第13話 治療院 初めての患者さん
さて、今日はマリアさんの所に行かなくちゃ、そう思っていた。
でも、玄関のドアを開くと、そこには何人かの人が列を作っている。
一体どうしたんだろう?
「いや、此処に腕のいい薬師さんが治療院を始めたと聞いて、
診てもらいたくてやって来たんじゃよ。」
なんと患者さんでした。
まだいつから開業するか決めてはいなかったけれど、
具合の悪い人を放ってはおけない。
「お待たせして申し訳ありませんでした。
どうぞ中にお入りください。」
皆さんに中に入ってもらい、待合所の椅をすすめる。
そして最初の人に診察室に入ってもらった。
最初の患者さんは少し腰が曲がったおじいさんだった。
「どうなさいましたか?」
少し緊張しながらも、王都での治療を思い出しながら問いかける。
「だいぶ前からね、腰が痛いんじゃよ。
病院までは遠いし、
我慢できないほどではなかったから放っておいたら
最近では痛くて腰が伸びなくなってしまった。」
「そうですか。具体的にいつ頃からと覚えていらっしゃいますか?
「いや、覚えてないな。
最初は大して痛くも無かったから、気にも留めなかった。」
「分かりました。他に気になる事は有りますか?」
「そうじゃな、寝起きや椅子に座り続けた時、
なかなか腰が伸びなくて、特に痛むな。」
「そうですか……、それはお困りですね。」
僕は新しいカルテを作り、症状を書き込む。
「分かりました、ではこちらに横になってください。」
そう言い、傍らの診察台を示した。
それから僕は魔法で、おじいさんの背の体液の流れを辿る。
薬師は普通症状を聞き、それに合った薬を処方する。
熱が有ると言えば、解熱作用のある薬。
痛いと訴えられれば、鎮痛剤を。
両方だと言われれば、調合し渡す。
だが痛みと言っても、打撲から来る痛みや、
神経から来る痛み病から来る痛みなど色々ある。
それを話から分析し調合するのが薬師だ。
1度の診察で直ればそれでいいが、
長引くようならそれなりにお金もかかるし、
薬によっては長期に渡れば、体にも負担が掛かる物もある。
しかし、問診からだけでは分からない事も多数ある。
薬と魔法の併用。
僕だから出来る方法。
薬だけで治らなければ、魔法も使い治していく。
でも僕なんて、まだまだ力は及ばない。
もっと魔力や知識を増やし、どんな場合にも対応できるように、
勉強し、訓練しなければ。
結果、おじいさんの腰は、一部分で体液の流れが滞っている。
僕はそこを重点的に見てみた。
「これは……。」
どうやら背骨からほんの小さなこぶが飛び出しているようだ。
それが神経に触り、痛みを起こしているようだ。
これなら前にも治療した事がある。
「すいません、少し痛むかもしれませんが我慢してください。」
僕はそのこぶを関節に押し戻す為、魔力を込めようとした。
そうだ……。
僕は不意に思いつき、首から下げた袋を取り出し、
それを自分の腕に括り付けた。
不思議だな、
腕全体が暖かくなってくる気がする。
「治療を始めます。
痛かったら遠慮なく言ってください。」
そう伝えてから、僕は少しずつ魔力でこぶを撫でるように、
少しづつ背骨の中に押し込んでいった。
あれ?
「痛みはありませんか?」
普通だったら痛みが伴う治療のはずだ。
「いや、全然。返ってほんのり暖かくて気持ちがいい。」
「そうですか……。
もう少しですから我慢してくださいね。」
痛みも無いのに、一体何を我慢するんだ?
おじいさんは不思議そうに言う。
僕は引き続き、魔力を込めた指でゆっくりと、
マッサージをするように背骨のコブを押し続けた。
「さて、大分良くなったはずです。」
僕は最後に背骨全体を指でさっと擦り、全体の様子を見た。
うん、うまくいった。
この様子なら、しばらくは再発する事も無いだろう。
「さ、ゆっくり立ってみてください。
ゆっくりとですよ。」
おじいさんは差し出した僕の手を支えに、ゆっくりと立ち上がった。
とたんのぱぁっと広がる笑顔。
「なんてことだ。
あんなにつらかった痛みが微塵もないぞ。
おまけに真直ぐ立てる。
先生、あんたはすごい人だ。」
「そんな事ありません。
王都の魔法が使える治療師はこんなこと、いえこれ以上のことができます。
僕なんてまだまだです。」
「そんな謙遜を言うもんじゃない。
史実、こんなことが出来る治療師は、この辺にはいない。
先生は立派な仕事が出来る。
もっと自信を持ちなされ。」
「あ、ありがとうございます。」
「礼を言うのはこちらの方だ。
さて、患者さんはまだまだいるようで先生も忙しいだろう。
お代はいくらだね?」
しまったまだマリアさんに相談していなかった。
「あの…。
僕はまだ始めたばかりで、この治療費がいくらするのか分かりません。
ですので今日のお代は結構です。」
「ばかなことを言うな。これだけの魔法を使った治療を
他の治療院でしてもらえば、少なくとも3,000ゼラはする。」
そんなにするんですか?!
「まだ僕は未熟者ですので、そんなにもらえません。
だから、えーと半分の1,500ゼラで結構です。」
「なんて欲のない事を言う。
そりゃあ、わし達にとっては安ければ、その方が助かるが……。
しかしそれでも安すぎる。
そうじゃ、では値が決まるまでの間、治療費は患者の言い値で、
薬代は別料金とし、相場料金でしっかりとってもらおう。
これでどうじゃ。」
薬の代金なら、仕入れの大体の金額は分かる。
「ええ、ではそれで結構です。
それではこれは念のための痛み止めです。
多分飲まなくても大丈夫だと思いますが、
一応渡しておきます。
ちなみにこれは一般的な痛み止めですから、
頭痛などにも効きます。
必要がなかったら保存しておいてください。
ただ、保存は半年までです。期限は守ってくださいね。
もし分からない事が有ったら、また聞きに来てください。」
そう言い含め、錠剤を1錠、袋に入れて手渡した。
「ありがとう先生。で、薬のお代はいくらだね。」
「はい、200ゼラです。」
「バカを言うな、それは薬の原価だろう。
素人のわしにだって、そのぐらいわかる。」
「確かにその金額で薬は仕入れますけど、
僕は治療でお金をいただきますので、
薬で儲ける必要は無いんです。」
途端にため息をつくおじいさん。
「あのな、どこに行ったって、そんな治療院は無いぞ。
大体にして、先生は薬師だろう。
薬だけ買いに来たやつはどうするつもりだ。
治療に来た奴と薬を買いに来た客で、薬の値段を違える訳にはいかんだろう。
もういい、分かった。」
おじいさんはそう言いながら、財布から5,000ゼラ紙幣を出す。
「はい?
あっ、お釣りですね。
ちょっと待って下さい。」
困ったな。
今日から治療院を開けるつもりは無かったから、
小銭の用意が無い。
「何を言っている。これはわしが判断した治療費と薬代だ。
有名な治療院ではこの倍ぐらいするだろうな。
多いいと思った分は、新しい治療院のご祝儀と思って、取って置け。
いいか、わしが今度来るまでに、真っ当な金額を調べておけよ。」
「わ、分かりました……。
ありがとうございます。
それではありがたくいただかせていただきます。」
それからおじいさんは、まるでスキップでもしそうな勢いで村に帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます