第7話 魔法のような家

薬を買いに来たお客さんと対応する為のカウンターが欲しいな。

薬をしまう棚も必要だ。

調合する為の道具は、ある程度持っているから、それを使えばいいし……。

あとは調合用の作業机と椅子。それとランプも必要だ。

それと、具合の悪い患者さんを診察するための簡単なベッド。

どのくらいの人が来るか分からないけど、待ってもらう為の長いすも欲しいな。

考えれば考えるほど、必要な色々な物が浮かんでくる。

単純に治療院をやろうと思っても、そう簡単に始められるわけではなかったな。

僕は苦笑いを浮かべながら、自分の無知を思う。

しばらくは出来る限りの事をして、

少しづつマイケルさんに相談しながら揃えていこう。

そう思い、代用できるものが無いか、家中を見て回ることにした。


寝室にあった小さなテーブルも何かに使えるだろう。

そうだ、あの飾り扉の部屋に何かなかったかな。

僕は再びあの部屋に向かった。


あの部屋には煌びやかな物ばかりで、

治療院に使えるような質素なものは無かったような気がする。

まさか、僕が始める治療院に、

貴族の屋敷にあるようなイスやテーブルはそぐわない。

でも、背に腹は代えられない。

諦め半分で扉を開けると、すぐ目の前にそれは有った。


「なんで……?

昨日はこんなの無かったのに。」


そこには質素に見えながらも、しっかりした造りの家具が並んでいた。


「すごい、僕が欲しいと思ったものがすべてある。」


いや、それ以上に、あれば便利であろう物までそろっていた。

棚にはすでに薬瓶が並んでおり、

ラベルを見るといろいろな種類の薬草まで入っている。

手洗い用のボール、水を入れるタンクまであった。


「どうして僕の欲しいと思っていたものが、いきなり現れるの……?

そりゃあお婆さんは、有るものは好きに使っていいって言ってくれたでど、

本当にこれを使ってもいいのかな。」


金額にしたら、かなりの物だ。

でも、これらがあれば、すぐにでも治療院が始められる。

うれしい。

気が付けば僕はもう迷ってはいなかった。


「さぁ、忙しくなるぞ。」


これらを下に運ぶのは大変だ。

もしどうしても無理ならマイケルさんに頼むしかない。

取りあえず僕は、簡単に運べる水タンクを持ち階段を降りた。




「な、何で!?」


タンクを置こうと、治療室にする予定の部屋に行くと、

既に上に有った家具が僕の考えていた位置に、きちんと配置されていた。

僕はあっけにとられる。

まさかと思い、他の部屋も開けてみた。

隣の小部屋には、やはり見た事の無い背の高い棚が有った。

薬を売るスペースには、カウンターと薬棚が。

おまけに奥にはもう一つ、見慣れない扉が出現していた。


「ここって……まさかね…。」


この居間のスペースだけでは、薬の調合などをするスペースを作るのは無理だ。

そう思い諦めていた。

だから二階の奥の部屋を仕事場にしようと思っていたのだけれど……。


恐る恐るその扉を開けると、想像通りの部屋だった。

広い作業机に、コンパクトな流し、

壁には大きな棚が据え付けられ、

そこには調薬に必要な干した薬草が、

整然と並んだ引き出しの中に収められていた。

おまけに加熱用のコンロが有り、薬を煎じる鍋まである。


それらを見た僕は、思わずめまいを覚える。


「何なんだ、この家は…。

物が出現するだけでなく、家の構造まで都合よく変わるなんて。

やっぱりこの家は特別な家なんだ。

僕なんかにはもったいない。」


僕は急いでこの家を飛び出そうとしたけれど、

扉や窓は、押そうが引こうが、びくともしない。

まるで意地でも僕をここから出さないと、言っている様だ。

暫く無駄な努力を続けて、僕はとうとう根負けしてしまった。


「分かった、僕の負けだよ。

でも、本当に僕なんかでいいの?

僕はろくに力も無いし、特別でも無い存在なんだよ。」


椅子にぐったりと腰かけ、この家に話しかける。

君がいい、君は特別だよ。

そう家が言っているように思えた。


この家に来てから、いろいろ不思議が有ったけれど、

ここまで来ると、もうすべてを受け入れるしかない。

そう考えていると、誰が開けたでも無いのに扉が自然に開いた。

もう何が有って大丈夫、驚くのにも慣れた。

そう思い、僕は作業に戻った。

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