第27話 すれ違い
それからはあっという間だった。
一緒に来た技術者や、魔導士たちが、一番適した場所を特定し、
持ってきた器材を設置し、高価な魔石を幾つも使い 、
あっという間にゲートを作り上げた。
それはそんじょそこらに有る物と違い、とても立派な物だった。
「移動距離が違うからね。
やはりどうしてもこの規模になってしまうんだよ。」
「勿体ない……。
せめて隣のゲートまで行けるぐらいの規模にしておけば良かったのに。」
今更それを言っても、手遅れだって分かっているけれど。
僕は出来上がったゲートを見上げ、ため息をついた。
「さて、安全はミューラが確認した事だし、行ってみようか。」
「ど、どこへ……。」
「どこって、王都へ。」
王都……。
しかし僕にとって、まだ王都は鬼門だ。
あまりいい思い出が無いし、心の整理も付いていない。
でも、ライアスさんがそう言っているから、行くべきなんだろうか。
「ライアス、またあなたの悪い癖ですよ。
それはデニスさんの気持ちを考えてからになさい。」
「ミューラ?
デ、デニス!? 一体どうしたんだ!」
ライアスさんが僕の顔を覗き込み、物凄く驚いている。
僕って、そんなにひどい顔をしていたのだろうか。
「えっ、ど、どうもしてませんよ。
何でも有りません。」
「ライアス、あなたは王都からいなくなった彼をようやく見つけた。
そして彼がここに留まりたいから、
ここにゲートを設置したいと申し出たのでしょう。
まぁ、表向きは違いますが。
ならば、彼はどうして王都を出たのですか?
今あなたの言葉で、どういう気持ちなのか分かっていますか?」
「あっ……。」
「断言できますね。
きっとあなたはいつか、デニスさんに愛想をつかされますよ。」
「デニス、すまなかった、私はまた間違えたのだな。」
困り切ったライアスさんの顔など見たくない。
「僕なら大丈夫ですよ。
ライアスさんが、
一刻も早く僕を王都に連れて行きたいと言う気持ちは分かります。
だから、行きましょう?」
「いや、君を連れて王都には行かない。
私は君の傍に居られるだけでいいのだ。
デニスは王都に行く必要はない。」
でも、魔法騎士であるライアスさんの結婚の許可は、
王都に行かなければならないのでしょう?
あんなに僕との結婚に固執していたのに、
僕の我儘でそれを我慢させてしまうの?
それとももう結婚はいいのだろうか。
「デニスがまた百面相をしている。
また変な方向に考えが行っているんじゃないよね。」
僕の顔を両手で挟み、じっと僕の目を見つめる。
「えっ、何?」
「私は言葉が短いのだろう。
デニスすまなかった。
私は君に無理をさせてばかりいるね。
君のそれは、きっと私の事を考えてくれているのだろうけれど、
私には君の様な配慮が足りない。
もっと君を思いやらなくてはいけないのに、
つい舞い上がって、自分ばかり優先してしまう。
ミューラの言う通りだ。
私は本当にいつか、君に愛想を尽かされてしまうな。」
ライアスさんがとても困った顔をしている。
僕はライアスさんがそんな顔をするぐらいなら、
どんな我慢だってするのに。
僕は首を振り、次の言葉を継ごうとすると、ライアスさんがそれを止める。
「デニス、私はこんな性格だからね、
君との結婚を諦めたりしない。
君を私だけのものにし、もう絶対に離したくは無いから、
結婚と言う制約が欲しいんだ。
だから君が王都に行きたく無ければ、
行かずに済む方法を考えよう。」
「そんなことが出来るんですか?」
「デニスさん、ライアスは、
ここにゲートを設けさせるほど、国が必要とする人物です。
確かに魔法騎士の伴侶は、国王にお目通りするのが通常ですが、
彼ならそんな物を捻じ曲げる事など、容易いでしょう。」
ミューラさんがそんな事を言っている。
でも、つまりそれは、魔法騎士にとって常識を逸脱するって事でしょ。
そんな事をさせる訳にはいかない。
「デニスさん、あなたが今考えている事は想像がつきますが、
今は彼に甘えてしまいなさい。
彼にとってそれは、とても嬉しい事なのですから。」
「ミューラ、どうやらお前の方がデニスを思いやっているようだが、
デニスは渡しはしないぞ。」
「おや、残念ですね。
とにかく二人で話し合いなさい。
デニスさん、ちゃんと自分の気持ちを話すんですよ。」
ニコニコしながら、そうアドバイスをしてくれる。
ミューラさんて、いい人なんだな。
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