第2話 空たちが目を覚ます 

とりあえず、わたくしは天海の言葉を信じることにしたのですわ。

だから今は考えるのをやめて空たちのいる医務室に向かうことにいたしました。

でもわたくしは空たちに会うのは初めてなのです。本当に姿を見せてもいいものなのか少し心配なのです。わたくしの姿を見て、わたくしのことを知って空たちはなんと思うのだろう?そう考えると少し、怖いのかもしれないですわね。

わたくしは空たちを失いたくないのですわ。

「コンコン」

医務室の扉をノックすると中から「どうぞ」と返事があったのでわたくしは中に入りましたわ。部屋の中に入ると空たち4人は目を覚ましていてもう上半身を起こしていたのですわ。そして、まさむねさんやまさのりさん、まさとくんと楽しそうに話をしていたのですわ。

「あら。あなたは」

さやこさんがわたくしの事を見て、どこか嬉しそうににっこりと笑ったのですわ。どうしてさやこさんはわたくしの事を見て笑ったのでしょう?彼女にも見えていないはずなのですが。

「もしかして、さやこさんにはわたくしのことが見えていたのでしょうか」

「えぇ」

そう言ってさやこさんはわが子を見守る聖母のような笑顔でそう言ったのですわ。その短い言葉にわたくしはとても驚いたのと同時になんだかわたくしは納得してしまったのですわ。その短い返事はさもそれが当たり前のようで腑に落ちてしまったのです。さやこさんは窓側のベットに座っていて窓から差す光がまるで後光のように見えましたわ。真っ白な空間の中でとても神秘的で美しかったのですわ。

「さやこさん。いつから見えてたんですか?」

わたくしを見てまだ何が起きているのか理解していない海星が混乱した様子でさやこさんにそう聞いていますわ。

「うーん。たぶん最初からかしらねぇ」

さやこさんは頬に手を当て困ったようにそう言ったのですわ。

「どういう事?お母さん」

空も戸惑ったようにそう聞いた。空も全然状況が把握できていないみたいね。まあ当然ですわよね。

「うーん。でも、お母さんにもよく分からないのよ。彼女はずっと前から空ちゃんのこと見守ってくれているみたいだったけど。それ以上はお母さんにも分からないの」

困ったようにそう言ったあと、わたくしの方をちらりと見たのですわ。助けを求めているように。でしたら、わたくしが助け舟を出してあげなければなりませんわよね。そもそもこれはわたくしが説明すべきことなのですから。

「わたくしが説明いたしますわ。とはいっても、こんなこと簡単に信じていただけるかわかりませんが。まず、わたくしは神なのですわ」

そう言うとわたくしは一度言葉を止め、皆の反応を見ることにしたのですわ。

「……」

ですが、空たちは特に何か言葉を挟むことはなく黙って続きを待っている様子でしたわ。

さやこさんはただニコニコと笑って見守っていたのですわ。そして、海星は驚いて何も言えない感じのかしら。夏海人さんは腕を組んで目を閉じ真剣にわたくしの話を聞いている様子ですわ。全部聞くまでは何かを言う気はないってことなのかしら。空は戸惑って何か言いたい気持ちはあるようですが、さやこさんたちの事を見回して口をパクパクさせているだけで何を言っていいのか分からず口を閉ざしてしまったみたいですわ。だから、結局空を何もいう事はなかったのですわ。

「そして、わたくしはある日。空と商店街ですれ違ったのですわ。それから、わたくしはあなた方の守り神になると決めたのですわ」

「そうだったのね。もしかしてそれって颯太そうたが亡くなった頃かしら」

「えぇ。おそらくその頃だったのだと思いますわ。わたくしはその頃よりもっと前に一度だけ見たことがあったのですわ。その時はまだ空は笑顔で元気よく走り回っていましたわね。海星くんとそして、颯太くんと。仲良く楽しそうに公園で遊んでいたのを見かけたことがありましたの。でも、2度目に会った空は笑顔を失っていた。だから心配になって空の元を離れることが出来なくなってしまったの。それからずっとわたくしは空たちのことを見守っていたのですわ」

わたくしは入り口の前、4人のベットの前に立ったまま話を続けたのですわ。

「そうだったのですね。見守っていてくださりありがとうございます」

さやこさんは膝の上で手を重ねていて、わたくしに向かって小さく頭を下げてくれたのですわ。

「私の事見守ってくれていたんだ」

空はそう呟いたのですわ。笑っているわけでもなく無表情なので表情からは分かりませんが、わたくしには分かりますわ。空が喜んでいることが。なんだかんだ嬉しいのですね。きっと母親がもう1人いた感覚かしら?

「まあ。昔の空を知っているのなら、表情を失ってしまった空を見て心配にならない方がおかしい。僕だって出来る事なら四六時中、空の事を見守っていたいぐらいだ。うらやましいな」

そう海星は真剣な顔で言ったのですわ。でも、よくよく聞くとなんだか怖いことを言っていますわね。まあ、わたくしのやっていることが人間ならストーカー行為に当たるということは理解していますが。妹思いなのは分かりますが少し行き過ぎている気もいたしますわね。

「がっはっはっ!まあそうだな。見守ってくれていたと言うんだから、ありがたいことだな!よう!姉ちゃん。ありがとよ!」

夏海人さんは豪快に笑ったあと、そう言ってわたくしに向かってお礼を言ったのですわ。

やっぱりこの人たちは面白いですわね。まさかこんな風に言ってくれるとは思っていませんでしたわ。あっさりわたくしの存在を信じてしまうのですから。それに全くわたくしが神だってこと、気にしていないみたいね。夏海人さんなんてわたくしのこと姉ちゃんなんて言うんですもの。まぁそう言われて嫌な気はいたしませんし、むしろ嬉しいのですが。

「それじゃあ、話も終わったみたいだし。それぞれ自己紹介しませんか?そういえば、僕。まだお姉さんたちの名前知らないし」

話が終わったのを見て、まさとくんがそう切り出したのですわ。

「そうですね。では私がみんなのこと紹介しますね。まずは私の名前は天草さやこと言います。で、目の前のベットにいるのが娘の空ですわ。そして私の横にいるのは夫の夏海人さんですわ。で、空の隣にいるのが息子の海星ですわ」

さやこさん、珍しくちゃんとしてますわね。なんか母親みたいね。って実際、母親なのですが。いつもは全然母親っぽくないですのに。

「じゃあ、次は私が紹介いたしましょう。まずは私はまさむねと申します。それでそっちの白衣を着ているのが、私の兄のまさのりで、こっちにいるのが弟のまさとです」

そう言ってまさむねさんが感情のない声でそう紹介したのですわ。

「では、自己紹介も終わったのでそろそろ神様のもとに行きましょう」

紹介を終えたまさむねさんが少し間をおいてそう言ったのですわ。

「神様のところって?」

さやこさんが少し不安そうにそう聞いたのですわ。

「この島の神様に挨拶に行くのです。それと何が起きているのか説明をしていただきましょう」

そう言うと皆で医務室を出て、天海のいる大広間に向かったのですわ。ちなみにまさのりさんは医務室に残ることにしたようですわ。で、まさとくんは面白そうだからとついてきたのですわ。


「神様入ります」

まさむねさんは扉をノックすることなく、そう言って扉を開けて入って行きましたわ。きっとノックしても返事をしないことを知っているからノックをしないのでしょうね。

「あぁ?勝手に入ってくんな」

天海は寝転がってなにやら天井を見つめて考え事をしているようにも見えましたわ。そしてまさむねさんが入って来たのを見てめんどくさそうに起き上がったのですわ。そんな神様の姿を見て空たちは想像していたのと違ったのか戸惑っている様子ですわね。

「神様。連れてきました。例の人間たち」

まさむねさんに続いてわたくしたちも大広間の中に入り、天海の前に並んで座ったのですわ。

「そうか。で?なんなんだ?」

天海はそう言うとめんどくさそうに頭を搔いたのですわ。

「この人たちに説明していただけませんか」

わたくしたちはまさむねさんわたくし、さやこさん、空、海星、夏海人さんの順番で神様の前に座っているのですわ。その一番、天海から見て右側に座るまさむねがそう天海に向かってそう言ったのですわ。

「説明?はぁ。お前がすればいいだろうが」

めんどくさそうにあぐらを搔いて座っている天海がそうぶっきらぼうに言いましたわ。

「私にもよくわかっていないので。説明は出来ません。ですから、神様からお願いします」

そう言ってまさむねが天海に向かって軽く頭を下げたのですわ。

「はぁ仕方ねぇな。って言っても俺も詳しく把握しているわけじゃないからな。だからまぁ。簡単に言えば、お前らは悪魔によってこの島に送りこまれた。理由はまだ分からん。で、おそらくだが。その悪魔によってこの島から誰も出られないようにされた。以上だ」

そう言うと天海はそれ以上何も言う事はないとでも言わんばかりに再び寝転がってしまったのですわ。

「えっ?ってことは私もこの島から出られないんですか?今日、向こうに買い物に行く予定だったのですが」

まさむねさんは焦ったようにそう言ったのですわ。

「もちろんお前もだ。買い物は諦めろ。食糧ならこの島のものだけでなんとかなんだろ」

天海はわたくしたちの反対を向いて腕を枕にして寝転がったまま、そうどうでもよさそうにそう言ったのですわ。

「えぇ。まあ食糧に関してはなんとかなるにはなんとかなりますが。でも、買い物はそれだけではないので」

まさむねさんは窓の外の獣人村を眺めながらそう難しそうな顔でそう言ったわ。

「なんだなんか欲しいもんでもあったのか」

そう言って少しだけこちらを向いてまさむねさんの事を見て天海はそう聞いたのですわ。少し興味があったのかしら。

「えぇ。まぁ」

まさむねさんは少し照れたようにそう返しましたわ。言葉を濁しているってことはあまり知られたくないのかしら?だとすると、少し気になりますわね。何を買うつもりだったのでしょう?実はアニメオタクだったりとか。

「あの。ということはしばらくはこの島に居ることになるってことでしょうか?」

さやこさんが恐る恐るといった感じでそう天海にそう聞いたのですわ。もしかしたらさやこさんは天海みたいな男は苦手なのでしょうか?いつもの、のほほんとした感じじゃないですわね。

「あぁ。そうなるだろうな」

天海は一瞬、さやこさんの事を見た後そう言いましたわ。その天海の目を見てさやこさんは怯えたように肩をビクッと震わせたのですわ。それにさやこさんは大広間に入ってからずっとハンカチを胸の前で握りしめているの。きっと天海のことが怖いのね。まぁあの天海ですもの。仕方ないですわ。でも、きっと慣れれば平気ですわ。天海はそんなに悪い人じゃありませんから。

「じゃっ!この島を見て回ることにするか!」

そう元気よく夏海人さんは叫んだのですわ。

「そうだね。楽しそうだね。父さん」

海星もそう元気よく同意しましたわ。冒険のようで2人ともワクワクしているみたいね。

「そうね!楽しみだわ」

さやこさんも窓の外を見て楽しそうに目をキラキラさせていた。目の前の怖い人のことなんて忘れてしまったみたいね。

でも、空はあまり乗り気ではないようですわ。

「この島にはいろんなやつがいるが大丈夫か?」

天海は寝転がったまま窓の外を見ながらそう言ったわ。空たちの事を心配してそう言っているのか、もしかしたらこの島に住むもの達のことを心配しているのかもしてないわね。もし、空たちがこの島のものたちを見て化け物だなどと言ってしまえばそれを言われたものが傷ついてしまうかもしれない。と、心配しているのかもしれないわね。でも、ここからでは天海の表情は見えないし何を考えているか分からないわ。

「空たちなら大丈夫よ」

わたくしはそう天海に返しましたわ。すると、天海は驚いたようにわたくしの方を振り返ってわたくしの瞳を見つめてきましたわ。きっとわたくしの本心を探ろうとしたのでしょう。何を考えているんだ?と思ったのでしょう。彼は人間の事を嫌と言うほど理解しているでしょうから。人間は異形の者を恐れる。受け入れなれはしない。そういうもの。でも、彼らは違う。空たち家族は違う。だから、大丈夫。

「そうか。ならいい。好きにこの島を見て回ったらいい」

その青と金色の瞳は全てを見通したのでしょう。天海は納得したようにそう言ってこの島を自由に見てもいいと許可してくれたみたい。






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