第2話 道連れ
僕は次の日も馬車に揺られていた。
王都が遠くなる分、徐々にイズガルドに近づいていった。
それからまた一日経ち、3日目に馬車に乗り込んできたルルさんは、
お腹の大きな妊婦さんだった。
出産するため、イズガルドにの実家に帰るところだそうだ。
僕達は小さい頃はまだ性別がはっきりしない。
いわゆる中性なのだ。
時が経てば自然と体は変化し、男性と女性に成長していく。
その要因は精神のバランスが大きく影響する。
好きだなと思い、恋をし、愛し合い、自然と体が変化していく。
だが、その時期ははっきりと決まっていない。
ただ、いいなと思っただけでも、体が変化してしまう時も有るらしい。
まだ年若いこの人は、明らかに女性で妊婦さんだ。
きっと愛する人と結ばれたんだな。
羨ましい。
「では、行先は同じ村なんですね。」
「はい、よろしくお願いします。」
世間話をしながら、行き先は同じ場所だと知る。
でも、妊婦さんが長時間馬車で揺られるなんて、無茶もいいところだ。
僕はなるべく、ルルさんから目を離さないようにしようと思った。
その日は何事もなく過ぎ、僕はルルさんと同じ宿を取った。
宿のおかみさんに理由を話し、隣の部屋を取ってもらう。
産み月までわずかと聞いていたし、何より長時間馬車に揺られているんだ。
もし何か有った場合、すぐに助けられるようにしなくては。
僕はベッドで眠らず、隣の部屋に隣接する壁に寄り添い、
毛布にくるまり休んだ。
これならルルさんに何か異変が起きても分かるだろう。
明日の夕方には終点の村に着く。
その後は徒歩なので、その村でもう1泊だな。
ルルさんは、実家から迎えが来ると言っていた。
それまであと1日、何事もなく過ぎてくれればいいんだけれど。
次の日、連日馬車に揺られて大丈夫だろうか、と思っていたその日。
ルルさんの具合が急に悪くなった。
馬車が走り出し、半日が過ぎた頃だろうか。
ルルさんの顔色が徐々に悪くなり、脂汗を浮かべている。
「大丈夫ですかルルさん。」
「ええ……。ちょっとお腹が締め付けられるような気がするけど、
大丈夫、今日中には家に帰れるんですもの。」
無理に微笑んではいるが、これ以上放っておける状況ではなさそうだ。
同じ馬車に乗っていた人達も、心配そうにこちらを見ている。
僕は御者さんに病人がいると伝え、馬車を止めてもらった。
馬車の上に積んであった荷物から、薬を入れた小折を下ろし、中から妊婦に飲ませて大丈夫な安定剤や痛み止めを取り出す。
それをルルさんに渡し、水筒を取り出した。
「ルルさん、これは赤ちゃんに影響のない薬です。
安心して飲んでください。」
「あ、ありがとうございます。」
ルルさんはゆっくり薬を飲み下す。
その後僕はルルさんのお腹に両手を重ね、ゆっくり魔力を込める。
僕の手がかすかに光り、患部にしみ込んでいく。
「まだだよ、その時が来たら自然にお母さんに会えるからね。
もう少しお母さんのお腹の中で眠っていて。」
僕は言い聞かせるように、小さくそう呟く。
光が消えると共に、ルルさんから静かな寝息が聞こえ始めた。
「もう大丈夫でしょう。
目的地まであと少し、このまま寝かしておいてあげて下さい。」
乗客の皆さんも安心した顔をしている。
辺境の目的地も近い事から乗客の数は少ない。
皆は席を少しづつ詰め、ルルさんが横になれるようなスペースを作ってくれた。
御者さんは、自分の荷物から毛布を取り出し、ルルさんに掛けてくれた。
皆優しい人達。
それからほどなくして目的地に到着した。
「ルルさん、気分は悪くありませんか?」
「ええ、大丈夫です。
さっきの事がまるで嘘みたい。
お腹も軽いし、ほこほこ暖かい感じがします。」
「そう、それは良かった。」
調子はすこぶる良さそうだ。
皆のしてくれた事を知ったルルさんは、
御者さんをはじめ、皆さんにお礼を言い頭を下げた。
「丈夫でいい子を産んでくれよ。」
「子育ては大変かもしれないけど、
それに報いる幸せがきっと有るから、頑張ってね。」
そう励まされ、優しい人達と別れた。
ルルさんは予め、実家におおよその到着時刻を伝えていたようで、
お迎の馬車はすでに来ていた。
馬車と言っても、荷馬車に藁を目いっぱい積んだものだ。
「デニスさんもイズガルドに行かれるんですよね。」
「ええ、今日はこのトルドネの町で1泊し、明日ゆっくり向かいます。」
「もしよろしければ、うちの馬車で一緒に行きませんか?
乗り心地のいい座席は十分空いていますし。」
そう言って、たっぷりの藁を指さした。
「そんな、ご迷惑かけれません。それに今から行っても宿を探す時間もないでしょうし。」
するとルルさんが笑いながら、
「やだ、デニスさん、イズガルドに宿なんてありませんよ。」
「ええ!本当ですか!?」
「本当ですとも。
もしかして、宛もなくイズガルドに向かっていたんですか。」
「お恥ずかしい話ですが、その通りです。」
「イズガルドで何を、いえ、そんな話をしていてもきりがありませんね。
取り合えず、うちの馬車で一緒に行きましょう?
そして今夜はうちに泊まって下さい。
その後の話は着いてからしましょう。」
「そんな……ご迷惑をかける訳にはいきません。」
「私の方こそ、ご迷惑を掛けちゃったんですもの。これ位どおって事有りません。」
「そんな、大袈裟です。
僕は大した事などしていませんし。」
「大袈裟なんかじゃありません!」
1歩も引かないルルさん。
イズガルドに宿が無いなんて予想外だった。
でも、あちらの様子を見てみないと、先に進めないし、
此処はお言葉に甘えようかな。
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