第4話 新しい我が家
「家が整うまでは、ここに住みながら片付けに通うといいわ。」
そうマリアさんに言われたけれど、そこまで甘える訳にはいかない。
あちらで片付けをしながら住めばいい。
そう思った。
次の日、朝食をごちそうになってから家の場所を聞き、村はずれへ向かう。
だがなぜかマイケルさんと、ゴードンさん。
それにマリアさんまでもが一緒だった。
さすがにお腹が大きいルルさんはお留守番の様だ。
各々に大工道具や、掃除道具を持っていて、
どうやら片づけを手伝ってくれるみたいだ。
「ありがとうございます。
でも、僕一人でも大丈夫ですよ。」
そう言っても、皆はニコニコ笑いながら付いて来る。
おばあさんの家は村はずれに有ると言っても、
集落から400mほどしか離れていない。
狭い村の利点だな。
どうやらこの道をまっすぐ行くと、例のケモノ道みたいだ。
病人やお年寄にはここまで来るのはちょっと大変かもしれないが、
薬品を扱うのだから村から少し離れているほうが理想的な距離だと思う。
マイケルさんが預かっていた鍵で家の中に入る。
3年間放っておかれた家にしては、
さほど汚れている様子も傷んでいる様子も無かった。
「ずいぶんきれいになっているな。
きっとあちこち埃をかぶっていて、
雨漏りなんかもしているんじゃないかと思っていたが。」
そう思うのも無理もない。
この家の外見は、あちこち苔が生え、傷んでいるように見えたから。
不思議だな。
「とりあえず、中はざっと掃除すれば大丈夫そうだな。
俺達は外の様子を見てみよう。」
中の掃除はマリアさんに任せ、僕たちは外に出てみた。
そして、あちらこちらにこびり付いている苔を、ヘラで削ってみる。
驚いた事に、苔は簡単に落ち、その下からはしっかりした木材が姿を現す。
「どういう訳だ?
苔の下は、どう見ても真新しい木材の様じゃないか。
腐っている所もなさそうだし、
これなら外も苔さえ落とせば手入れしなくても良さそうだな。」
マイケルさんはそう判断し、僕達は外壁の苔をそぎ落とす作業にかかった。
しかし、これはさすがに時間が掛かった。
何せ屋根から壁、柵に至るまで、あちこちに苔が生えていたから。
そして全てが終わる頃には、日も傾き始めていた。
「ここに来た時は使えるかどうかも分かったもんじゃ無かったけど、
ずいぶんと立派になったじゃないか。」
マリアさんの言う通りだ。
苔を取り、ブラシで土を落としたおばあさんの家は、
まるで建てたばかりの家の様に見えた。
僕はマイケルさん達に、今夜からこの家に寝泊まりすると告げると、
せめて明日からにすればいいと言われたが、
僕はその誘いを断った。
「なるべく早く、治療院を開いて、皆さん恩返しをしたいんです。
その為に早く足りないものを調べて、買い足したいのです。」
残っている荷物も全て使っていいと言われている。
有る物で済ませられれば、それに越したことは無いけれど、
多分、足りない物は数多くあるだろう。
「仕方ないねぇ。
どうやらお婆さんは、自分の荷物は全て置いて行ったようだ。
戸棚に有った布団は干してあるし、必要な物も揃っているからね。
夕食は後で届けてあげるよ。」
「そんな…、僕なら大丈夫ですから。」
携帯食はまだ残っているし、
裏の井戸は綺麗に澄んでいて、飲料水としても十分使える。
「もう暫くうちに居てもらうつもりだったけど、
どうやらデニスさんは、うちの旦那以上に頑固のようだから、
せめてこれ位させてちょうだい。」
そう言うマリアさん。
「何かあればまた手伝いに来るから、気兼ねなく声をかけてくれ。」
と言うロバートさん。
そして皆は手を振り帰っていった。
「ハァ、さすがに今日は、ちょっと疲れたな。」
一日中動き回るなんて、ここ何年も無かった事だ。
僕はマリアさんが持ってきてくれた暖かい食事を取り、
一息ついていた。
「さて、今夜はどこで寝よう。」
別に何処だっていいんだけど。
今座っているソファだって全然かまわない。
でも、せっかく布団を干してくれた事だし、
探検を兼ねて家の中を調べる事にしよう。
玄関を入れば、すぐに広い部屋に繋がっている。
その隣のドアを開ければ居間だった。
驚いた事に、玄関を入ってすぐの部屋にもう一つのドアが有り、
そこを開けると、そこは小さな部屋になっていて、ベッドが一つポツンと有った。
きっとお婆さんは、ここを寝室にしていたんじゃないかな。
二階に上がるのが大変で、きっと生活の場を1階に限っていたような気がする。
それから居間のちょっとした仕切りの向こうには台所。
あとは風呂とトイレ、その横のドアを開ければ、外に通じていた。
薄暗くてはっきりわからないけど、
そこには屋根が有って、洗濯できる場所になっているようだ。
階段を上がると、扉が2つ
手前の扉を開けると、ベッドが二つあり、どうやら寝室のようだ。
部屋の中の戸棚を開けると、寝具がそろっている。
「これって使ってもいいのかな。」
顔を寄せると、お日様のいい香りがした。
「この布団で寝ると、とても気持ちがいいだろうな。」
僕は我慢ができず、ベッドに布団を敷き、眠ることにした。
早々にベッドにもぐりこみ頭まですっぽり布団をかぶる。
「あったかーい、気持ちいい―。いい匂い―。」
すっごく満足!
そして僕はそのまま眠りに落ちてしまったようだ。
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