7 島のみんな
わたくしと空はもう日も暮れてきたし今日の18時から持ち寄りパーティーが始まると言うのでそろそろ天海の家に向かうことにしたのですわ。
「空ちゃん、海猫ちゃん見つかった?」
わたくしたちが天海の家に着いて玄関に入るとそこにさやこさんが立っていました。どうやら空の事を出迎えてくれたみたいですわ。出迎えてくれてたのは空の事だけかしら。わたくしの事も出迎えてくださっていたら嬉しいのだけど。でも、出迎えたと言っても聞きたい事があっただけかしら。
「ううん。それが出会えなくて。もしかしたら、この持ち寄りパーティーに来るかも。凛さん楽しみにしていたみたいだから」
空はそう残念そうに言ったのですわ。
「そう残念ね。でも、そうよねこのパーティー島のみんなが来るみたいだしね。そう言えば言っていなかったわね。空、天翔さんお帰りなさい」
さやこさんは思い出したように振り返って空とわたくしに向かってそう言って笑いかけてくれましたわ。もしかしたらわたくしの心の声が聞こえているんじゃないかとドキッとしちゃいましたわ。その笑顔はとても暖かくまるでわたくしも家族の一員になったのではないか錯覚してしまいますわ。涙が出そう。
「ただいま。お母さん」
「ただいま」
わたくしもつい調子に乗ってそう返してしまいましたわ。なんだか照れくさくて変な感じですわ。わたくしはもともと家族との縁が薄かったので。神になったら家族ってものはなくなりますから。もう何100年そういうものと縁がなかったのでしょう。神は基本1人なものですから。この島の神様の天海みたいなのは本当に少数派でほとんどこんな例はないですもの。普通人間との直接的な関わりなどないものですし、もちろん人間以外との直接的な交流などあるものではありませんもの。
だから、ただいまなんて言葉ものすごく久しぶりに言いましたわ。
大広間に入るとそこにはもうすでにたくさんの人がいたのですわ。
そして大広間に入って適当に座ってパーティーが始まるのを待っていることになったのです。
しばらくして時間になったのでパーティーが始まったのですわ。
わたくしたちは部屋の端っこの方でワイワイしているのを眺めながら静かにご飯を食べていたのですが、急に空が立ち上がってベランダでたばこを吸っている天海のところに近寄って行ったのですわ。
もうパーティーから1時間ぐらい経っていてお酒を飲んで出来上がっているおじさんがちらほら見えるようになった頃ですわ。
わたくしは心配になって空について行くことにしたのですわ。空は男の人が苦手なのですわ。昔に男の人に誘拐されそうになったことがあってそれ以来トラウマになってしまったの。だから心配になって。
「神様。今、少しよろしいですか」
そう言って天海に話しかけた。どうやら天海は大丈夫らしい。さやこさんは苦手のようだったけど空は大丈夫らしい。また違うのだろうね。きっとさやこさんは男の人が苦手なのではなくて高圧的で上から目線の人が苦手なだけなのだろう。空が天海の事が大丈夫なのはきっと空の事を天海は全く女として見ていないからトラウマが発動することはないのでしょう。あの時、空を誘拐した男はロリコンで空の事が好きだったから誘拐したのだから。まだ小さかった空を性的な目で見ていたのだ。あれは本当に許せない。まぁ天罰を与えておきましたが。それでそう言う目が苦手になった。残念なことにほとんどの男の人は空をそう言う目で見ている。それが今では男の人が苦手になってしまった。ってことなの。ほとんどの、いや全員が下心があって近づいてくるものですもの。特に空は飛び抜けて美人だから。仕方ないのかもしれませんが。
「あぁ別にいいが。何だ?」
ベランダに置いてある椅子に座っていた天海が少し驚いたようにそう言った。空は天海の前の椅子に勝手に座った。天海の前には丸いテーブルが置いてあってそれを挟んで椅子が4つ置かれていたのですわ。それは外用のテーブルのセットのようで鉄で出来ているやつね。この家は平屋で大広間はもちろん1階なのでベランダは庭のようになっていて外に繋がっていますわ。わたくしも空の隣に勝手に座ることにしたのですわ。
「凛さんのことですが。今日少し探してみたのですがどこにもいなかったんです。この持ち寄りパーティーにも来ていないみたいですし」
空は前のめりになってそう心配そうに天海に向かってそう聞いた。
「本当か?確かに来ていないようだな」
天海は驚いたように後ろを振り返って大広間を見渡して、本当に凛ちゃんが居ないことを確認したようですわ。
「神様ならどこにいるのか分かりませんか?」
そうすがるような目で天海の事を見つめてそう聞いた。それならわたくしを頼ってくれたらいいのに。と、少し天海に嫉妬しましたわ。でも、まあわたくしには凛ちゃんの居場所を探すのは無理なのですが。今のわたくしには写真を見ただけで直接会ったことのない人は探せない。空ならわたくしの力を使えば出来ないことはないはずだがまだ力を使ったことはない。だから、どちらにしろ頼られても何も出来ないのが現状なのですが。
「分かった。やってみよう。ちょっと待っていろ」
そう言うと天海は立ち上がり目を閉じた。いつの間にか手に持っていたタバコが消えていたからやっぱりあれは本物ではなかったののですわ。なら、中で吸っても問題ないんじゃないかしら。まぁ外の空気を吸いたかったとか1人になりたかったとかかしらね。
「どうやらこの島にはいないらしい。ったく。一体どういう事だぁ?あぁ?勝手に島の外に出たのか?でもなぜだ?どうやった?今は誰も島の外に出られねぇんじゃねぇのか!」
天海は一瞬目を閉じていたと思ったが辺りが綺麗な金色のような光に包まれたと思ったらすぐ目を開けてそうイライラしたように頭をガシガシ搔いていましわ。
「あの。どういう事ですか」
空は天海の様子を見て困惑したようにそう聞いたのですわ。こんなピリピリした天海に話しかけるなんて空は案外、怖いもの知らずだったのね。
「あぁ。俺にもよく分からん。一体どういう事なんだ。凛の事を探してみたんだが、どうやらこの島のどこにもいないらしい。それ以上は分かんねぇんだ。まったくなんなんだ。はぁ。いつこの島から消えたんだ」
空の声を聞いて我に返って少し落ち着いたのか、再び椅子に座ったのですわ。そして、天海はそう言って悔しそうに椅子に座って頭を抱えていますわ。
「この島にいない?じゃあ、どこに?もうこの島から出られるんですか?」
空は海の方を見つめてそう不思議そうにしていますわ。
「もしかして、悪魔じゃないの?」
わたくしは空の体から感じたかすかに悪魔の匂いを感じた事を思い出してそう言った。このタイミングで何か起きたとしたらきっとそれは悪魔の仕業なのではないかと思ったのだ。それ以外に理由が思いつかなかった。
「悪魔って何?」
空が不安そうな顔でそう聞いてきましわ。
「悪魔は悪魔だ。普段は魔界に住んでるからこっちに来ることはないんだがな。どうやらこっちに来ているようなんだ。今日お前たちがこの島に来たのもその悪魔の仕業らしい。なにが目的はまだ分かってないがな。見た目は人間と同じ姿だ。まあこっちにいる時だけだろが。だが、だとしたら厄介だな」
天海は苦しそうに顔をゆがめてそう吐き捨てるように言った。やっぱりあんなでもちゃんと島の人たちのことを大切に思っているのね。なんだかわたくしは嬉しくなってしましたわ。こんな時だというのに。
「悪魔にさらわれたってことですか?」
「あぁそうかもな。ちょっと待ってろ。この近くの島にいるなら俺なら分かる」
そう言うとまた目を閉じて意識を集中させているみたいですわ。今度はさっきより長く目を閉じていた。そして前より範囲が広いためかさっきより光の色が薄かった。それをわたくしと空は黙って見守っていますわ。
「どうですか?」
天海は目を開けたのを見て耐えかねたのか空がそう聞いた。凛の事が心配でたまらないのだろう。
「いや、どこにもいなかった。俺には分からないほど遠くにいるのか、もしくは……」
そう言うと天海は黙ってしまった。
「もしくは、何なんですか?」
空は相当心配しているようですわね。一瞬でも早く聞きたくてしょうがないみたい。
「もしくは……。魔界に連れていかれた可能性があるな」
天海はそう重苦しい不人気を纏って言った。相当、深刻な状況にあるようね。まぁ相手は悪魔なわけだし、それにまだ目的が分かっていない。もし、目的が人魚の肉だったら。アマビエ猫は人魚とは違うのですが、よく似ているから間違えた可能性はある。だとしたら、凛の命が危ない。いや、もしかしたらもうすでに……。殺されているかもしれない!これは大変なことですわ。一刻も早く凛の居場所を見つけなければ。
「いや、まだ殺されているわけではないようだ。だとしたら目的は不老不死ではないだろう。だからすぐ殺されることはないはずだ」
わたくしの心を読んでいたみたいね。趣味悪い。でも、無事なのは安心したわ。
「どうして殺されていないと分かるんですか?」
空はわたくしと天海を交互に見て不思議そうな顔をしていましたわ。いろいろ疑問はあるようだがまずはそれを聞くことにしたらしいですわ。空はいぶかしむようにしてそう聞いたのですわ。
「俺と島の奴らは全員名前で繋がっている。殺されていればその繋がりが消えるから分かる。でも、それは繋がっている。殺されていないってことだ。でも、通信は繋がっていない。距離が遠すぎるんだろ。だとしたら地球上にいないんだろう。ってことはたぶん魔界にいるんだろうな」
天海はようやく冷静になったみたいね。ずいぶん落ち着いている。消えたタバコは再び現れて天海はまたその煙草を吸っていますわ。もしかしたら、このタバコのおかげて落ち着きを取り戻したのかもしれないわね。まだ、殺されていない。その言葉を信じる事に致しましょう。
「悪魔が人魚を襲う理由ってなんなのですか?」
わたくしは気になってそう聞いてみたのですわ。魔界に行く方法なんてあるのでしょうか?少なくともわたくしは知りません。そもそもわたくしは悪魔になんて会ったことがないですし。一体どんな種族なのでしょう?
「なにも不老不死に憧れるのは人間だけじゃない。悪魔だって同じだ。悪魔にだって寿命が存在する。永遠の命なわけじゃない。人間に比べれば長く生きるがいつかは死ぬ。だから、悪魔も人間と同じように不老不死に憧れるものも多い。だから、人魚の肉を食べれば不老不死になれるなんて迷信を信じたバカが人魚の肉を手に入れようと人魚を攫うことがないとは言えない。まだ殺されていないことを考えれば人魚の肉が目的だと断定は出来ないが、その可能性が消えたわけではない。まだ何も分かっていないのだ。決めつけるのは良くないだろう。だが、これ以上どうしたらいいのか俺にも分からない」
タバコをふかしながら天海は冷静にそう言ったのですわ。タバコの白い煙が辺りに広まっているがそれを吸っても煙たくなくて水蒸気のようですわ。だからきっと幻、幻想のようなものなのね。天海からしたら本物と同じなのだろうか。わたくしたちにとって幻想なだけで。まあ、それはどちらでもいい事ですわね。それより、凛のことよね。
「なら、私。明日凛さんの足取りを調べてみます。いつ、どこで消えたのか分かればもっと何か分かるかもしれませんから。もしかしたら何か目撃している人がいるかもしれませんし。まだ悪魔の仕業と決まったわけじゃないんですよね」
空はわたくしと天海の事を真っ直ぐ見つめてそう言ったのですわ。その瞳はとても澄んでいて本気で凛のことを心配しているってことが伝わってくる。彼女の心の美しさがその綺麗な真っ黒な瞳に現れているようですわね。
「そうだな。そうしてくれると助かる。頼んだぞ。空」
天海も空の事を真っ直ぐ見つめ返してそう言った。そう言えば天海はそう言う人でしたわね。まぁ人ではありませんが。ちゃんとお礼を真っ直ぐ伝えられる人。そして、初めて空の名前を呼んだのですわ。空を見てみると表情は変わっていませんが少しドキッとしたのがわたくしには分かりますわ。こういう事に空は慣れていませんものね。空は女子高に通っていて周りに男が居ませんし、男性に下心なしでこうして頼られるのは初めてでしょうから。
「はい」
空は本当は照れているのに表情を変えずにそう返事をしたのですわ。その白い陶器の様な肌は変わらず白いままですわ。
そう言うと空は大広間の方に帰って行きましたわ。わたくしはここに残ることにしたので空が戻って行くのを見送ったのですわ。
「その顔やめなさい」
わたくしは空を見送りながら天海の事を横目で見らがらそう言ったのですわ。
「何がだ」
タバコを吸いながらその白い煙を吐き出しながら下を向いていた顔をだるそうにあげて髪の隙間からわたくしを見てそう吐き捨てるように言った。
「こんなときに不謹慎よ」
今度は天海の顔を見つめてそう言った。
「あぁ?あぁ。そうだな。気を付けるよ」
天海は自分の顔を触って自分がどんな顔をしているのか気づいて元の顔に戻したのですわ。自分が笑っていたことに気づいていなかったのね。口の端をつりあげて楽しそうに笑っていたのですわ。下を向いていたからきっと空には見えなかったのね。この天海の顔を空に見られなくて良かったわ。
彼は暇なのが嫌いな人だから。だから彼は天界からこっちに来た。天界ではなんも起きずただ平和な時間が流れている。それはとても素晴らしいことですが彼にはそれが耐えられなかった。だから彼は下界に降りることにしたのですわ。
「それ誰にも見せないようにしなさいよ」
そう言うとわたくしも大広間の方に戻ったのですわ。何かが起きている。そのことに天海は興奮しているのだろう。何が起こるのだろうとワクワクしているのでしょうね。全く不謹慎たらないわね。凛ちゃんの命が危ないかもしれないと言うのに。まぁそれは分かっているでしょうけど。笑っていたのは無意識だったようですしね。
わたくしは天海の方を振り返った。なんだか不安になってしまったのですわ。天海は確実にこの状況を楽しんでいる。大丈夫なのでしょうか。
天海は外を眺めらがら相変わらずタバコを吸っていた。気持ちよ落ち着かせるための儀式とかだろうか。
それであの気味の悪い笑顔が元の顔に戻るのならいいんだけど。あの笑顔を見たら信頼を一気に失ってしまうことでしょう。それはきっとよくないですわ。
そう言えば凛ちゃんが居なくなったこと島の人たちにはどう言うつもりなのでしょう?それとも見つかるまで隠しておくつもりなのでしょうか?まあそれは天海に任せることにいたしましょう。
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