第22話 現実は現実だった

突発的に起こった出来事。

僕の意志じゃ無い。

だけど、心の奥深くに有った願望でも有るのだろう。


ただのキスだけど。


でも、僕にとっては特別だ。

だってファーストキスだよ。

誰もが特別だって思っている。

僕は両手で口を覆った。

二度とライアスさんが間違いを犯さない様に。


「嫌だったか?」


口元を抑えたまま首をぶるぶると振る。

嫌な訳が無い。

だって、憧れのライアスさんにキスされたんだ。

僕はもうこのまま、一生いきて行けるぐらいに舞い上がっているよ。


「デニス、婚約しているなら、これぐらい普通だろ?」


再び首を振ったけど、通じたかどうか。

だって、無理やり手を剥がされ、またキスされたから。


「た、確かにプロポーズされて、それにOKしたなら、

婚約者同士となるけれど。」


「そうだろう?」


そしてまたライアスさんが近づいてくる。


「待って、待った。

だめだよライアスさん。」


「続きは?

状況の整理をしているだろう?」


耳元でそう呟くライアスさん。

背筋が撫でられる様にぞくぞくする。

楽しんでる。

ライアスさんは絶対に僕の反応を面白がっている。


こんなのへっちゃらだい。

きっちり整理してやる。


「だから、一応僕とライアスさんは婚約者同士でぇ。」


「一応じゃ無いだろう?」


「はい…婚約者だと思い…。

いえ婚約者です。」


「で、私は婚約者であるデニスを愛しているし、

デニスも私を愛しているんだろう?」


「う…、あ、愛………。

す、好きです。」


「それは納得できないな。

確かにデニスは私を愛していると言ってくれたはずだが。

嘘を付いたのかい。」


「嘘じゃ無い…です。

確かに言いました。

あ、愛してるって。」


「良かった…、相思相愛と言う訳だな。

内心、私の方が夢を見ていたと思い始めていた。」


ご、ごめんなさい。


「そして、その続きはどうした?」


続き?


「えっと、どうなったっけ。

確かライアスさんがこれは現実だと言って、

僕も何となくそう思って、そう思ってから、

………………。

覚えてない。

気が付いたら朝で、隣にライアスさんがいて…。」


「正解。

よく覚えていたね。」


「覚えている…何で?

しっかりと全部、昨夜有った事を覚えている。」


「それでデニスは、それを現実としたいのか、

それとも夢としたいのかどっちだ?

君の返事次第では、私はこのまま帰ろう。

そして二度と君の前に現れない。

君は私の事など忘れ、新しい人生を歩んでくれ。」


ひっ、卑怯だ!


「い、今までの僕の話を聞いて、

ライアスさんがいなくなるなんて、

僕が絶えられないって知っているくせに。

卑怯だ、ライアスさんは意地悪だ。

僕がライアスさんの事を愛しているって聞いたのに、

もう会う事も、考える事も許されないなんて、出来る訳無い‼

どうしてあなたはそんな残酷な事を言えるの。

あんな事言っておいて、

本当は僕はあなたにとってその程度の存在だったんだ。」


もういい!


「僕があなたにとって価値の無い人間ならば、

僕はもうあなたの前から消えるよ。

でも、あなたを思う事だけは許して。

もしそれが気持ち悪いなら、僕の事なんてさっさと忘れてくれ。

僕はまた、あなたの知らない遠い地に行くから。」


僕はベッドから飛び出そうと、もがいて、足掻いて、暴れて、

でもそれをライアスさんは許してくれなかった。


「デニスすまない。

私がやり過ぎた。

許してくれ。」


やだ、もう嫌だ。

あなたにこんな恥ずかしい告白したり、

我が儘を言ったり、

僕はあなたの前から消えてなくなりたい。


「ライアスさん放して!

僕行かなくちゃ。」


「どこへ?

どこにも行かせないよ。」


ライアスさんが僕の四肢を拘束し、押さえつける。

ベッドに。

そうベッドだった。

さっきからずっと二人でベッドの上にいた。

それに気が付いた僕は、顔を赤らめ、更に抵抗するけれど、

相手は騎士、敵う筈もない。

僕に自由になるのは、頭だけだ。


暴れるだけ無駄な抵抗か。

もういいや、疲れた………。


「僕はライアスさんが好きなのに、

ライアスさんは僕をどうしたいの…?」


何が悲しいのか分からない。

だけど、僕の目からは水が流れ落ちている。


「……っ、

すまない、手荒な事をした。

私はこんな事を望んだ訳では無いのに…。

私は君に幸せになってほしくて、

いや、それは欺瞞か。

本心をさらけ出せば、君が欲しい。

ずっと一緒に居たい。

その為の名目、公の契約ともいえる結婚と言う証が欲しかった。

だからそれを強要した。

すまなかった。

私など、君に相応しくないな…。」


ライアスさんは僕を自由にし、

頬をひと撫でしてからベッドから降り、

部屋を出て行こうとする。


「いやだ!行かないで‼」


僕は慌てて彼を追った。

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