2 空とアマビエ様
天海の許可が出たので空たちは島を各自見て回ることにしたのですわ。
わたくしは空と一緒に居ることにしましたわ。
夏海人さんと海星は勢いよく神様の家を飛び出して、気の向くまま行きたいところに歩いて行ったようですわね。海星は獣人村のほうに行くみたいですね。で、夏海人さんはどうやら山の方に向かっているみたいですわ。
さやこさんもゆっくり歩いて行ったみたい。気の向くまま。さやこさんは海岸のほうに行くみたいですね。
「空はどこに行く?」
天海の家の玄関に立ってさやこさんたちを見送っていた空にそう聞いたのですわ。空だけになってもまだどこにも行こうとしないので気になってそう聞いてみたのですわ。
「うーん。どうしよう。でも、一体どんな人たちがいるのかな?」
空はどうやら怖がっているみたいね。まぁ何がいるのか分からないんですもの。当たり前ですわね。何が居るか分からないのにそれすらも楽しんでいるあの人たちがおかしいんですわよね。
「わたくしも少し見ただけですが、獣人とかかな。あとは人魚とかアマビエ様?とかいるみたいよ」
わたくしはさっきまさとくんに案内された時の事を思い出しながらそう返したのですわ。それと案内してくれた時に話したことを思い出しながら。
「アマビエ様ってあのアマビエ様?ほんとにいるの?」
そう言って空は目だけをキラキラさせたのですわ。
「知ってるの?」
そんなに目をキラキラさせている理由がわたくしには分かりませんでしたわ。アマビエと言う妖怪は一応知ってはいますが。
「うん!コロナの時凄く、話題になって私も好きなの。ほら。これ。あっこれはアマビエ様っていうかアマビエ猫なんだけどね」
空は鞄の中から可愛いパステルカラーのピンクの髪に猫の耳、水色の鱗の仏像を取り出してそう嬉しそうに話してくれたのですわ。
「そう言えば、この島にも海猫っていう種族がいるそうですわよ。アマビエ様と猫の姿が混ざったような姿らしいから。その子と似てるんじゃないかな。もしかしたら、その海猫がモデルになってのかもしれないわよ」
「ほんと!じゃあ、その海猫に会ってみたい!」
いつもと同じで無表情だけど、少しだけ口角が上がって笑っているようにも見えましたわ。
「じゃあ、海岸の方に行ってみようか」
「うん!いこっ!」
この島にやってきてこんなにも空が楽しそうにしているのを初めて見ましたわ。
ってことでわたくしと空は海岸に向かう事になったのですわ。
海岸に行くとさやこさんが人魚たちと楽しそうに話しているのが見えましたわ。
「あっお母さん」
空もさやこさんに気付いたようですわ。
「さやこさん。人魚たちと何話しているんでしょうね?」
わたくしは楽しそうに話しているさやこさんが一体何を話しているのか気になってしまったのですわ。
「うーん。なんだろう?なにかしてるみたいだけど」
「話しかけに行く?」
「そうだね。ついでにあの人魚さんたちにアマビエ様と海猫さんのこと聞いてみよっ!」
「そうしましょうか」
わたくしたちは砂浜に続く階段の前でさやこさんたちの事を眺めてそう話していたのですわ。
そしてさやこさんと一緒にいる人魚たちに話を聞くと決めたのでその階段を降りてさやこさんのもとに歩いて行くことにしたのですわ。
「お母さん。もう人魚さんたちと仲良くなったんだね」
さやこさんの近くにやってくると空がそう話しかけましたわ。
「ん?あら。空ちゃんと天翔さん」
わたくしたちに背を向けて座っていたさやこさんがわたくしたちの方を振り返って嬉しそうに笑ってそう言ったのですわ。
「さやこさん。それ何してるんですの?」
さやこさんは綺麗な貝殻を持って何かしているようでしたわ。それは気になってわたくしはつい聞いてしまったのです。
「これ?これはねぇ。この子たちに貝殻でアクセサリーを作るのを教えてもらっているの。貝殻とか鱗とかでアクセサリーを作って本土で売っているだって。とっても素敵だから作り方を教えてもらいながら一緒に作ってるのよ」
そう言って楽しそうにさやこさんは笑ったのですわ。
「あの。みなさん。アマビエ様と海猫さんがどこにいるか知りませんか」
空は皆の事を見回してそう聞きましたわ。
人魚の子達は皆、カラフルで可愛い子ばかりですわね。原色で元気で明るいイメージで綺麗でぎらぎらしたピンクや水色、赤っぽい色にオレンジ色の子がいますわね。さやこさんの周りにいるのは5人ぐらいかしら。
「アマビエ様?あぁあの子たちのこと。あの子たちなら浜辺のあの家にいるんじゃないかな」
ピンク色の鱗を持っていてそれと同じ色の髪をした派手な人魚の女の子がそう言って砂浜にある家を指さした。髪はくるくるカールしていて、前髪は右側にまとめて小さな貝殻のついたヘアピンでとめていて。可愛いフリルのついたビキニを着ていて胸には貝殻で作ったネックレスがかかっていますわ。ビキニは淡い桜色ですわ。
わたくしたちから見て斜め右前にある海の家のような建物がそうらしい。
「じゃあ、海猫さんは?」
「海猫?あぁ。凛ちゃんのことね。あの子そう言えばどこにいるのかしら。お昼頃、貝を獲るって海に出たはずだけど……。そのあと見かけてないわね」
そう言って青色の鱗と髪を持っていて、その青い綺麗な髪は真っ直ぐ腰のあたりまで伸びていてピンクの女の子とは対照的で落ち着いていてクールなお姉さんっぽい感じですわ。ビキニは白のレースですわ。
「そうなんですか。とりあえず、アマビエ様のところに行ってみようと思います」
空は少し残念そうにそう言ったのですわ。
「アマビエ様ってあのアマビエ様よね?そう言えば、空ちゃん好きだったものね。実在したのね」
そう言ってさやこさんも嬉しそうにしてしますわ。どうやらさやこさんもアマビエ様の事知っているみたいですわね。
「うん!お母さんも好きだったよね」
「そうね。それで、海猫さんって言うのは何なの?」
さやこさんはそう言って不思議そうな顔で空の事を見上げていますわ。
「ほら!これ!この子のモデルになった子かもしれないの!」
空は再び嬉しそうに背負っていた黒のリュックからさっきわたくしにも見せてくれた木彫りの仏像を取り出してさやこさんに見せたのですわ。
「あっそれって凛の作ってるやつ!」
そう言ってオレンジの髪と鱗を持った女の子が嬉しそうに笑ってましたわ。その女の子はみかんのような色のショートの髪で可愛いみかんの柄のビキニを着ているのですわ。小さなみかんが散りばめられたビキニですわ。
「そうなんだ。すごい」
空は握りしめている仏像を見つめて目をキラキラさせてそう呟いた。それはまるで恋する乙女のようでとても可愛らしいですわ。
「今、凛。どこにいるか分からないんだよね。ごめん」
そう言ったのは赤色の髪と鱗の負けん気が強そうな女の子ですわ。その女の子はその燃えるような真っ赤な髪を後ろでまとめてポニーテールにしていますわ。そしてスイカを三角に切ったイラストが大きく左右に描かれたビキニを着ているわ。
「そっかぁ。じゃあ、私。探してみるね」
空はリュックに仏像を大切そうにしまってそう言いましたわ。
「お願いします。空さん」
今度は紫色の髪と鱗のおとなしくて優しそうな女の子がそう言って空に向かって笑ったのですわ。彼女はゆるふわカールした腰の当たりまである髪を左右で分けて結んでツインテールにしていますわ。髪の色は鱗とは違って濃い紫ではなくパステルカラーの優しい色合いの紫ですわ。そして、ビキニはピンクの子とお揃いのフリルのパステルカラーの紫色のビキニですわ。
どの子も胸が大きく大人っぽい子ばかりですわね。
「はい!」
元気よくそう返事をするとわたくしたちはそのアマビエ様の家に向かって歩き出したのですわ。
「すみませーん。誰かいませんか?」
家の扉をコンコンと2回ほどノックして空がそう声をかけたのですわ。
「はいはーい。ちょっと待ってねー」
すると中から若い女の人の声が聞こえてきたのですわ。そして少しの間待っていると扉が開いて中から人魚によく似たでも、少し人魚とは違う女の人が出てきましたわ。
「どうぞ。入って」
その女の人は妖怪のアマビエ様に似ているけど少し違いますわ。どちらかというと人間に近いですわね。でも、下半身は魚でその先は3つに分かれていて上半身もほとんどが鱗に覆われていますわ。そして耳の当たりにはひれのようなものが付いていますわ。でも妖怪のアマビエのイラストとは違って鳥のようなくちばしではなく人間のものと同じですわね。
「凛のことよね?」
家の中は木で出来た大きな机が置いてあり、掘りごたつのようになっていて足湯のようにその椅子の下に水が入っていますわ。きっと水がないとダメなのね。
「はい。でもどうして分かったんですか?」
中には扉を開けてくれた子の他にも2人その椅子に座っていましたわ。扉を開けてくれた女の人とその後ろにいる女の子たちを見回して不思議そうにそう空が聞いたのですわ。
「あなたたちが話していたのが聞こえたのよ。すぐそこで話していたでしょ。これぐらいの距離なら耳を澄まさなくても聞こえてくるのよ」
扉を開けてくれた女の人がピョンピョン跳ねるように飛んで長椅子のところまで行き座ったのですわ。そしてそう言って優しく笑ったのですわ。
「そうなんですか。それで……」
扉を開けてくれた女の人がわたくしたちに足湯のようになっている椅子ではなく別の木製の背もたれのついた椅子に座るよう手で招いてくれたのでそれに従ってわたくしと空はその椅子に座ったのですわ。
「うーん。それがね。お昼頃、海に出たんだけど。それ以降見かけてないの!うちらも心配してるんだけど……」
わたくしたちの反対側に座る10代後半ぐらいの女の子が心配そうにそう言ったのですわ。凛って言う子と友達なのだろうか?その女の子は小麦色の肌に金色の髪に派手な化粧となかなか派手でギャルって感じの子なの。
さっきの扉を開けてくれたお姉さんは白い肌に綺麗な黒い髪の清楚なお姉さんって感じだから、正反対ですわね。
「そうですか……」
空は残念そうにそう呟いたのですわ。
「空ちゃんでしたね。ごめんなさいね。日が暮れる前には戻ってくると思うんだけど……。今日は持ち寄りパーティーの日だから。あの子楽しみにしてたし……」
そう言って扉を開けてくれた女の人が申し訳なさそうに空に向かって頭を下げたのですわ。
「いえ。大丈夫です。あの……えっと」
空はどうしていいのか分からずに困っているようですわ。
「そうですよ。それはあなたのせいではないわ。気にしないで。それより、自己紹介がまだでしたわよね。わたくしは天翔と申します。女神ですわ」
そう言ってわたくしは皆の事を見回して胸に軽く手を添えてそう言って自己紹介したのですわ。
「あっそうでしたね。私は、あやこです。そして、こっちの金髪の子がみか。その隣に座っているのが私の娘のさよです」
そう言ってあやこさんは紹介してくれたのですわ。最後に紹介してくれたさよちゃんって子はまだ一言もしゃべっていないの。恥ずかしがりやなのかずっと俯いているのですわ。さよちゃんはお母さんによく似て綺麗で可愛い女の子でまだ12、3歳ぐらいでしょうか。色白で黒髪のボブですわ。
「あっあの私は空って言います」
そう言って空は焦ったように慌てて自己紹介をしたんですわ。
「それで、空さんはこれからどうするの?」
あやこさんが優しく空の事を見て訊ねたのですわ。
「とりあえず、島を回りながら凛さんがいないか見て回ろうと思います」
空はそう言ってあやこさんの方を見たのですわ。いつもの無表情で。
「そう。なら、これを持って行って」
あやこさんはそう言うと、机の隣に置いてある棚の中からアルバムを取り出してそこから1枚の写真を取り出して空に向かって差し出したのですわ。
「ありがとうございます」
そうお礼を言って空はその写真を両手で受け取りましたわ。受け取ったのは凛ちゃんの写真のようですわ。
「では」
空は受け取った写真を大切そうにリュックの中から手帳を取り出してそお手帳に挟んで、リュックにしまったのですわ。そしてそのあと、そう言って立ち上がったのですわ。
「気を付けてね」
あやこさんはそう言っておしとやかに笑って見送ってくれましたわ。
「じゃーねー」
みかちゃんは体を机にもたれ掛ってダラーとして手を振っていますわ。
「またね」
そう言ってさよちゃんは小さく手を振ってくれましたわ。照れてるのがものすごく可愛い。
空は無言で会釈をして、わたくしたちは皆に手を振り返して、家を出たのですわ。
アマビエの3人に見送られたあとわたくしたちは、海沿いをとりあえずぐるっと回ってみることにしたのですわ。
でも、写真に写ったパステルピンクの髪に青い瞳に猫の耳があり青色の鱗を持っていて3つに分かれた尾をもつ可愛い12,3歳の女の子を見つけることは出来ませんでしたわ。そもそも誰とも会うことはなかったのですわ。
あっでも、1人だけ会いましたわね。
空は男の人が苦手だから話しかけることはしませんでしたわ。明らかに凛ではなかったですから。
そのあとは獣人村に行ったりしたのですが、それらしい人を見つけることは出来ませんでしたわ。
そもそも、凛は海猫。アマビエや人魚と似た種族。
水がなければ生きていくことが出来ない種族。
だったら、海の近くにいるはずなのだけれど。でも、海の近くにはいなかった。だから、一応地上も調べてみたのですが。
でも、島のどこにもいなかったのですわ。わたくしたちがざっと調べただけなので見落としがあったのかもしれませんが。
「どこにもいなかったですね。凛ちゃん」
隣を歩いている空に向かってわたくしはそう話しかけてみたのですわ。
「はい。今日は持ち寄りパーティーがあるって言っていましたし、凛さんも楽しみにしていたみたいですから。もしかしたらそれに参加してみれば来ているかもしれないです」
空は日が沈み始めている空を振り返りそう期待を込めた表情でそう言ったのですわ。
「そうね。じゃあ、天海の家に戻りましょうか。持ち寄りパーティーは天海の家の大広間でやるみたいだから」
空が立ち止まったのでわたくしも立ち止まり半身だけ夕陽の方を向いてそう返したのですわ。
「うん」
そう返事をして空は再び前を向いて歩き出しましたわ。夕陽の反対にある天海の家に向かって。
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