第28話 結婚までの一場面

僕達の話は、平行線をたどる。

僕はライアスさんの為にどうすればいいのか。

ライアスさんは僕の為に何をするべきか。

最後はお互い意地の張り合いだ。


「まいった……、私の負けだ。

君の気持ちを尊重する。

だがな、その中に私の意見も少しは加えてくれないか。」


「ライアスさんの言う事なら、僕は何でも聞きますよ。」


「嘘つき。」


え~心外だな。

とにかく僕は王都に行くと言い張った。

僕の為に、ライアスさんの立場を悪くするわけにはいかない。

僕の隣には、ライアスさんがいてくれる。

だからどんな事が有ろうとも大丈夫だから。


「で、ライアスさんの為に、

僕は何をすればいいのですか。」


「そうだな、我慢をしないでくれないか。

したくない事、会いたくない人がいれば、正直に私に言う事。

必ず私が何とかするから。」


僕は弱虫で優柔不断だから、

したくない事など山ほどある。

でも、それを正直に言って、ライアスさんに守ってもらうばかりでは、

僕自身の成長はない。

ライアスさんの隣に立つなら、僕はもっと強くならなくっちゃ。


「分かりました。

そうさせていただきますね。」


僕は笑顔を作りそう言ったのに、

なぜライアスさんはため息をついたんだ?



ミューラさん達は、ゲートが出来上がった日に、

それを利用し帰って行った。


「せいぜい愛想をつかされないよう、

頑張って下さいね。」


そうライアスさんに言い残して。

僕がライアスさんに愛想をつかす?

それは絶対にないな。

逆ならあり得るかもしれないけど……。




それよりも、僕はすぐにでも王都に行くのかと思って、

覚悟をしていたけれど、

実際向かったのは、それから2週間ほど経ってからだった。

イズガルドのゲートの管理者の為に、設置しなければならない物も有るし、

王都側にも色々準備があるそうだ。

それが整うまで、ライアスさんは毎日イズガルドからゲートを使い王都に通う。

そのままあちらで仕事をする時も有れば、

何人かとイズガルドに戻ってきて、ゲートで何やらしているらしい。

僕は僕で相変わらず、治療院で忙しい日を送っていた。


でも、僕の結婚が瞬く間のうちに患者さん達、

いや、村中に広がっていったみたいだ。

さすが狭い土地だけある。


「先生、おめでとう。

結婚されると聞いて、てっきりこの村を出て行かれちゃうと思ったけれど、

ここに留まってくれるんですって?

本当に助かりますよ。」


「しかし婿さんも中々やるじゃないか。

聞いたよ、先生欲しさにゲートまで付けたんだって?

この村に取っちゃぁ、先生は宝だね。」


「そんな、僕が我が儘だから仕方なくこちらに住むのであって、

ゲートは偶々…、偶然ですよ。」


「まったく先生は謙虚過ぎるな。

”ええ、いいでしょう?”ぐらい言ったっていいのに。

それで、あの背の高いカッコいい人が先生の旦那さんなんだろう?

いやぁ、男前だねぇ。」


ま、まだ旦那様じゃ有りませんよ。

そう訂正するけれど、

皆さんの間でライアスさんは、既に僕の旦那様となっていた。

まぁ、毎晩ここに帰ってきて、

致す事は致しちゃってるんだけど………。




「って言うんですよ。」


僕は毎晩、ライアスさんの腕枕の中で、今日一日有った事を話す。


「いい人達だな。」


「それはそうなんですが、僕を揶揄ってばかりで。」


そんな僕の話を、ライアスさんは楽しそうに聞いてくれる。


「話は変わるが、

そろそろ準備が整った。

王都に行こうと思っているのだが、

デニスの仕事の都合はどうだろう。」


「えっ、もう…?」


「まだ早いかい?

もう少し時間をおこうか。」


いや、僕の心の整理はついている。

あとはもう、いくら引き延ばした所で同じだ。

ならば早めに済ました方がいい。

えっと、ちょっと我が儘を言ってみようかな…。


「いえ、行く事に関しては大丈夫です。

ライアスさん、あの…王都に行ったら会いたい人がいるのですが、

連れて行ってもらえますか?」


「………困ったな。

デニスの望みをかなえるのは嬉しいが、

相手によっては、複雑な願いだな。」


「複雑…ですか?」


「ん~デニス、一体誰に会いたいんだい?」


「はい、薬師長様です。

仕事でも僕に良くしてくださいました。

僕があちらを出る時に、もう少し考えるように言われたのですが、

僕はそれをせずに出てきてしまった。

ですからお会いして、お礼とお詫びを言いたくて。」


「分かった。

私もお会いして礼をしなければ。

デニス、必ず連れて行くから。」


「そうだ、ライアスさん、

王都にはどれぐらいいればいいのですか?

僕は患者さん達に、どれぐらい休むのか、知らせておかなくっちゃ。」


無断で治療院を休むわけにはいかない。

そうだ、急患の場合どうしたらいいかも考えなくては。


「ゲートが有るのだから、長い旅をする必要もない。

だから王都にはデニスの休みの日に行こう。

多分、休日度に行く事になると思う。

休み無しで大変だと思うが、

きっとデニスに取っては、心の負担が少なくていいだろう?」


「そんな贅沢な…。」


僕の都合に合わせるなんて、

こんな事をしていたら、僕はきっと怠惰な人間になってしまいそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る