第3話 おおきいねずみ

次の扉へとたどり着いた俺はさっそく部屋の中へと足を踏み入れた。


「おわっ~!」


余りの大きさに驚いて思わず声をあげてしまったが、そこには赤色の長毛を身に纏ったネズミが鎮座していた。


「こんな大きな奴には遭遇するのは初めてだな」


立ち上がると身長180㎝ある俺と殆ど変わらないであろう体格だ。

今日は日が良いのか悪いのか。

ドロップするアイテムには期待が持てそうだが、戦闘には苦労しそうだよな。


と…俺がそんなことを考えている間に、戦闘の準備が整ったようで奴は赤い瞳を光らせると、体格からは想像も出来ない速さで俺の方へと駆けて来た。


「おいおい見た目の印象と随分と違うな」


俺は独り言をいいながらも、余裕を持って横へとその突進を避けた。


ギュ~ギュ~!


3m程先で立ち止まり振り向いた奴が威嚇の声をあげる。


チュ~チュ~ではないらしい。


俺は即座に剣を構えて次の突進に備える。



15分後……。


突進と爪の攻撃をかいくぐりながら剣で少しづつ斬りつけようやく倒すことに成功した。


「いつもならもっと楽な奴が出てくる筈なんだがな」


俺が独り言ちていると、奴の消えた後には俺の拳ほどの大きさの赤色の石が転がっていた。


「あ~外れを引いてしまったか」


難儀な奴を相手にしたため俺は落胆した気持を隠せなかった。

それでも気を取り直すと、とりあえずその落ちている丸い石を拾い上げた。


「なっ!」


拾い上げて手に持った瞬間、俺はその石がとんでもない代物だと理解することとなった。


「有り得ない」


それはまさかのクリスタルボールの『レッドボール』だったからだ。



俺はこの日、ここでの探索を早々に切り上げて宿に戻る事にした。



「あら、今日はやけに早いわね」


「はい。気になるアイテムを手に入れられたので、その検証をしようかと」


「そう。でもその作業をする事で部屋の中は壊さないでね」


「それはもちろんですよ」


その危険はないと思うが……。


借りている自分の部屋に戻った俺は、扉に鍵を掛けると部屋の中全体に防音防護の為の結界を張り、検証の為の準備を始めた。



「さて、準備も整ったところで早速始めるか」


テーブルの上に用意した検証用のスクロールにクリスタルボールを乗せて少しずつ魔力を流していく、そして注入されていく魔力に反応してスクロールに描かれた魔法陣が徐々に光を放ち、クリスタルボールをその光が包み込んでいった。


カッー!


最終段階を迎えて光が収まるとクリスタルボールを乗せていたスクロールの魔法陣が消えてそこには新しく検証の結果が記されていた。


俺は遂に念願のアイテムを手に入れることが出来たようだ。


そして部屋に張った防音防護の結界を解除すると、気持を落ち着かせる為に俺は一度大きく深呼吸をした。


「いよいよこの迷宮都市から離れる時が来たようだ。2、3日掛けて準備を整えるか」


こうして俺は旅立ちに向けて準備を始めるのだった。


◇◇◇◇◇


全く。


あやつと来たら毎回毎回容赦なくお宝を持って帰る奴じゃった。


迷宮の主たる我がお宝を準備するのにどれだけの苦労をした事か。


これで、我もこれからはのんびりと仕事ができるじゃろうて。

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