第20話 夢か真か現実か

「僕は、その……あの……。」


「デニス、すまない。

私はそんなに君を困らせるつもりは無かったんだ。

そうだな、早急な答えを求めるには、

君にはまだ早かったのかもしれない。

自分勝手な願いをして悪かった。」


「結婚の事、撤回してしまうの?」


思わず出てしまった本音。


「デニス……。

君の考えている事がやはり分からない。

私は、少しは希望を持ってもいいのだろうか。」


希望?

何の?


もしかして、僕がプロポーズを断ったからライアスさんを困らせたの?

もう何が何だか分からない。


「ライアスさん、ごめんね。

あなたの言う通り、もう少し時間をください。」


頭を整理し、もう一度初めから有った事を組み立てよう。

夢の中の出来事で、こんなに悩むなんて思わなかった。

いや、待てよ。

大体にしてこれは夢か?

さっきからおかしいとは感じていた。

感覚からして、ライアスさんに抱きしめられて、

暖かいとか、苦しいとか、いい気持だとか。

おかしくないか?

大体にして夢って、朝起きた時、一部分ぐらいしか覚えていないだろう?

それがライアスさんが現れてからどのくらい経った?


「う~~~~っ。」


現実と夢の境目は一体どこだ。

それとも、これから僕は目が覚めて、今までの事は忘れてしまうのか?

ライアスさんと話した事も、抱き締められた事や、好きだと言ってもらった事を。

それらを忘れてしまうのは耐えられない程、切ない。


「嫌だ、忘れたくない!」


「どうしたんだデニス。」


「ライアスさん、僕は例え夢の中だとしても、

今、あなたと一緒だった事や、話した事を忘れたくない。

それは寂しいし、とても辛いんだ。

それならいっそ、僕はこのままずっと眠ったままだってかまわない。」


どうせ現実でも会えないんだ。

それなら僕は、夢の中の住人になってもいい。


「それは…困るな。」


「ライアスさん……。」


「私としては、デニスからOKを貰い、

これが現実だとしっかり受け止めてほしいのだが。」


「現実?」


「デニス、私と結婚してくれ。」


結婚?


「私と結婚して、この先ずっと一緒に寄り添ってほしい。

だめかい?」


一生。

それは命を閉じるまでの永遠。

それまでずっと一緒にいられる。

そんな事が許されるのだろうか。


「たとえ今拒まれても、

私は諦めないよ。

何度でもプロポーズする。」


「結婚すれば、ずっとライアスさんと一緒に居られるの?

誰に何を言われても、僕と一緒に居てくれる?」


「約束する。」


「結婚したい…、する。」


僕はずっと、あなたの傍に居たい。

だから一緒にいれる資格が欲しい。

でも、我ながら大胆な事を言ったものだ。

今なら、何を言っても許される。

そう思い込んでいたのかもしれない。

しかし、それを聞いたライアスさんが、一瞬目を見開き固まる。


「あ…、いい、ダメならいいんだ。

結婚しなくても、

こうしてライアスさんに会えるなら、僕は満足だから。」


「私は満足なんてしない。

本当に結婚してくれるのか?

私だけの者になってくれるのか!?」


その言葉に、心が躍る。

ライアスさんの事だけ考え、ライアスさんの為に生きる。

それが出来るのならば、どんなにいいだろう。

それを望むなら、後はうなづくだけだ。

でも……。


「僕には患者さんもいるし、とても良くしてくれた人もいる。

だからその人達を放ってはおけない。

でも、だけど、僕はライアスさんの一番になりたい。」


ここまで来ると、かなり身勝手な願望だ。

せっかくライアスさんがそう言ってくれたのに、

もし、それならいらないと言われたらどうする気だ。

だけど、どうしても、困っている人を見捨てる訳にはいかないから。


「はぁ~、仕方が無いよな。

そんなデニスだからこそ、好きになったんだから。

その点については、妥協するしかないな。

我が儘を言ってすまない。

だが、それでもいい。

私と結婚してくれ。

いや、プロポーズの返事はOKだったな。

確かに聞いたぞ。」


そう言えば、結婚すると口にしていたっけ。

でも、それも明日の朝には忘れている。

明日の夢は、また別の夢だ。


「さて、OKを貰った事だし、

具体的な話をしようか。」


「ライアスさん…僕色々有って疲れちゃった。

もう眠い……。」


「そうだな。

後は明日にしようか。」


「うん…。」


ライアスさんの膝の上、

僕は目を閉じ、彼の胸にクタリと凭れる。

あぁ、ここは何て安心できるんだ。

暖かい。

ホッとする。


「ん?

ちょっと待って!?」


何かが違う。

何かを見落としているような気分だ。


「僕はなぜ夢の中で、眠いと感じるの?

暖かさや、苦しさを感じるなんて夢の中では有り得ない。

ね、ライアスさん。

それっておかしいよね。」


ライアスさんにすがるように訴えると、

ライアスさんは、まるで悪戯を見とがれたような、

困ったような笑顔浮かべてる。


「ライアスさん?」


「仕方ないか。

そろそろデニスに現実に戻ってもらわないと、

後であれは夢でした。で片付けられてはかなわない。」


「……………うそ。」


「デニスはうすうす気が付いていたのだろう?」


「そんな事無い…。

これが夢じゃ無いなんて、思っていなかった…。」


思っていないではない、考えたくないだけだろう?

心のどこかで、もう一人の僕が言う。


「嘘、嘘です。

ライアスさん、これは夢なんです。

眼を覚ませば全て消えてしまう、まやかしなんです。」


「それでは困るな。

それでは私は、こうして苦労してここまで来た事、

ようやくデニスを説得し、結婚を了承してもらった事が、

全て無駄になってしまう。」


「それって、

これは夢じゃ無いって事?

現実……?」


「あぁ。」


現実?

ライアスさんの言葉や、

僕がライアスさんの事を好きだと、愛していると言った事も、

結婚したいと言ったのも現実?

全て、実在するライアスさんは聞いていた?


途端に足元ががくがくし、

まるでぽっかり空いた穴に吸い込まれるような気分になる。

僕はこのまま消えてしまいたい………。



そして、ライアスさんが僕を呼ぶ声が、遠くでした。

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