第23話 通じた思い

どこへ行くの…。

僕を置いて帰ってしまう…?


「いやだ!

行かないでライアスさん。

ごめんなさい、僕が悪いんだ!

お願いだから置いて行かないで!

僕、言う通りにするから。

何でもする。

だから、もう僕を一人にしないで!」


ライアスさんの後を追いかけ、

扉から出ようとしたライアスさんに後ろから抱き付いた。


「デニス!?」


「ごめん、ごめんなさい。

せっかくここまで来てくれたのに。

物凄く嬉しかったんだよ。

でも、僕なんかの為にそんな事をしてくれたなんて信じられなくて、

嘘だと、夢だと思い込みたかったんだ。

だから、現実と夢がごちゃごちゃになって……。

でも、もうライアスさんと離れるのは嫌だ。

お願いライアスさん、帰らないで!」


本当、もう無茶苦茶だ。

夢だ何だと取り繕っていられないほど、

感情が突っ走っている。


「デニス、君の気持ちを裏切って悪いが…。」


「えっ…。」


「私は今ここから出て行く気はさらさらないが…。」


「えっ……?」


「このままでは気持ちが先走って、君を傷つけそうだから、

一旦頭を冷やしてこようと思って。」


「帰らない?居なくならない?」


「あぁ。」


するっと向きを変えたライアスさんが僕を掻き抱く。

僕もライアスさんを抱きしめる。


「僕は、ライアスさんが好きだ。」


「私はデニスを愛している。」


「僕も、…愛しています。」


またライアスさんの唇が降ってくる。

額に、頬に、耳に、唇に。

嬉しい。

もう何も考えられないほど幸せだ。






「先生!もう日は高く昇ってますよ。

いくら疲れていても、いいかげん起きてご飯ぐらい食べなさい!」


マリアさんが起こしに来た。

しまった、寝過ごした。

お休みの日でも、急病の人が来てもいいように、

朝はいつも通りに起きていた。

きっといつまでも起きた様子が無い僕を、心配したのだろう。


日は既に高く昇っているようだ。

でも、暖かくて、心地よくて、ここから出る気にならない。


「さあさ、焼きたてのパンを持ってきたから、

早く食べて下さな。」


バタンッ!と音を立てて、寝室の扉が開く。

見ると、マリアさんが大きな目をむいて、硬直している。



「あ、あらまあ。

ごめんなさいね。」


慌てた様子で、真っ赤に顔を染めたマリアさんが、

慌てて扉を閉め階段を駆け下りて行く音がする。


「えっと?」


「ぷっ、クククク………。」


背中で、ライアスさんの声がする。


「うっわ~~~!」


どうしよう。

ライアスさんの腕枕はそのまま僕を抱きしめ、

反対の腕は僕の腰に回っている。

さて、と言いながらライアスさんが動く。

首をひねれば目が合った。

そしてまたキス。

バードキスから、深いものに変わる。

チュッッと音を立て、離れていく唇。

寂しい、そう思った。


「さてデニス、これは現実かな?」


「…意地悪。」


やっぱりライアスさんは意地悪かもしれない。

昨夜の名残りが……有る。

違和感、だるさ、倦怠感。

でも幸せ。

これが夢である訳が無い。


「私としては、今日一日このまま過ごす事も吝かでは無いが、

君はどうしたい?」


僕もこのままライアスさんと一緒に居たい。

でも、もし患者さんが来たら、こんなカッコでは、すぐに対応できない。


「ごめん、ライアスさん。」


「いいさ、分かっている。

私が我が儘を言った。」


それからライアスさんは立ち上がる。

まるで絵で見る神様のような姿だ。

思わず見とれてしまう。


「湯を使おう。」


そう言って僕を抱き上げる。

治療魔法を使えば、こんなのすぐ直るけど、

僕はライアスさんに甘えた。




さっぱりと身づくろいをした僕達は、

台所にあった、籠に入ったパンを有難くいただいた。


「ライアスさん、ミルクとコーヒー。

どちらがいい?」


きっとコーヒーだ。

そう思ったが、予想に反しミルクをリクエストしてくる。


「デニスはミルクだろう?」


あぁ、ライアスさんが好きだ。



「で、彼女は誰だい?」


彼女?

ほんの少し考える。


「あ、ああ。

マリアさんだよ。

大家さんみたいな人。」


「あぁ、そうか。

彼女は近くに住んでいるのか?」


「うん。

村自体が、そう広く無いから。」


そう言えばマリアさんに、

見られた。

僕とライアスさんが、一緒にベッドにいるのを。

どう思っただろう。

まぁ、想像はつくけれど。

今頃家では大騒ぎだろうな。

なんて考えていると、またキスされる。


「ひゃ!

ライアスさん!」


「デニス、君は隠し事が苦手だろう。」


「急に、何言うの!?」


「心の中が駄々洩れ。」


面白がっている。

絶対に。


「すまない、幸せ過ぎて、調子に乗った。

良かったら、この後、彼女の家に行かないか?」


「えっ?

行くの?」


「あぁ行きたいな。

私の大切な人がお世話になったと挨拶がしたい。」


大切な人!?

恥ずかしい。

挨拶に行く事も恥ずかしいけれど、

ライアスさんの中の僕が、好きな人から、愛しているに変わって、

今は大切な人になっている。

でも、僕の中のライアスさんは、ずっと前から同じだったんだよ。


「デニスは、出会った頃から私の大切な存在だったよ。」


そ、そうなんですかっ!?

それが本当なら、いや、僕はライアスさんの事を信じている。

つまり、ずっと前から、僕はライアスさんの大事な存在だったんだ。

それを黙って王都を出てきてしまっただなんて…、

もし反対の立場だったとしたら、きっと僕なら耐えられない。

僕は何て事をしてしまったんだろう。

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