5 海星と九尾の狐
俺はとりあえず、島のいろんなところを見てみようと思っている。
ってことでとりあえず神様の家から見えた獣人村ってことろに向かってる。神様の家を出て真っ直ぐ行くとあるらしい。
獣人村と言うからにはきっと獣人がいるのだろうな。獣人ですか。獣人。獣人ねぇ。動物と人間のハーフってことなのかな。それはどんなだろう?少し楽しみだ。
女の子はとても可愛いだろうな。よくアニメとかで見るやつだよな。猫耳の女の子とかいるんだろうか?いや、いるんだろうなー。
いやーいいなぁ。
一体どんな子がいるかなー。どんな可愛い子が俺の事を待っていてくれているんだろうー?
そう考えて俺はニヤニヤして歩いていた。
「誰もお前さんのことなんか待っちゃいないだろうよ」
そんな妖艶で美しい声が後ろの方から聞こえてきた。その声を聞いただけでその声の主が美しい事が分かる。
俺はどんな美しい人が僕の後ろにいるのだろうとワクワクして振り向いた。
するとそこには俺が想像した以上の美人が呆れたように笑って立っていた。いや、でも俺はまさか俺の後ろに九尾の狐が立っているだなんて思ってもいなかった。
それにしてもなんて美しいのだろうか。俺はつい見とれていた。つい見とれて彼女の事をガン見してしまっていた。腰よりも長い金色の綺麗な髪に同じ金色の瞳、真っ赤な妖艶な唇。そして、赤いお花の柄の綺麗な着物を天翔さんと同じように着崩していた。
とても妖艶で大人の魅力がある。
あんな人に見つめられたらどこへでもついて行ってしまいそうだ。
「どうかしたのかえ?」
何も言わないでずっと自分のことを見つめていた俺を妖艶に笑いながら覗き込んでいた。あの笑い方はきっと俺の考えていることなんてお見通しなのだろう。分かっていてそう言っているのだろう。
「あっいえ。あなたは何者なんですか?」
俺は何となく分かってはいるのだが、一応聞いてみた。だって、彼女には髪の色と同じ金色の耳と9つの尻尾があったのだ。だから何となくは予想がついていた。それでも本人の口から知りたかった。
「分かっておるじゃろうに。まぁいい。わらわは九尾の狐、あげはじゃ」
あげはさんは妖艶に笑ってそう言った。体は俺に対して半身になっていて、少し俺から見て左に向いていてそれがまた色っぽい。
「あっ俺は、天草海星っす。もちろん人間です。よろしくお願いしまーす」
そう言って俺も自己紹介した。少し緊張しながら。人間にはない不思議な魅力がある。気を抜けばすぐあげはさんに持っていかれてしまいそうだ。
「そうかそうか。じゃあ、少しわらわの家で話をしないか」
「えっいいんですか。もちろん。喜んで!」
女の人の家に行けるチャンスに飛びつかない男はいない。しかもこんな美人の女性の家なんて。いや、まぁ人間ではないけど。妖怪だけれど。でも、美人であることに変わりはない。それにしてもこの島には妖怪まで住んでいるんだな。全く持って謎だ。実在する事さえ信じられない話だが。どうしてこの島にはそんなものばかりが住んでいるのだろう?その上人間は1人もいないらしい。なぜなのだろう?まぁでもこの島に人間がいない理由は何となく分かる。まあ当たり前だろう、それは。
「お前さんはこの島に人間がいない理由が分かると言うのか」
隣を並んで歩くあげはさんは横目で俺の事を見てそう怪しむようにそう聞いた。その目はぎろりとこちらを睨んでいてなんだか怖かった。
「えっまあ。それは。だって普通はこんな世界受け入れられない。そんな人間がこの島にいるのは他の者にとって良くないだろうから」
さっき、あげはさん俺の心を読んだ?俺は声に出していなかったはず。なのにどうして?やっぱり心を読んだとしか思えない。
「ふふっまあその通りじゃろう。ちなみにわらわは人の心ぐらい読める」
あげはさんはなんだか嬉しそうに笑ってそう言った。そして俺の心を見透かしてそう言って妖艶に笑った。目をすっと細めて。猫が獲物を狙うように。
「やっぱりそうなんですね。それやめていただくことは出来ませんか?」
さすがに心をずっと読めれているのは気分がいいものではない。隠しておきたいこともあるからな。やましい事ばかり考えているわけではないけどやましい事を考えないわけじゃない。俺も健全な男子なのだ。立派な。大学生なのだ。思春期なのだ。いや、もう過ぎてるか。思春期って中学生とか高校生のことか?まあそんなわけなのだから、出来ればやめてほしい。人は思考する生き物だ。何も考えないなんてことは出来ないのだ。
「まあ出来ないことはないが。どうしてもダメなのか?」
あげはさんは俺の事を見つめて甘えるようにそう言ってきた。そんな顔をされたらついつい許してしまいそうになる。でも、ここで許してはダメだ。この先どれだけこの島にいるか分からないが、しばらくの間はこの島に居ることになる。その間中ずっと俺の思考があげはさんに筒抜けになってしまったら俺のこの爽やかイケメンの化けの皮が剥がれてしまう。それは凄くまずい。ってもう遅い気がしてならないが。とにかくマズイ。
「でっ出来ればやめていただきたいのですが」
慌ててあげはさんから目を逸らしてそうなんとか返した。
「そうか。なら、出来るだけ心は読まないことにしよう」
あげはさんは俺の事を見つめるのをやめ、残念そうにそう言った。お気に入りのおもちゃを取られた子供のようだ。
「ここだ。さぁ入ってくれ」
神様の家からそう遠くないところにあげはさんの家はあった。あげはさんの家は白いなんだか可愛らしいログハウスのような家だった。
それはなんだかあげはさんらしくないとも言えた。とても乙女な感じであげはさんの妖艶で怪しげでそれでいて美しいイメージとは違ったのだ。どちらかと言えば黒のイメージだったからもっと怪しげな幽霊屋敷だったり洋館に住んでいると思っていたのだ。
「お邪魔します」
俺は女性の家に入ることにドキドキしながらそう言って玄関に入った。そう言えば一軒家の女性の家に入ったのは初めてかもしれない。ってそう言えば一軒家ってことは家族と一緒に暮らしているのだろうか?そもそも彼女は彼氏はいるのだろうか?もしいるのなら俺がこの家に入って良かったのだろうか。最初に聞いておくべきだった。あげはさんに見とれていてそんなことも忘れていた。
「わらわは1人じゃ。彼氏もいないさ。心配する必要はない」
またも俺の心を読んだらしい。さっき心を読まないと言ったばかりなのに。まあ出来ればだから仕方ないのかもしれないが。
「そうですか。安心しました。じゃあ、何しても大丈夫ですよね!アハハー」
もちろん最後のは冗談だ。なんか口が勝手にそう言ってしまっただけだから気にしないでほしい。まぁ正直言っちゃうと何でもできるならやりたい。あんなことやこんなことを。そりゃあこんな美人と2人きりなのだし。過ちの1つや2つ。
「やれるものならやってみるか」
あげはさんはそう言って俺の方を振り返った。その目は怒っているのかとても怖かった。でも、あげはさんは笑っているのが。それはきっと楽しくて笑っているのではないだろう。その笑顔が余計怖い。怒っているのに笑っているという矛盾が背筋が凍るほど怖い。
「いや、冗談ですから。何もしませんから。絶対に。神に誓います」
俺は真剣な顔でそう言った。もちろん本気だから。マジと書いて本気。とか言ってふざけている場合ではない気もするけど。なんかついつい。
「この島には本当に神がいるのだぞ。分かっているのか」
「あっそうだった。まあでも、俺は本気で妹にしか興味ないですから」
「それはそれでどうなんだ」
あげはさんはリビングに歩いて行きリビングの真ん中に置いてあるソファに腰かけて困惑したようにそう言って俺の顔を見た。変態でも見るような目で。全く心外だ。俺は妹の事を愛しているが、決して変態ではない。誤解しないでいただきたい。
「それで、あげはさんは俺に何の用だったんですか?」
そう言えばそのことを思い出してそう聞いた。それと話を逸らす為。なんだかあげはさんの俺を見る目がどんどん冷たくなっていたから、一刻も早く話しを終えたかった。
「特に用があったわけじゃないさ。何となく話をしてみたかっただけなんだよ」
俺が立ったままだったらあげはさんが目で座りなさいと示したので俺はあげはさんの隣の一人掛けの白のソファに座った。この家の家具は全部白色でまとめられていて全部の家具が猫足になっていた。とても女の子らしい、お姫様っぽい。あげはさんは案外乙女で女の子らしいのかも。
「そうですか。じゃあ何の話をしますか?」
「なんでもかまわないよ」
「じゃあ、とりあえずこの島について教えてくれませんか。まだ来たばかりで何も知らないので。それを教えてくれたら今度は俺の町の事を話しますよ」
「分かった。なら話してやろう」
そのあと俺たちはお互いの住んでいるところについて話した。
おかげでこの島がどんなところなのか知ることが出来た。それでもまだ分からないこともあった。
それに神様の天海のことはより謎が深まっただけだった。俺はあの男の事を持った知りたいと思った。なぜか凄く気になるのだ。どうしようもなく。この気持ちは何なのだろうか?こんな気持ちは知らない。初めての感覚だ。
ふと、外を見ると日が傾いて日が暮れかけていた。もうこんな時間なのかと驚いた。時間が経つのが早いな。
今日は本当にいろんなことがあった。あの出来事がまだ今日のことだと思うとなんだか不思議な感じがするな。
本当に今日は長かった。それももう終わりが近いんだな。
「今日はまだ終わらないぞ。これから持ち寄りパーティーがあるのだ。これは島の全員が参加する。お前も行くだろう」
俺が感傷に浸っていたら横から声が聞こえてきた。
「持ち寄りパーティー?」
聞きなれない言葉に思わず聞き返した。
「ああ。皆で食べる物を持ち寄ってワイワイ食事をするんだ」
「へえ。楽しそうですね。俺も参加します」
「持ち寄りパーティーは18時からだ」
「海星、夏海人さん。聞こえる?」
どこからかさやこさんの声が聞こえたような気がした。
「えっ?さやこさんか?どこにいるんだ?どうして声が聞こえているんだ?」
それに父さんの声もどこからか聞こえる。一体どこから聞こえるのだろうか?周りを見渡してみてもどこにもいない。この近くにいるんじゃないかと少し焦った。何もないが女性と2人きりでいるところを両親に見られるのはちょっとマズイ。いや、やましいことなどないのだが、なんかマズイ。
「さやこさん?それに父さんの声も?どういう事?」
どうやら近くにいるということではないらしい。でも、だとしたらどういう事なんだ。スマホから聞こえているわけでもないらしい。スマホはズボンのポケットに入っていたから取り出して一応確認してみた。そもそもスマホは電波がないからつながらないはずだ。
だったらどこから?一体どうやって?
疑問しかない。
「まぁそれはいいから。手伝ってほしい事があるの。神様の家の大広間に来てくれる」
だと言うのにさやこさんはそう言うと通信を切ってしまった。もう誰の声も聞こえない。
はあ。全く。さやこさんはさやこさんってことかな。そのいつも通りさに少し呆れながらも安心した。なんだか安心して自然と笑っていた。
「神様の家に行くのか?」
「はい。さやこさんに呼ばれたのですぐ行かないと」
「そうか。ならわらわが連れて行ってやろう」
そう言うとあげはさんは俺の方に近づいてきて俺の腕を掴んだ。そしてびっくりしているうちに俺は次の瞬間神様の家の大広間にいた。
何が起きたのか分からなかった。だがまああげはさんは九尾の狐。妖怪なのだからそれくらい出来るだろうと結論づけた。だからそれはいいのだが、それよりもさやこさんの事が気になった。さやこさんはただの人間のはずだ。なのにテレパシーを使えるのはおかしい。なぜなのだ?
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