第25話 希望
やはり僕には過ぎた話だったんだ。
ここで優しい人達に出会い、やりがいのある仕事にも有り付け、
ライアスさんと結婚まで出来るなんて、
そんな事が実現する筈が無かったんだ。
ならば僕はどうすればいいのだろう。
ライアスさんには大事な仕事が待っている。
そして僕を王都に連れて行きたがっている。
でもここの人達は僕の力を必要としてくれている。
僕がここに残りたいと言って、ライアスさんが一人で帰っても、
きっとライアスさんなら、僕より相応しい人がすぐに現れるだろう。
それならば、答えは決まっている。
「ごめんなさいライアスさん。
僕の我儘で、あ…あなたを振り回してしまって。
どうか僕をここにおいて……、王都に帰って下さい。」
ぐしぐしと泣きながら、そう訴えた。
それに対しての、ライアスさんの返事がない。
きっとそれがいいと判断したのだろう。
僕は家に帰ろう。
そして思い切り泣くんだ。
きっと明日は、またいつもの様に患者さんと向き合える。
そして僕は今、自宅のベッドにいる。
一人では無いけれど……。
あの後すぐ、ライアスさんに謝られた。
「悪かった。
いくらでも謝るから、だから私を置いて行かないでくれ。」
と。
置いて行く?
置いて行かれるのは僕のはずなのに………。
ライアスさんの顔は、青く強張っていた。
「デニスの答えで浮かれ、私の気持ちだけで突っ走ってしまった。
すまない。
もっと君の事を考えなければいけなかったのに。
私の中心はデニスだ。
仕事などどうでもいい。
ここに住みたいのであれば私もここに越してくる。
だからお願いだ、
再び私の前から消えないでくれ。」
「そ、そんな事しないで下さい。
ライアスさんは誰からも必要とされる希少な魔法騎士です。
どうか戻って下さい。
僕なら今まで通りで大丈夫ですから。」
そんな事を二人で言い争っていたら、
マリアさんにたたき出された。
「そう言う事は、二人でちゃんと話し合いなさい。
そして二人が納得できる結果が出たら、またいらっしゃい。
お祝いの用意をして待っているから。」
ごめんなさい、お騒がせしました。
家に戻り、二人で話をする。
最初はマリアさんの家でした様な事ばかりだったけど、
時間が経つにつれ、二人でいる為にはどうすればいいか、
本音でぶつかり合っていた。
「そりゃぁ僕だってライアスさんと一緒に居たいよ。
でも、患者さんを見捨てる事は出来ないし、
ライアスさんにお仕事を辞めてもらいたく無いんだ。」
「だが、仕事は私の代わりなどいくらでもいるが、
私にとって、デニスはたった一人だ。
もう二度と手放す気はない。
だから私が仕事を辞め、デニスのもとに来るのが一番いい手段だ。」
「ダメ、絶対だめだ。
それならお互いにお休みが合う時に、会うようにしようよ。
遠距離結婚。
それしかないよ。」
「それは私が絶えられない。
私は毎日デニスに会いたい、共に居たい。
ならばそれは私の我儘だ、
だからこの件については、私に任せてくれないか?」
「ダメだよ。
きっとライアスさんは仕事を辞める気なんでしょ?
それには絶対に賛成しない。」
僕がそう云い張ると、ライアスさんがニヤッと笑う。
反論してくるとばかり思っていたのに、これではどう反応すればいいんだ?
「ちょっとね、いい考えが浮かんだんだ。
仕事は絶対に辞めないし、デニスと一緒に暮らせる方法が。」
「そんな事…、出来る訳無いよ…………。」
僕の否定が尻すぼみに消えていく。
それが出来るならば、
ライアスさんも僕も、仕事を辞めず共に暮らせたら、どんなにいいだろう。
とにかく私に任せてくれないか。
もしそれがダメだったら、また二人で考えよう。
そう押し切られ、ベッドに押し倒された。
「私は明日にでも王都に向かい、手はずを整える。
暫くは一人にしてしまうが、楽しみに待っていてくれ。」
離れている間は、デニスが味わえないからと、
変な理屈を付けられライアスさんに食べられた。
もうがっちりと…………。
翌朝、ペコペコのお腹を抱え、沢山の朝食を作る。
きっとライアスさんもおなかが空いているだろう。
それからライアスさんのお弁当も作る。
後は任せるほかないから、
僕はライアスさんを信じ、待っていよう。
出がけにマリアさんに挨拶をしてから、ライアスさんは旅立っていった。
「お祝いが遅れてしまうのは残念だけど、問題が解決したなら良かったわ。
あなたが戻ってくるまで、
先生の事はちゃんと見張っておくから安心してちょうだい。」
マリアさんは胸を張り、ライアスさんの肩を力強く何度もたたいていた。
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