲むように、ルチルは空中で矢を番え、るりとしずくは地上でステッキと宝石箱を翳した。
その時、万華鏡のような虹色の光――プリズムカレイドスターが現れ、ヌリツブーセの顔面に直撃した。
虹色のエネルギー弾となって3人を守るプリズムカレイドスター。
ヌリツブーセも負けじと押し返そうとするが、ヌリツブーセの周囲に虹の波紋がふわん、ふわんと広がっていき、プリズムスターの力がどんどん増していく。
目の前でヌリツブーセを呑み込んだ鮮やかな虹色の波紋は、夜空の流れ星のようにキラキラと弾け散った。
『レイン、ボー……!』
プリズムレインボースターによって浄化されたヌリツブーセは、癒されたように満足げに目を細め、光の渦に呑み込まれていった。
浄化されたヌリツブーセは水に溶けた絵の具のようにぶわぁっと空中に消えると、中から出てきた少年の“心の色”――夕陽によく似たオレンジ色が輝き始める。
いつもはこれで少年の心が戻っていき、一件落着――のはずだった。
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