第26話 ライアスさん再び

ライアスさんが旅立った次の日、彼からの手紙が届いた。

今宿で君への手紙を書いているって。

別れてまだ間もないのに、とても寂しいと。

つまり、夕べ泊まった宿で書いた手紙だよね。

二日後にまた一通。

その三日後にまた一通。

つまり、毎晩手紙を書いてくれたんだ。

僕はその事を、可笑しく思う反面、

とても嬉しかった。


ライアスさんが王都に着いてからは、毎日手紙が届く。

でも、二人の最善の方法の詳しい事は教えてくれない。

あまり期待させると、それが実現しなかった時ガッカリさせてしまうから。

そう書かれていた。


《僕は、たとえ離れて暮しても、ライアスさんが好き。

その気持ちだけで十分です。

お仕事をしながらでは、作業はとても大変でしょう?

だから無理をしないで下さい。》


住居に戻ったことを確認してからは、僕も毎日手紙を出した。

タイムラグが有るせいか、時々食い違う話も、

それはそれで楽しい。


それから一月とちょっと、

仕事の合間に届いたライアスさんからの手紙に、

何とかなりそうだという知らせが有った。


「嘘…。

こんなに早く?」


まるで夢のようだ。

ライアスさんは、一体どんな方法を取ったのだろう。

全てをライアスさんに任せてしまったのだから、

僕はそれに従うつもりだ。


「一体どうなったのかな。

それよりも、いつまたライアスさんに会えるのだろう。」


もうかれこれ一月半ほど会っていない。

ライアスさんが恋しくてたまらない。

自分でそれに気が付き、照れる。

こんな僕を見たら、ライアスさんは今以上に心配性になるじゃないか?

でも、本当に一体どんな方法を取るんだろう。

仕事を辞めないと言った以上、その約束は破らないだろうし、

それならもっとイズガルドの近くに転勤するのかなぁ。

でも魔法騎士自体、王都に一個師団しかない筈だから、

転勤してくるなら他の部署に移るの?

でも騎士団は、ライアスさんをそう簡単に手放すとは思えない。

僕ではいくら考えても、その最善の方法など思いつかなかった。


そして次の日、

僕が患者さんを送り出していると、恋しい人に呼ばれた気がした。


「デニス。」


「はい?」


柵の外を見ると、その本人が立っている。


「えっ、えぇ~~!」


凄く驚きながらも、僕の足は既に走り出していた。


「ライアスさん、ライアスさん、ライアスさん。」


ギュっとしがみ付きながら何度もその名を呼ぶ。


「デニス、会いたかった。」


「うん、ライアスさん、寂しかった…。」


目をつぶり、つま先立ちになり、キスを強請る。

何のためらいもなく、ライアスさんの唇が降ってくる。

言葉などいらない。

そこに互いがいるだけで満足だ。


て、二人だけで浸っている場合じゃ無かった。

ライアスさんは一人じゃ無かったからだ。

ライアスさんの他に、3人ほどの同行者がいたんだ。

恥ずかしさに耐えながらも、挨拶はしっかりと。


「えっと、デニス・メープルです。

ライアスさんの…知り合いで、とても良くしていただいています。」


「違う、婚約者だろうデニス。」


うっ、そ、そうライアスさんが言うなら、

既にこの方達は、僕達の事を知っているんだろう。


「まぁ、魔法陣が整い次第、妻となるんだけどね。」


妻!? いえ、それより、魔法陣って…。


「ここに転移用の魔方陣を設置する。

だから私は毎日ここに帰って来れるし、ちゃんと仕事も出来る。

二人の意見が実現できる、とてもいい結果だろう?」


あっけにとられ、しばらく口をきく事さえ忘れた。


「…………何で?」


転移用の魔法陣とは、主要都市に有るとても重要な物だ。

それを設置するには、かなり高度な技術と費用が掛かる。

それなのに、どうしていとも簡単に、こんな辺境の村に設置するんだ?


「デニス、こんな田舎にと思うかもしれないけれど、

ここは辺境だからこそ、急な対応が必要となる。

例えばここは、王都よりも国境に近い。

隣の国とは今は平穏に付き合っているが、

それだからこそ何かしらの変化が有れば、すぐに手を打たなければならない。」


なんだそれ、平穏ならばそれでいいじゃないか。


「それに此処に設置すれば、

拠点となるイズガルドや周辺の村には多大な恩恵が有る。

今まで打ち捨てられていたような所に対しての罪滅ぼしだ。

それに、王都までかなりの時間短縮になり、

商品の物流や人の移動がとても便利になるだろう?」


「だからって、なぜイズガルド?

もう少し大きな町の方が、ずっと適しているでしょう。」


その理由って、こじつけでしょう?

僕にだってわかるよ。


「デニスさん、そうライアス君を虐めないでやって下さい。

それほど国は、彼を手放したがらず、彼を欲していると言う事です。

その彼が、何に代えても失いたくなかったあなたは、とても尊い人だと言う事です。誇りに思っていいですよ。」


「そんな訳無いでしょう!

ライアスさん、そんな馬鹿な事やめて下さい。

そりゃぁ、近くに移転魔法陣が出来れば、皆助かるでしょう。

でも、僕の為に作るなんてやめて。

そんな軽々と作っていいものじゃ有りません。」


僕が必死にそう訴えても、ライアスさんはニコニコ笑っているだけ。

これはもう、絶対に覆らないと、僕は悟った。

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