7 閉じ込められる

まさとくんはウキウキした足取りでわたくしの手を引っ張ってどんどん歩いていますわ。

「はやくーこっちこっちー」

「どこに行くの?」

「まずは長老に挨拶しないと!」

「長老?」

「うん!獣人村の村長だよ!」

「へぇー。そうなんだ」

「ほら!見えてきた!あそこが獣人村だよ」

そうしてまさとくが指さした先にはのどかな田園風景が広がっていた。それはまるでふるさとのようで心が温かくなりますわね。日本のふるさとって感じかしらね。

なんだかいいわね。一目見ただけでわたくしはここを気に入ってしまいましたわ。最近はこういう風景も少なくなってきましたものね。

「素敵なところね」

「でしょー!」

そう言ってまさとくんは100%の笑顔でわたくしのほうを見たのですわ。そうやって笑うまさとくんは子供らしくて可愛いのだけれど、まさとくんはこれでも100歳を超えているそうですわよ。この島の者たちは見た目と年齢が違うのが当たり前らしい。だから、見た目だけで判断してはいけないんだそうよ。


「やぁ。まさとか。よく来た。おや?そこのお嬢さんは?」

村の中の一番大きなかやぶき屋根の家に行くと、そこには白いひげの生えた優しそうなおじいさんが縁側に杖を持って座っていた。俯いていた顔を少し上げて、一瞬だけ眉毛を上げて長い眉毛の隙間からギラリと光った瞳を覗かせた。腰の当たりまである髪は白と黒の模様が入っていて、猫の耳、どうやらこのおじいさんはホワイトタイガーの獣人みたいですわね。

「村長さん。この方は女神様ですよ。それにこの方きっとお嬢さん、なんかじゃないと思いますよ。神様なのですから」

「おやおや。そうじゃったか。それは失礼したな。神様じゃったとはな。じゃが、神様と言われてもな。わしには天海のイメージじゃからなぁ。あんまりいいイメージがないんじゃがな。お前さんだって普通のお嬢さんにしか見えんな」

そう言って村長さんは困ったように、そしてどこか楽しそうに笑った。

「そうですわよね。あいつも神様なのですものね。とても神様には見えませんもの」

わたくしは天海のことを思い出して困ったように眉を寄せて、同情するように笑った。それでもなんだかんだ天海と島の者たちは上手くいっている様子で少し安心いたしましたわ。ある意味神様と島の者たちの距離が近いってことなのだから悪くがないのかもしれません。

「でも、困ったことがあったらなんだかんだ言って助けてくれるしね!」

そう言ってまさとくんは無邪気に笑ったが、それを聞いて村長さんは難しい顔をしてしまいましたわ。

「そんなこと神様じゃなくてもやって当然のことじゃろう。やつはほとんど寝て、めんどくさがってあの家から出ようとはしないじゃないか!」

そう言って村長さんは杖で目の前に建つ天海の家を指してそう怒ったような呆れたようにそう言ったのですわ。まあ、でもそれはそれだけ距離が近く、むしろ息子のように思っている証拠なのでしょうね。

「まぁ確かにねー。最近はほとんどあの家から出ないもんね。昔はもう少し外に出て僕たちとも遊んでくれたりしたのにねぇー」

まさとくんも天海の家の方を振り返りそう懐かしむようにそう言ったのですわ。その姿を見るとやっぱり子供じゃないんだなって感じがするわね。

「そうなんだ。子供と遊んだりしてたのねぇー。意外だわ」

わたくしも天海の家の方を見て頬に手を当て、成長を喜ぶ母親の気分になっていたのですわ。

「じゃあ、挨拶も済ませたし次に行きましょう。天翔さま。じゃあまたねー。村長さん」

そう言って村長さんに手を振って、またわたくしの手を引っ張り、歩き出した。

「あぁ。そうじゃな。またな」

村長さんも手を振り返して送り出したのですわ。

「またですわ」

そう言ってわたくしも村長さんに手を振りお別れを言ったのですわ。

「あぁ」

わたくしにも村長さんは手を振り返してくれましたわ。


そのあとは農作業をしている獣人の人たちに挨拶をして回って、少しお話をしたりいたしましたわ。まさとくんと手を繋いだまま、まさとくんに手を引かれて。なんだかお母さんになったようで心が温かくなりましたわ。風景とも相まってなんだかタイムスリップしたようですわ。田んぼの中をまさとくんと手を繋いで歩いていると色が無くなりモノクロになり、時がゆっくりと流れてスローモーションになったように感じましたわ。それはとても美しく宝石のようにキラキラした時間でしたわ。

そうして、みんなへ挨拶し終わるとどうやら獣人村を後にするようですわ。次は一体どこに行くのでしょうか?次はどんな人たちと出会えるのでしょうか?

「ねぇ、次はどこに行くの?」

まさとくんと手を繋いだまままさとくんにそう聞いたのでわたくしはまさとくんを見下ろす形になってしまいましたわ。

「うーんっとね。次は魅録みろくさんのところに行こうと思ってるんだけど」

まさとくんはどこか躊躇しているようにそう言った。行くかどうか迷っているような感じかしら。

「魅録さんってどんな人なの?」

わたくしは気になってつい気になってしまって聞いてしまったのですわ。

「うーん。魅録さんは最近来たんだけど……。魅録さんは狼男なんだよね。だから、また獣人の人たちとは違うみたいなんだよね。獣人村の人たちは別にそんなこと気にしてないんだけど、あそこの村は基本的にお米を育てたり野菜を育てたりして暮らしているんだけどそれが魅録さんには合わないみたいなんだよね」

「そっか。まぁそういうこともあるわよね」

「うん。でも、魅録さんあまり誰とも関わろうとしないんだよね。だからいつも1人でいるみたい」

「1人でどこにいるの?」

「たぶん、海岸の岩に座って海を見てるんじゃないかな?」

「海が好きなの?」

「さぁ?それは分かんないんだけど……。もしかしたらどこか帰りたいところがあるんじゃないかとも思ったんだけど。そういうわけでもないみたいなんだ」

「そうなの」

「うん!あっ見えてきたよ。あれが魅録さんだよ」

そう言ってまさとくんは海岸の岩の上に座っている男を指さした。その男は全身黒い服を着ていてまるで影のような男だったのですわ。そして、その男は岩の上で片膝を立ててその上に腕を置いて海を眺めていたのですわ。

「こんにちは。魅録さん」

「またお前か。もう来るなと何度も言ってるだろう」

魅録さんは一度もこちらを振り返ることなくそうぶっきらぼうに言った。

「今回はこの女神様にこの島を案内しているんだよ。だから、魅録さんのところにも案内してあげようと思って。魅録さんは最近入った新人さんでもあるし。これは真っ先に見せてあげないと。と、思ってね」

そう言ってまさとくんはいたずらっこのように笑った。その笑い方はとてもまさむねさんに似ていますわね。まぁ顔もそっくりなのだから当然ですわよね。まさむねさんとまさのりさんもそっくりですし、その弟であるまさとくんは見た目の年齢が離れているから少し違う気もしますがやっぱり幼くなっただけでそっくりですわね。でも、表情の作り方がそれぞれ違うので印象が違いますわね。

「はぁ?女神だと。なんだそれは?」

そう言うと魅録さんは一瞬こちらを見ましたわ。でも、特になんの反応も示さずすぐ海の方を見てしまいましたわ。でも、心の中はなかなか騒がしいですわよ。わたくしの美貌とそしてこの巨乳を見てかなり動揺していますわね。最近はそのことを忘れていましたが、そう言えばそうでしたわ。それは当然のことだったのですわ。

この美貌を見てわたくしにひれ伏さないものなどいないのですわ。

「あはは。もしかして魅録さん。照れてるの?顔が赤いよ?もしかして交友人がタイプなの?いい事知っちゃったー」

そう言ってまさとくんはニヤニヤと何かを企んでいるような顔で笑ったのですわ。子供らしくないような子供のような笑い方で笑ったのですわ。

「ばっばかっ!そんなわけないだろう!俺は女なんかに興味はない。っていうかそいつは神なんだろう?そもそも人間じゃないじゃないか」

魅録さんはそう言ってふてくされたようにそっぽを向いてしまったのですわ。それはまるで子供のようで可愛いですわね。好きな子についつい意地悪してしまう男の子のようでいじらしくて可愛いのですわ。

「好きになるのに種族なんて関係ないんじゃないかしら?」

そう言ってわたくしは魅録さんの座っている岩の上に一瞬で移動して魅録さんの隣にしゃがみ込んで魅録さんの顔を覗き込んだのですわ。

「おい!ちょっやめろ!なにすんだ!俺に関わらないでくれ」

魅録さんは照れたように顔を腕で隠し、わたくしに背を向けてしまったのですわ。素直に照れてくれるからからかい甲斐があって楽しいわね。

「ほらほら~。触ってみてもいいのよ」

わたくしは胸を腕で押し上げながら魅録さんに近づけて挑発して遊んでいたのですわ。魅録さんの顔を近くで見てみると意外と整った顔をしていましたわ。灰色の髪に青色の瞳をしていて鼻筋もとおっていてなかなかのイケメンですわね。

「だから、やめろって!全く!」

そう言いながらも魅録さんはちらちらとわたくしの胸を見ていましたわ。なんだかんだ興味はあるのですわね。それでもなんとか誘惑に勝とうと見ないようにしているのがいじらしくて可愛いですわ。

「ん?なんか変?」

わたくしは魅録さんをからかうのをやめ、空を見上げたのですわ。

「どうかしたの?天翔さん」

わたくしと魅録さんの様子を黙って眺めていた、まさとくんがわたくしの様子を見て気になったのか岩の近くの砂浜から岩の上に飛んで乗って来たのですわ。そして、わたくしに心配そうにそう聞いてきたのですわ。

「うーん。なんかこの結界、変じゃない?」

わたくしは岩の上で立って、もっとよく分かるように神経を集中させるために目を閉じたのですわ。

「……あの……。変って何が?」

目を閉じて集中しているわたくしに遠慮して恐る恐るわたくしにそうまさとくんが聞いて来ましたわ。

「うーん。こうなんか2重になっている気がするんだけど……。なんだかよく分からないのよね。たぶん結界の外に2重になっているんだと思うんだけど。今のわたくしにはこれ以上詳しい事は分からないかもしれないわ」

「2重ですか。でも、それって神様が結界を強化するためにやったんじゃないんですか?」

まさとくんは小さな顎に手を当て考える様子を見せた後、そう言った。魅録さんはそのことには全然興味がないみたいで、相変わらず海を眺めているようですがわたくしにからかわれなくなって安心しているようにも見えますわね。

「あの、天海がそんなこと考えると思う?」

「あぁ。それはないですよね。すみません。神様の性格、忘れてました。そうですよね。あの神様がそんなことするはずないですもんね」

「でしょー。ん?あぁ。空たちが目を覚ましたみたいね。すぐに行かないと。まさとくん。医務室に早く戻りましょう」

呆れたようにまさとくんに同意した後、わたくしはまさとくんと顔を見つめあって笑った。そのあと、空たちが光に包まれるような感じがあった。それでわたくしは空たちが目を覚ましたことが分かったのですわ。そうしたら、今すぐに空たちのもとに行きたくてたまらなくなったのですわ。

「うん?あぁ。あの人たち目を覚ましたんだ。分かった。すぐに行こう。でも、どうやって行くの?歩いて行く?それとも僕が飛んで連れてってあげようか?その方が歩くより早いよ」

そう言ってまさとくんは神様の家の方を見たのですわ。ここは海岸。つまりは島の端っこだから、島の真ん中に建つ神様の家は小さな島とはいえ歩いて行くとなると少し時間がかかってしまうの。そうたいして時間が掛かるわけではないけれど、わたくしは今すぐ会いに行きたいのですわ。

「いいえ。わたくしの力を使って行くことにいたしましょう。それなら一瞬で着きますから」

「へぇ。一瞬?ってことは瞬間移動?すごいね。そんなことも出来るんだぁ。ってそう言えば、昔、神様がそんなことしてた気がする」

目をキラキラさせて喜んだあと、天海がやっていたことを思い出してすこしガッカリしたようになったのですわ。天海が出来るってことはそんなに凄くないって判断なのかな?それってどうなんだろうか?まぁそんなことはいいですわね。そんなことより早く空たちのところに行かないと。

「さぁ早く。行くわよ」

そう言うとわたくしはまさとくんの手を取り、医務室の前に飛んだのですわ。まさとくんの言った通り、瞬間移動で。と、言っても能力的には瞬間移動と同じなのですが性格には少し違うのですわ。神様の力はもっと曖昧なものですからね、まぁ詳しい話はまたに致しましょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る