第5話 やっぱり

それは周りが寝静まろうとしている宵の刻に起きた。


カ~ン カ~ン カン!


商隊の警護をしていたであろう傭兵達が襲撃を知らせる鐘を鳴らしたのだ。


「数が多いぞ。サッサと用意しろ!」


テントの外から聞こえてくる傭兵達の怒声からして野盗の奴らではなく魔物による襲撃のようだった。


鐘が鳴り始め仮眠から目覚めた俺も自己防衛のために装備を整えるとテントの外へ出て魔物の襲撃に備える。


「こいつらは、グレーウルフの群れか」


雨は止んでいたが夜の暗がりで正確な数は把握出来ない。ただし魔力の反応から結構な数が群れでやって来ている様だ。


「この数で統率が取れているようだから何処かに強いリーダーがいるはずなんだが」


俺は魔法による索敵の範囲を拡大してリーダーと思われる個体を識別していく。


すると、俺から見て右手奥の方、街道を渡った草原の方にひと際濃厚な魔力を纏った個体を感知することが出来た。


「んっ、こいつがそうか。その周りにもリーダーのウルフを守るように10匹ほど残って警戒しているな」


俺はまだまだ寝足りないから、早々にご退場願おうかな。


ジャンプ‼


短距離の転移魔法名を唱えリーダーの真横に転移すると、俺はその首に風属性を付与しいるロングソードで斬りつけ一刀両断にした。


ゴフッ!


状況を理解できずに、叫び声にすらならない声を上げるグレイウルフのリーダー。


俺は周りで警戒しているウルフ達が気が付かない内に、倒れる寸前のリーダーの亡骸を俺の収納庫へと取り込んだ。


不意打ちと非難することなかれ、一人旅では常套手段なのだから。


“己の身は己で守る”自己責任はこの世界の常識でもある。


ジャンプ!


この場での余計な戦闘を回避して、俺は自分のテントの設置場所へと転移移動する。


野営地に戻ると、そこではまだ傭兵達とウルフ達との戦闘が続いていたが統率者が居なくなったことで逃げて行くウルフが大半となっていた。


そして、戻って来た俺はウルフ達と戦闘している傭兵達に何もしていないと思われると後々面倒なので、自分の周りに寄って来たウルフを適当にいなして“戦闘に参加しています”よとの格好だけは一応しておいた。



翌朝起きてテントの外へ出てみると、前日の雨がまるで噓のように快晴の青空が広がっていた。

その青空の下、野営をしていた商隊と傭兵達が次々と出立していく。

俺はその様子を見ながら今日これからの行動予定を考えるのだった。



五日後……。


予定通り次の街に到着した俺は道中で仕留めた魔物の素材を換金するべく素材の買取屋に足を運んでいた。


「ほう見事なもんだな。これなら商人組合の方が高く買い取ってくれるのではないか」


「いや、俺はハンター組合には登録しているが商人組合には登録していないから取引は出来ないんだよ」


「そうか。俺が言うのもなんだが、まぁ商人組合は年会費も馬鹿にならないからな」


「そういう事。だから、ここでの買い取りを頼むよ」


「わかった。出来る範囲で色を付けて買い取ろう」


「ありがとう、助かるよ」


こうして俺は収納庫の中にあった余分な素材を買取屋で放出することが出来た。

金は腐る程あるので、俺は買取金額よりも素材の処分の方を優先したのだった。

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