6 星ノ島で過ごす
わたくしたちは天海の家の医務室というところになってきましたわ。広間を出て、その先を真っ直ぐに歩いたところに医務室があったのですわ。そこは保健室ようだけど保健室よりどこか温かい感じだった。医務室に行くまでの壁にはお医者さんと子供たちの写真と子供たちの描いたイラストが沢山貼られていた。
「コンコン。失礼します」
まさむねさんは扉を2回優しくノックしたあと扉を丁寧に開けた。
「やぁ。まさむね。君がここに来るなんてどうしたんだ?おや?その方は?」
医務室の中には4つのベットが左右に2つずつ並んでいてそのに空たちが寝ていた。その窓側のベットに白衣を着た男の人がベットの傍に立って黒いバインダーに何かを書き込んでいる様子ですわ。
「まさのり兄さん。その人たち大丈夫なの?」
彼のお兄さんみたいね。そのまさのりさんは黒より茶色に近い、でも茶色って言うほど明るくはないこげ茶色って感じの色の髪で少しカールした感じでまさむねさんと同じ灰色の瞳。そして、まさむねさんと同じでとても美形な人ね。
まさむねさんと同じで少し耳の先端が尖っていますが。それぐらいで他はあまり吸血鬼感がないみたいね。服装も普通だから、吸血鬼だと言われなければ分からないでしょうね。顔はまさむねさんにそっくりですが、まさのりさんは銀縁のメガネをかけていますわね。
「あぁ。どうやら気絶しているだけのようなんだが。理由は全然分からないんだ」
そう言って彼は頭をかいて困ったようにしていますわね。
「そうなのですね。安心いたしましたわ」
そう言うとわたくしは空の手を触れてみました。ずっとこの白く美しい手に触れてみたいと願っていたのですがそれがこんな形で叶うとは思ってもいませんでしたわ。
空の手に触れたまましばらく感慨深くてぼーっとしてしまっていたが、ちゃんと胸が上下していることを確認して安心しましたわ。でも、その瞬間空の体から違和感を感じたのですわ。
「もしかして……。やっぱり……」
そう言ったきり私は何も言えなくなってしまったのですわ。なぜならわたくしはあの嫌な予感を思い出してしまったからなのですわ。この島で何か起こる。そう確信してしまったのです。そしてそれを運んできたのはわたくしだと。わたくしが空たちを止めなかったから。だから、ここに何か悪いものが侵入することになったのでしょう。
「あのどうかしたのですか?」
わたくしの声が聞こえたのでしょう、まさむねさんが心配そうにわたくしの顔を覗き込んでいらっしゃいました。意外と優しいのですね。
「いいえ。なんでもないわ」
わたくしは空の手に触れるのをやめて、まさむねの方を振り返り笑顔でそう返しましたわ。まだ確信もないなかでこんなことを言ってしまうのは不安にさせてしまうだけですわ。それは得策とは言えないでしょうね。だからこのことはまだ内緒にしておくことにいたしましょう。
「そうですか。なら、良かったです」
まさむねさんはまだ少し気になっているようだけどとりあえずは納得したみたいですわ。
「まあ、しばらくしたら目を覚ますでしょう」
メガネの真ん中を中指で押し上げながらまさのりさんがそう言った。
「これは目を覚ますまで待つしかないわね。なら、わたくしはこの島を見てきてもいいでしょうか?」
「もちろん。自由に見ていただいて構いませんよ。彼女たちが目を覚ましたら神様に連絡させましょうか?」
「いえ。空たちが目を覚ましたら分かるので大丈夫ですわ」
「そうですか。島の中を見て回るのでしたら案内をさせましょうか?」
「ありがとう。ではお願いするわ」
「分かりました。すぐに行かせますので、この家の玄関の前でお待ちいただけますか」
「ええ。もちろん。それで誰が案内していただけるのかしら?まさむねさん?」
「いえ、私は神様のところに行かなければいけませんので」
「じゃあ。どなたが?」
「それは、会ってからのお楽しみということで。この島には実に様々な種族が住んでいますので。楽しみにしていてください」
そう言ってまさむねさんはいだずらっ子のように笑ったのですわ。彼が笑ったのを初めて見ましたわね。それはとても魅力的で普通の人間なら見とれていたでしょうね。
「はい。楽しみにしていますわ。では、わたくしは行きますわね」
「いってらっしゃいませ。楽しんできてくださいね」
そう言ってまさむねは軽くお辞儀をしてわたくしを送り出してくれました。今回は笑顔を見せてはくれませんでしたがその口調はどこか誇らしげね。きっとこの島の事を故郷のように思っていて自慢なのでしょうね。なんだか子供のようで可愛いですわね。
「ありがとう」
わたくしはそう言うと医務室を出て行ったのですわ。
「こんにちは。あなたが天翔さま?」
わたくしの目の前に現れたのはまさむねさんによく似た少年でしたわ。とてもよく似てるけど、そう言って笑った目の前の少年はまさむねさんとは全然違う笑い方をしていますわ。それに目の前にいるのは少年ですわね。まさむねさんは青年ですもの。
「えぇ。そうですわ。あなたは?」
「僕はまさと。まさむね兄さんの弟だよ。びっくりした?」
「うん。びっくりした。まさむねさんがちっちゃくなっちゃったのかと思ったわ」
そう言って驚いたように笑ってあげながらわたくしはまさとくんの視線に合わせるため、しゃがんだのですわ。すると、まさとくんは嬉しそうに屈託なく笑って嬉しそうにこう言ったのですわ。
「ほんと?やったー!大成功だね!」
「大成功?」
「うん!まさむね兄さんが自分とそっくりなまさとが現れたらきっとびっくりするから驚かせようって。だから、女神様が驚いてくれたから大成功!」
「そうだったのね。じゃあ。大成功ね。おめでとう。まさとくん」
そう言ってまさとくんに笑いかけるとまさとくんは満面の笑顔で返してくれましたわ。それにしてもまさむねさんは意外とイタズラが好きな子供だったのね。なんだかちょっと可愛いわね。
「うん!それで、どこから回る?」
まさとくんはそう言ってわたくしのことを見て首を小さく傾げましたの。その仕草はとても可愛くついつい抱きしめたくなってしまうほどですわね。小さい子とはこんなにも可愛いのですのね。何もかもすべてが。何をしていてもそのすべてが可愛い。
「えっあっえっと。そうねぇ。じゃあ、まさとくんの好きな場所に案内してくれない?」
そう言うとまさとくんは嬉しそうに「いいよ!」と返事をしてわたくしの手を引っ張っていきましたの。
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