2 導きのままに
「ただいま」
空は家に帰り、何の感情も宿っていない声で今日もそう言ったの。
「おかえりなさい。空ちゃん。ん?なんか嬉しそうだけどなにかあったの~?」
空の母親のさやこさんがキッチンから顔を覗かせて可愛らしく小首を傾げてそう聞いたの。今日のさやこさんは薄いピンク色のふんわりとしたワンピースに赤色のチェックのエプロンを着けていた。とってもさやかさんにお似合いで可愛いわね。相変わらず。
それに空は無表情だと言うのにさやこさんには分かってしまうのですから恐ろしい人ですわよね。
「うん。沖縄旅行が当たったの」
「えっほんと~!やった~!もしかして商店街の福引のやつ~?」
さやこさんは子供みたいにピョンピョン飛び跳ねて喜んでいますわね。まったくさやこさんは喜びすぎですわよね。逆に。
「うん。そう。はい、これ」
そう言って空は買い物袋をさやこさんに手渡しましたわ。
「わぁ~すごいすごいすごい!すごいよ、空ちゃん!」
「あぁもう分かったから。これここに置いとくよ」
そう言って空はリビングのテーブルの上に買い物袋を置きましたわ。
「さやこさん?そんなにはしゃいで何かあった?」
空の兄の
海星は背の高い爽やかイケメンで小麦色の肌に母親似の茶色い髪に少しクセのあるカールした髪。彼は誰とでも仲良くなれる社交家なのですよ。
「それが、空ちゃんが沖縄旅行を当てたのよ~!」
「おぉ!空が。やっぱりうちの空はすごいな~。兄ちゃん嬉しいぞ」
海星は涙を流さんばかりに腕で目を覆い隠しながらそうとても嬉しそうに感激しているわ。相変わらずのシスコンね。
「あいかわらずね。兄さん。そんなに嬉しい?」
「もちろんだよ!空だって嬉しそうじゃないか。空は海が好きだもんなぁ~。沖縄旅行当たって良かったなぁ!うん。良かった良かった。きっと父さんも喜ぶだろうなぁ!父さんは海の男だからなぁ」
「そうだね」
空はそう言うと自分の部屋に入って行った。なぜか海星にも空の感情がお見通しみたいなのよね。この家族は本当に不思議なのよね。なぜわかるのかしら?ただの人間のはずですのに。
「ただいま。帰ったぞ。さえこさん、今日の晩御飯はなんだぁ~?」
空の父の夏海人さんは海上自衛隊に所属しているの。体格がよく、筋肉ムキムキの肌は黒く焼けていて黒髪はツンツンにとがっているの。豪快な海の男のイメージにぴったりの人なのです。
夏海人さんは機嫌よく豪快に扉を開けて入ってきましたの。
「そんなことより、
「おう!本当か!凄いな!よくやった!空。えらいぞぉー!」
そう言ってリビングのソファに座ってテレビを見ていた空のもとに行って、空の頭を豪快に撫でましたわ。まったく乱暴な人ね。
「ちょっと、父さん。痛い」
嫌そうに夏海人さんの手を払いのけながらも空はどこか嬉しそうですわね。
「おーすまん。すまん。で、いつごろ行くことになるんだ?」
夏海人さんは空の頭から手をどけて撫でるのをやめて、さやこさんの方を見てネクタイを緩めながらそう聞いたのですわ。
「えーっと。8月のはじめみたいよ~。楽しみねぇ~」
「おう!楽しみだな!」
「あっ父さん。お帰り。沖縄旅行の時、父さんは休めるの?」
「まっ何とかするから大丈夫だ!」
その間にさやこさんは夏海人さんの食事の準備をテキパキとすすめていたんですわ。
「はい。夏海人さん。夜ご飯の準備が出来ましたわよ~。今日はハンバーグなのですよ~」
「おう!いいな。俺の大好物だ!」
空たち家族はとても楽しそうでわたくしも嬉しい。
でも、空たちは沖縄に行く。
それはとても不安な事なのですわ。
空たちが沖縄に行くことになるのは分かっていましたが。
沖縄か神の島、そのどちらかに導かれた。
神の島なら安心できるような、出来ないような。
でも、どちらにせよ。空たちは沖縄に行き、神の島とやらに行くことになるのでしょう。
一体どうなってしまうのでしょうね。
それでもわたくしは何が起こるのか分からないこの状況にワクワクしてしまっているのかもしれません。
今までは普通に日常で平和で、それはそれで幸せではあったのですが。でも、何も起こらない。それはそれで退屈でつまらなかったのですわ。
平和はとても素晴らしいものなはずなのに。
それは分かっています。平和は素晴らしく、尊いものなのだと。
それをつまらないと感じることは良くないと理解しています。そんなことをしては罰が当たりますわね。この世界を平和にしようと頑張っている人が、神がいる。
この世界のすべての生きとし生けるものがみな、幸せで笑顔でいられるように。
それはとても素晴らしい事でわたくしもそれを望んでいますわ。
でも、何か起こらないかと期待してしまっているわたくしがいるのも事実。
刺激を求めてしまう。
この世界はまだ平和とは言えない。戦争がなくなってもそれで犯罪がなくなったわけでもないし、戦争は形を変えただけなのだと思いますわ。
だから、わたくしは本当の意味で平和にこの世界がなるように。この世界に生きとし生けるものすべてが笑顔で幸せになるよう尽力出来ればと考えているのですわ。
ってことにしておいてくれませんか。それもまた事実なのですから。
だから決してわたくしが楽しい事が好きなだけではないのですわ。
ワクワクしてしまってはいますけど、それは何か起こるというワクワクではなくて誰かを救えるというワクワクなのですわ。
でも、それって救いを求めている人がいるということですが。
何が起ころうとも必ずわたくしが空たちのことを守って見せますわ。
それがわたくしが空に憑いている意味なのですから。
わたくしの存在価値は主を守る事。
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