第24話 我儘

マリアさんの家に行く。

だけど僕はあまり気が進まない。

いやだと言う訳じゃ無いんだ。

ただ恥ずかしいだけ。


つい歩みが遅くなる僕に、ライアスさんは手を繋ぐ。

早くしろと言っているのではなく、

僕の気持ちを考え、大丈夫だよと言っているみたい。

まるで勇気づけるような暖かさが伝わってくる。


手土産など何も無いけれど失礼じゃないかな……。


「王都に帰り、私達の結婚の許可を受けなければならない。

だから今度改めて、王都の菓子でも持って挨拶に来よう。」


結婚の許可。

そうか、ライアスさんは王都に住んでいるのだから。

そちらに報告しなくちゃならないんだ。

でもこんなに早くしなくちゃならないのか?

しかし、王都のお菓子か。

文句なしです。




「えっと……。

こちらは、僕が以前お世話になっていた………方で、

ライアス・ヴェンバリーさんです。

王都で魔法騎士をなさっています。」


マリアさんや皆の顔がまともに見れない。

それでも来た以上、しっかり紹介しなくては。


「デニスの婚約者のライアス・ヴェンバリーです。

初めまして。

よろしくお願いします。」


「何と!

先生の婚約者様ですか。

それも魔法騎士様。

素晴らしい。」


「先生にこんな素敵な方がいたなんて、

全然気が付かなかったわ。」


「でも遠くから会いに来てもらってよかった事。

先生も嬉しいでしょ。

ライアス様、

私達は先生に本当にお世話になっているんですよ。

見てやって下さいな。

この子はこの村での、先生の一人目の患者なんですよ。」


そう言ってルルさんが、まだ生まれて間もない赤ちゃんを抱っこしてきた。

可愛い!

とても綺麗で、珠のような子供。


「お二人のお子さんのお友達になるといいのですが。」


「そうね、いずれ赤ちゃんが生まれたら、幼馴染と言う事ね。」


あ、赤ちゃん!?

そ、そりゃぁ結婚すれば、いずれ子供が出来る可能性は有るけれど、

でも、でも子供!?

ライアスさんと僕の!?

あまりに現実的過ぎて、頭が付いて行けない。


「そうだわ、今日はうちでパーティを開きましょうか。

そんなに大げさな事は出来ませんが、どうぞいらしてください。」


「いえ、大変申し訳ありませんが、デニスと私はこれから王都に戻り、

結婚の許可をもらいに行かなければなりません。」


これからっていつから!?

初耳だよライアスさん。


「まぁ…、残念だ事。

ではしばらく診療所はお休みね。

でも先生、心配しなくても大丈夫よ。

今までの事を思えばしばらくのお休みなんてどうって事無いわ。」


「それならいいのですが。

申し訳ありません、僕の留守中よろしくお願いします。」


マリアさんならば、僕の留守をお願いしても大丈夫だろう。

ライアスさんとこの先ずっと一緒に居られるならばと、

この際その言葉に甘える事にした。


「だがデニス、またこちらに伺うのは、

一体いつになるか分からないぞ。」


「それってどういう意味?

僕はすぐにここに帰ってくるんだよね。」


ライアスさんは、一体何を考えているのだろう。

その言葉だと、僕はしばらく此処に帰ってこれないと受け取れる。


「私には国を守ると言う仕事が有る。

まだ数日残ってはいるが、休暇はあと少しで終わるんだ。

だからなるべく早く、デニスと王都に戻らなくては。」


「でも、でも僕は戻ってきてもいいんだよね。」


「デニス、結婚を許可されたばかりの夫を一人で残していくのか?

それはあまりにも酷くないか?」


笑っている様に見えるけど、ライアスさんの目は笑っていない。

まるで不安そうな目をしている。

だけど、僕はライアスさんの言うがままになる訳にはいかないんだ。


「ライアスさんにお仕事が有るのは分かっています。

国を危険から守る大切なお仕事です。

でも、同じように僕にも仕事が有るんです。

人の命を守り、助ける仕事です。

ライアスさんに比べたら、ちっぽけな治療院の仕事かもしれないけれど、

でも僕は、それを見捨てる訳にはいかない。」


「しかし、デニス。

それでは……。

私はもうデニスと離れたくはない。

それはデニスも知っているだろう?」



「僕だってライアスさんと別れたくは有りません。

でも、その為に、僕の我儘の為にここを離れる訳にはいきません。

ここの方達は、王都から逃げ出した僕に本当に良くしてくれました。

だから………。

まだ恩返しもしていないのに……。」


半べそになりながら、ライアスさんにそう訴える。

みっともないと思うけど、涙が出てきてしまうんだ。


「先生。

私達なら大丈夫ですよ。

なに、元々こんな田舎に治療院など無かったのだから。

もし病気になっても、また馬車で町まで行けば何とかなる。」


「そうですよ。

愛している人の傍に居る事が一番ですからね。

離れちゃいけませんよ。

心配せずに、ライアス様に付いて行きなさい。」


「そんな…。

だって僕は、ここでやっと生きる意味を見つけたのに、

でもライアスさんが…、

離れたく無いけど、

でも、だけど、

うぅ~~~~~。」


涙が後から後から流れてくる。

片方を取れば、片方を諦めなくてはならない。

そんな、僕はどうしたらいいんだろう。

両方を取る方法は無いんだろうか。

無いって分かっているけれど、

それを欲する僕は、ずいぶん我が儘で欲張りだ。

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